欲を食らわば墓まで
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あれから難なく鍵が手に入り、図書室の前へとやって来た。苗字が手慣れた様子で開錠し、扉を開くと古本特有の香りが鼻腔をくすぐる。騒がしい廊下とは違い、図書室はとても静かだ。長机にプラカードを置いて座ると、彼女も隣の椅子に腰掛けた。
「お前、教室で暗い顔してたけど、何考えてたんだ?」
気になっていたことを質問してみると、苗字は顎に手を当てながら考える。それから思い出したのか、ゆっくりと口を開いた。
「友達について考えていたんだよ」
「友達?それにしては深刻そうだったけど」
「友達の居ない人間が、友達について考えるんだから、暗い顔にもなるでしょう」
そう言う彼女は、自嘲気味に笑う。確かにこの性格では、友達を作るのに苦労しそうだ。が、クラスメイトと話す様子は見るし、勉強を教えて欲しいと頼まれている所も、何度か見たことがある。その度にこいつは快く引き受けているので、クラスで浮いているという訳でもない。
それよりも、なによりも。
「オレが居るじゃねえか」
ぽろりと口から言葉が零れた。苗字はぽかんとした様子でオレを見つめている。
「私と阿部が友達?」
そう言われて、はっと気が付いた。席が隣同士だからよく喋るだけで、休日に遊ぶどころか、昼食を共にすることもない。それなのに何を言っているんだろう。
「いや、迷惑なら良いんだけど」
慌てて取り繕うと、彼女は頬を緩ませて、くすくすと笑いだした。
「友達って言ってくれて嬉しいよ。でも、連絡先も知らない友達って、儚いと思わない?」
苗字は浴衣の帯から、そっとスマホを取り出す。どうやら連絡先の交換をしたいらしい。彼女に好意のあるオレとしては、願ったり叶ったりだ。
「それもそうだな。それじゃ、これ」
トークアプリのQRコードを差し出すと、それを苗字がスマホで読み取る。暫くしてから〝これからよろしく〟という簡素なメッセージが届いた。彼女のアイコンには、黒い猫が映っている。
「猫飼ってるのか?」
「ううん。猫カフェに行った時の写真だよ。毎週通いたいくらいなんだけど、なにせ貧乏だからね。でもこうやってアイコンにすれば、画面越しに会えるでしょう?」
猫が好きらしい苗字は、朗らかに笑いながら話している。連絡先と新しい情報を手に入れたオレが、機嫌良くそれを眺めていると、彼女はニコニコしながら「そうだ」と声を上げた。
「折角だから、友達らしく、名前で呼んでみない?」
「え。いいけど」
突然の提案に驚きながらも了承すると、苗字は更に顔を明るくした。
「それじゃあ、隆也。これからは友達として、宜しくね」
「おう。宜しくな、名前」
名前呼びに胸を躍らせながら、目の前に差し出された、一回り小さい手を軽く握る。柔らかく滑らかな手のひらから、彼女の体温がじんわりと伝わってくる中で、名前の方を見ると幸せそうに笑っていた。
「お前、教室で暗い顔してたけど、何考えてたんだ?」
気になっていたことを質問してみると、苗字は顎に手を当てながら考える。それから思い出したのか、ゆっくりと口を開いた。
「友達について考えていたんだよ」
「友達?それにしては深刻そうだったけど」
「友達の居ない人間が、友達について考えるんだから、暗い顔にもなるでしょう」
そう言う彼女は、自嘲気味に笑う。確かにこの性格では、友達を作るのに苦労しそうだ。が、クラスメイトと話す様子は見るし、勉強を教えて欲しいと頼まれている所も、何度か見たことがある。その度にこいつは快く引き受けているので、クラスで浮いているという訳でもない。
それよりも、なによりも。
「オレが居るじゃねえか」
ぽろりと口から言葉が零れた。苗字はぽかんとした様子でオレを見つめている。
「私と阿部が友達?」
そう言われて、はっと気が付いた。席が隣同士だからよく喋るだけで、休日に遊ぶどころか、昼食を共にすることもない。それなのに何を言っているんだろう。
「いや、迷惑なら良いんだけど」
慌てて取り繕うと、彼女は頬を緩ませて、くすくすと笑いだした。
「友達って言ってくれて嬉しいよ。でも、連絡先も知らない友達って、儚いと思わない?」
苗字は浴衣の帯から、そっとスマホを取り出す。どうやら連絡先の交換をしたいらしい。彼女に好意のあるオレとしては、願ったり叶ったりだ。
「それもそうだな。それじゃ、これ」
トークアプリのQRコードを差し出すと、それを苗字がスマホで読み取る。暫くしてから〝これからよろしく〟という簡素なメッセージが届いた。彼女のアイコンには、黒い猫が映っている。
「猫飼ってるのか?」
「ううん。猫カフェに行った時の写真だよ。毎週通いたいくらいなんだけど、なにせ貧乏だからね。でもこうやってアイコンにすれば、画面越しに会えるでしょう?」
猫が好きらしい苗字は、朗らかに笑いながら話している。連絡先と新しい情報を手に入れたオレが、機嫌良くそれを眺めていると、彼女はニコニコしながら「そうだ」と声を上げた。
「折角だから、友達らしく、名前で呼んでみない?」
「え。いいけど」
突然の提案に驚きながらも了承すると、苗字は更に顔を明るくした。
「それじゃあ、隆也。これからは友達として、宜しくね」
「おう。宜しくな、名前」
名前呼びに胸を躍らせながら、目の前に差し出された、一回り小さい手を軽く握る。柔らかく滑らかな手のひらから、彼女の体温がじんわりと伝わってくる中で、名前の方を見ると幸せそうに笑っていた。