1章 蕾

 帝都ていと。それはこの国で最も栄えた都市である。見渡す限りの美しい建物や物珍しい品々。科学と神秘の共存を果たし、文明が寄せ集められたまさに人類の象徴。
 誰もが憧れ、誰もが望む栄華がそこにあると人々は手を伸ばす。けれど帝都唯一の汚点が存在する。
 魔障ましょう。輝かしい文明の発達と共に生まれた人ならざる御業。人の生み出した正真正銘の化け物、時代の淀みである。そしてその淀みは、人類の脅威として常に潜んでいる。帝都のみならず他国でも同様。文明の栄えた場所には魔障が付きまとうものだ。
 当然ながら、驚異に怯えるだけの人類ではない。人類は対抗策として、魔障を討伐できる部隊を各国に結成している。それは帝都も例外ではなく、常に最前線にいる主戦力とも言われる部隊だ。そして帝都の人々は彼らを『覡隊かんなぎたい』そう呼んだ。

「本当に人が足らねぇよなぁ。どんなに働いても一向に仕事は減らねぇし」
 小言とため息が盛大に漏れる。焦げ茶の髪をハーフアップにし、耳にはピアスを開けた橙色の瞳を持つ青年は浮かない表情をみせる。どことなく軽薄な印象を与える。その青年は気の向かない重さを見せつつも、足速に帝都中心部にある王宮に入る。背には斧、雄黄色のラインが入った黒の軍服を身に纏う。
「常に人手不足なんだ。仕方がないだろう」
 気配なく青年の後に続く眼鏡姿の男も同じ軍服を身に纏う。短い黒髪を靡かせ、緑色の瞳をレンズ越しに動かす。狙撃銃を手に持つ姿は寡黙な印象を抱かせる。青年と並び、足速に王宮内を歩く。そして男は思い出したように懐から資料を取り出す。
瀬戸せと、そういえば今日から新人が一人はいる」
 瀬戸と呼ばれた青年は表情を輝かせ資料を受け取る。足はとめず資料に目を通し口角を上げる。
「面白そうな奴が入ってくるじゃん!でかしたぞ!香取かとり
 瀬戸は香取に腕を回し肩を組む。体勢は崩せど足はやはり止めずに目的地へと向かう。先程までの思い足取りとは違い、少しだけ軽やかさが伺える。
「既に応接室で待ってるはずだからな」
「うんと歓迎してやらねぇとなぁ!ようこそ覡隊へ!」
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