欲を食らわば墓まで
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自由行動の時間がやってきた。班のリーダーである花井が、同じ班の女子達に集合を掛ける。
「それじゃあ、グループトークも作ったことだし、今からはそれぞれ自由に動こうか。くれぐれも集合時間には遅れないようにな」
各々返事をしながら頷く。それから解散になったところで、オレは名前の元へと駆け寄った。
「名前、オレと一緒に回らねえか?」
そう声を掛けると、彼女は宙に視線を這わせて、何かを考え込む。女子と回る約束でもしていたのだろうか。不安を抱えながら見ていると、名前がこちらに向き直った。
「由比ヶ浜海岸に行こうと思ってるんだけど、それでも良いかな?」
特に興味があるわけではないが、他に行きたいところもない。なによりこいつと一緒に居たいので、二つ返事で了承した。
***
「実は今日の遠足、休むつもりだったんだ。でも隆也と同じ班になったから、参加することにしたの」
由比ヶ浜へと向かうバスの中で、名前が唐突に切り出した。平日だからなのかバス内は空いており、オレ達は二人席に並んで腰掛けている。
「どうして休もうとしてたんだ?」
「野暮な話、費用が嵩 むからね」
「そんなに切羽詰まってんのか?」
前に貧乏だと自称していたが、実際ヤバいのかもしれない。気の毒に思っていると、彼女は「私一人で生計を立てているから」と何食わぬ顔で衝撃的な答えを返してきた。
「は!?」
「一人暮らしする時に、自立するって決めたの」
「高校生で自立するって……現実的に可能なのか?」
こいつを知る程、謎が増えていく。聞きたいことが沢山ある中で、とりあえず純粋な疑問を投げてみた。
「可能だよ。切り詰めていけば、扶養内でも自立できる。特待生だから学費も免除されているしね。今回のような旅費は自費になるんだけど」
「えっと、その……名前の家族は?」
なんとなく訳がありそうなので聞き難い。が、どうしても気になった。彼女はオレの不躾な質問に、嫌な顔をするどころか、慈しむように微笑を浮かべる。
「ちゃんと生きてるよ。実家には両親と姉が居るんだ」
もしかしたら……なんて思ったが、考え過ぎだったらしい。オレが胸を撫で下ろしていると、それを見た名前がくすくすと笑う。
「まあ、複雑な家庭ではあるんだけどね」
「え」
「だから正直な話、幸せそうな家族を見ると、羨ましいって思ってしまうよ。家族が毎日弁当を手作りしてくれたり、汚れた制服を綺麗にしてくれる。そんな経験が、私には無いからね」
その言葉に嫌味は一切感じられない。ただ本当に心からの羨望が、痛々しい寂しさを生み出して、胸がキツく締め付けられる。
「私がどれだけ羨もうと、事実は変わらない。だけど環境を変えれば現実は変わる。そう思って一人暮らしを始めたんだ」
オレがこいつを幸せにしてやりたい。そんな気持ちが新たに芽生えた。
「それじゃあ、グループトークも作ったことだし、今からはそれぞれ自由に動こうか。くれぐれも集合時間には遅れないようにな」
各々返事をしながら頷く。それから解散になったところで、オレは名前の元へと駆け寄った。
「名前、オレと一緒に回らねえか?」
そう声を掛けると、彼女は宙に視線を這わせて、何かを考え込む。女子と回る約束でもしていたのだろうか。不安を抱えながら見ていると、名前がこちらに向き直った。
「由比ヶ浜海岸に行こうと思ってるんだけど、それでも良いかな?」
特に興味があるわけではないが、他に行きたいところもない。なによりこいつと一緒に居たいので、二つ返事で了承した。
***
「実は今日の遠足、休むつもりだったんだ。でも隆也と同じ班になったから、参加することにしたの」
由比ヶ浜へと向かうバスの中で、名前が唐突に切り出した。平日だからなのかバス内は空いており、オレ達は二人席に並んで腰掛けている。
「どうして休もうとしてたんだ?」
「野暮な話、費用が
「そんなに切羽詰まってんのか?」
前に貧乏だと自称していたが、実際ヤバいのかもしれない。気の毒に思っていると、彼女は「私一人で生計を立てているから」と何食わぬ顔で衝撃的な答えを返してきた。
「は!?」
「一人暮らしする時に、自立するって決めたの」
「高校生で自立するって……現実的に可能なのか?」
こいつを知る程、謎が増えていく。聞きたいことが沢山ある中で、とりあえず純粋な疑問を投げてみた。
「可能だよ。切り詰めていけば、扶養内でも自立できる。特待生だから学費も免除されているしね。今回のような旅費は自費になるんだけど」
「えっと、その……名前の家族は?」
なんとなく訳がありそうなので聞き難い。が、どうしても気になった。彼女はオレの不躾な質問に、嫌な顔をするどころか、慈しむように微笑を浮かべる。
「ちゃんと生きてるよ。実家には両親と姉が居るんだ」
もしかしたら……なんて思ったが、考え過ぎだったらしい。オレが胸を撫で下ろしていると、それを見た名前がくすくすと笑う。
「まあ、複雑な家庭ではあるんだけどね」
「え」
「だから正直な話、幸せそうな家族を見ると、羨ましいって思ってしまうよ。家族が毎日弁当を手作りしてくれたり、汚れた制服を綺麗にしてくれる。そんな経験が、私には無いからね」
その言葉に嫌味は一切感じられない。ただ本当に心からの羨望が、痛々しい寂しさを生み出して、胸がキツく締め付けられる。
「私がどれだけ羨もうと、事実は変わらない。だけど環境を変えれば現実は変わる。そう思って一人暮らしを始めたんだ」
オレがこいつを幸せにしてやりたい。そんな気持ちが新たに芽生えた。