欲を食らわば墓まで
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文化祭当日――オレは花井と水谷が、準備の手伝いをする様子を、ぼんやりと眺めていた。文化祭開始まで、十分程の時間がある。
暇だな。そう思い辺りを見回すと、浴衣にエプロンを付けた姿の、苗字が目に入った。普段下ろされている黒髪は、後ろで纏められている。暗い顔をして下を向き、何やら考え込んでいるようだ。
「苗字、何考えてるんだ?」
話しかけると、彼女が顔を上げた。色白の肌はいつも以上に滑らかで、瞳を縁取る長いまつ毛が上を向いている。頬と唇はほんのりと赤く染まり、その美しさに思わず息を呑んだ。
「……阿部こそ、何を考えているの?」
痛いところを突かれて押し黙っていると、苗字は口の端を吊り上げて、悪戯な笑みを浮かべる。
「もしかして、見惚れてた?」
何かを言わなければと、口をパクパクと動かすが、良い言葉が出てこない。そんなオレを見て、彼女は口元を手で隠しながら、くすくすと楽しそうに笑う。
「そんなに慌てなくても。冗談だよ」
冗談と分かり胸を撫で下ろしていると、クラスメイトの高橋がプラカードを持って、こちらにやって来た。
「苗字似合ってんじゃん」
「それはどうも。それより接客の代わりに、奢るって約束は忘れてないよね?」
「当たり前だろ。っつーか悪いんだけど、今からこのプラカード持って、二十分くらい呼び込みして来てくれない?」
彼の持つプラカードには、一年七組グリーンティーカフェと大きく書かれている。和装でコレを持って立っているだけで、それなりに目立つだろう。苗字は少し考えてから、ゆっくりと頷いた。
「うん、良いよ。でも一人だと心細いから、阿部と一緒に行ってきても良いかな?」
「おー、それじゃあ二人で行ってきてくれ!」
高橋はプラカードを苗字に渡し、持ち場へと消えていく。その姿を見送った後、オレ達は二人で教室を後にした。肩を並べながら廊下を歩いていると、苗字が立ち止まる。
「これからどうする?阿部の行きたい所があるなら、そこに行くよ」
「は?……お前、最初からサボる気でいたのか」
「そうだけど。客引きしたいなら、私もそうするよ」
オレに判断を委ねる辺りが狡いと思う。が、正直な所オレもサボりたかったので丁度良い。
「その格好で出回っても目立つし、何よりプラカードが邪魔だからな。空き教室にでも行くか」
「良い案だけど、施錠されているだろうね。そうだ、図書室に行かない?私、自由に図書室の鍵を借りても良いって言われてるの」
「流石に今借りるのは怪しまれねえか?」
文化祭真っ只中に、図書室の鍵を借りる奴なんて、滅多に居ないだろう。そう思ったのも束の間、
「私が勉強するって言えば、誰も疑問に思わないでしょう?」
と苗字が答えた。確かに勉強熱心で優等生のこいつには、文化祭の最中でも勉強に励むだろうという説得力がある。納得したオレは、彼女の意見へ乗っかることにした。
暇だな。そう思い辺りを見回すと、浴衣にエプロンを付けた姿の、苗字が目に入った。普段下ろされている黒髪は、後ろで纏められている。暗い顔をして下を向き、何やら考え込んでいるようだ。
「苗字、何考えてるんだ?」
話しかけると、彼女が顔を上げた。色白の肌はいつも以上に滑らかで、瞳を縁取る長いまつ毛が上を向いている。頬と唇はほんのりと赤く染まり、その美しさに思わず息を呑んだ。
「……阿部こそ、何を考えているの?」
痛いところを突かれて押し黙っていると、苗字は口の端を吊り上げて、悪戯な笑みを浮かべる。
「もしかして、見惚れてた?」
何かを言わなければと、口をパクパクと動かすが、良い言葉が出てこない。そんなオレを見て、彼女は口元を手で隠しながら、くすくすと楽しそうに笑う。
「そんなに慌てなくても。冗談だよ」
冗談と分かり胸を撫で下ろしていると、クラスメイトの高橋がプラカードを持って、こちらにやって来た。
「苗字似合ってんじゃん」
「それはどうも。それより接客の代わりに、奢るって約束は忘れてないよね?」
「当たり前だろ。っつーか悪いんだけど、今からこのプラカード持って、二十分くらい呼び込みして来てくれない?」
彼の持つプラカードには、一年七組グリーンティーカフェと大きく書かれている。和装でコレを持って立っているだけで、それなりに目立つだろう。苗字は少し考えてから、ゆっくりと頷いた。
「うん、良いよ。でも一人だと心細いから、阿部と一緒に行ってきても良いかな?」
「おー、それじゃあ二人で行ってきてくれ!」
高橋はプラカードを苗字に渡し、持ち場へと消えていく。その姿を見送った後、オレ達は二人で教室を後にした。肩を並べながら廊下を歩いていると、苗字が立ち止まる。
「これからどうする?阿部の行きたい所があるなら、そこに行くよ」
「は?……お前、最初からサボる気でいたのか」
「そうだけど。客引きしたいなら、私もそうするよ」
オレに判断を委ねる辺りが狡いと思う。が、正直な所オレもサボりたかったので丁度良い。
「その格好で出回っても目立つし、何よりプラカードが邪魔だからな。空き教室にでも行くか」
「良い案だけど、施錠されているだろうね。そうだ、図書室に行かない?私、自由に図書室の鍵を借りても良いって言われてるの」
「流石に今借りるのは怪しまれねえか?」
文化祭真っ只中に、図書室の鍵を借りる奴なんて、滅多に居ないだろう。そう思ったのも束の間、
「私が勉強するって言えば、誰も疑問に思わないでしょう?」
と苗字が答えた。確かに勉強熱心で優等生のこいつには、文化祭の最中でも勉強に励むだろうという説得力がある。納得したオレは、彼女の意見へ乗っかることにした。