涙のわけ
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ダン ダン ダン
シュッ
スパッ
ダン ダン ダン・・・
「・・・あれ?」
「どうした、仙道」
外も暗くなりかけた頃、部活を終えた魚住と仙道は、帰宅しようと校門に向かって歩いていた。
「魚住さん、今ボールの音がしませんでした?」
「そうか?俺は分からなかったが・・・」
二人は足を止め、揃って体育館の方を見る。
誰かがいるならば、体育館に電気が点いているだろうが・・・
彼らのいる場所からでは、そこまで分からなかった。
「誰もいないだろ」
魚住は帰るぞ、と言って先ほどまで歩いていた方向へ歩き出した。
「・・魚住さん、俺、ちょっと見てくるんで、先に帰ってて下さい」
「おい、仙道!」
いつもはそこまで気に留めない仙道だが、なぜか今日は呼び止める魚住を振り切り、自分の耳を信じて体育館へと戻っていった。
仙道が体育館まで来ると、自分達が消したはずの電気が点いていた。
先ほどの場所からでは、やはり見えないだけで誰かがいる。
そして中からはボールの音が聞こえてくる。
ダン ダン ダン
シュッ
スパッ
「やっぱり誰かいる?」
そっと体育館の扉を開けて、隙間から中を見た仙道は、ハッと息をのんだ。
1人の女子がキレイなフォームでシュートをしていた。
…その瞳からは、涙が流れているように見えた。
「蓮見さん??」
そこにいたのは同じクラスの蓮見理緒だった。
クラスでも明るい存在で、涙などは見せたことがない彼女。
その明るさと可愛らしい容姿も相まって、仙道が内心惹かれていた人物だった。
ダン ダン ダン
シュッ
スパッ
規則正しい音をたてて、ボールはネットを通っていく。
彼女はボールを手にすると決まって、瞳からこぼれ落ちる涙を手で拭った。
あまりにキレイなその一連の動作に、仙道は目を奪われた。
キィーー
「っ、ヤバっ」
ガラッ
「!!誰!?」
気をとられていた仙道は、無意識に扉を少し開いてしまった。
その拍子に扉が音をたて、理緒がこちらに勢いよく顔を向ける。
仙道はバツが悪そうに、静かに扉を開けた。
「・・・仙道君・・・」
「ごめん。ボールの音がしたから来てみたんだ」
「ううん、いいの。こちらこそ、勝手にボールを使っちゃってごめんね」
理緒はそう言って、涙を隠すように手で拭きながら、ためらいがちに笑った。
「・・そうだ。蓮見さん、バスケうまいんだね!フォームもキレイだし」
気まずい雰囲気を何とかしようと話題を探す仙道に、理緒は少し俯いたあと
「そう?教えてくれた人が上手だったからかな」
そう言いながらボールを見て微笑した。
そして、これしか入らないんだけどね、と仙道の方を向いた。
「誰が教えてくれたの?」
「・・・・・」
「あっ、言いたくなければ別にいいんだけど」
思わず自然に口から出た質問。
仙道は軽い気持ちで聞いたのだが、理緒の深刻そうな表情を見て、急いで取り繕う。
二人の間に少しの沈黙が流れた。
仙道はそっと体育館に入り、理緒の方へ近寄っていく。
「・・・どうして泣いていたのか、聞いてもいいかな?」
仙道が沈黙を破り、気になっていたことを理緒に問う。
「やっぱり泣いてたの、バレてるよね・・」
少し気まずそうに笑みを浮かべる理緒。
そのあとにふぅ、と小さく息を吐き、話し始めた。
「つまんない話だけど・・・海南の神って知ってる?」
「海南の神、ってあのスリーポイントシューターの?」
「うん。私、神君と付き合ってたの。シュートを教えてくれたのも神君だった」
「!?蓮見さん、彼氏いたんだ・・」
容姿も性格も良い理緒は、当然男子の中でも人気があったが、誰の告白にも応えず、それを周りは不思議に思っていた。
仙道もそのうちの1人だったが、思わぬ形でその謎が解けた。
「そういうこと。でももうフラれちゃったんだけどね」
何かをこらえるような顔で理緒は笑った。
「『大事な夏に向けて練習も多くなるし、あまり会えなくなるから。』って」
そう言うと、手に持っていたボールをおもむろに見つめて、
「嫌われたわけじゃない。神君も辛そうだった」
言い切るより早く、ボールを動かし始める。
ダン ダン ダン
シュッ
スパッ
「いっそ嫌われてフラれた方が、私の気も楽になったのに。ひどいなーなんて思っちゃうくらい辛くて。でも優しい人だった」
ダン ダン ダン
シュッ
スパッ
「だから別れて1ヶ月経った今でも、まだ忘れられない。引きずりすぎて泣けてくる。。」
ダン ダン ダン
シュッ
「俺がいるのに」
ガンッ
「え・・・?」
黙って話を聞いていた仙道が、突然発した言葉に理緒は驚いた。
さっきまで一定のリズムで、まったく外さなかったシュートが外れた。
ネットを通らなかったボールがリングに当たり、足元までコロコロと転がってくる。
「引きずるくらいならこっちを見て欲しい。こんなに近くに蓮見さんを好きだっていう人がいるんだから」
「こんなに近くに?」
「うん」
不思議がる理緒を見つめながら、自分を親指で指す仙道。
「えっ・・仙道君が私を・・・好き!?」
「まだ言うつもりなかったんだけどな」
そう言って、手で口を覆ったまま固まっている理緒の方を向きながら、仙道は困ったように笑った。
数秒してから、理緒がそっと口を開く。
「仙道君・・・でも・・・」
「ねぇ蓮見さん?蓮見さんがどうして神のこと忘れられないか分かるか?」
理緒は断ろうとした矢先の仙道からの質問に、続く言葉を飲み込んだ。
忘れようとしても忘れられない。
どんなに頑張っても、神のことを考えてしまう。
きちんとフッてくれなかった神のせい・・そう考えてしまうことも辛かった。
その答えを仙道は知っているというのか。
「教えてほしい?」
「・・・うん・・・」
理緒の返事を待って、仙道は理緒に歩み寄った。
途端、160cmの理緒の体は、190cmの仙道によって宙に浮いた。
「お~軽いな~」
「えっ!?ちょ、何!?ちょっと仙道君!?」
驚く理緒を嬉しそうに見つめながら、自信ありげに伝える。
「それは、前を向こうとしないからだよ」
「前を?」
「そう。前を向いて、新しい恋をする」
「えっ?」
「振り返ってばかりだから、思い出だけがいつまでも蓮見さんを支配してしまう。なっ?単純だろ?」
理緒にとって、それはひどく意外な言葉だった。
過去に囚われていた自覚がなかった、と言ったほうが正しいかもしれない。
別れを告げられてから、前を向こうなんて・・周りに目を向けようなんて、思えなかった。
サラっとそう言う仙道を見て、理緒はあっけにとられた。
自分があれだけ悩んだことを、まさかこんな答えで解決されるなんて。
仙道の言葉には根拠も理由もないけれど、理緒は心が軽くなるのを感じた。
「・・・そう・・かもしれない、ね・・」
好きな気持ちは中々消えない。
思い出は温かく、それでいて辛い。
でもどこかで分かっていた・・戻れないなら、前を向かなければ。
ニコっと笑う仙道に、理緒も笑顔で返す。
その笑みからは辛そうな表情が消え、泣いて赤くなった目元だけを残して、明るさを取り戻していく。
「じゃあその最初の相手に俺を選んでくれる?」
この人といたら、本当に傷が癒えるかもしれない。
こんなにも心を軽くしてくれたのだからーー。
「・・・はい・・・」
まっすぐ仙道を見つめて答えた。
仙道は理緒の返事に満足そうな顔をしてから、ふと気付く。
この広い体育館でお姫様だっこを強行して告白という、自分の異様な光景に。
仙道の表情から、理緒も気付いたようで・・
「あっははははは」
「ふっ、はっはっは」
2人の笑い声がいつまでも響いていた。
=2ヵ月後=
「あ~~緊張する!!」
「何で??」
「だって!今日は海南との試合じゃない!!」
ジュースを買いに、2人はインハイ予選会場の自販機に向かっていた。
落ち着きはらっている仙道とは真逆に、応援する側の理緒は人一倍緊張していた。
決勝リーグ、陵南にとっては全国行きの切符がかかっている。
昨日武里戦で勝利はしたものの、今日の相手は王者海南、油断は出来ない一戦だ。
「緊張って、試合が?それとも神に会うのが?」
仙道はニッと笑って理緒を見た。
「もー彰のいじわる・・・試合に決まってるじゃないー!」
理緒は紅茶のボタンを押しながら、そりゃあ神君に会うのも緊張するけど・・・と小さく付け足した。
「大丈夫、今は俺の彼女なんだから」
仙道は笑って水を買い、理緒の頭をポンっと叩いた。
「あれ、理緒??」
「はい?・・・って、神君・・」
仙道と理緒がじゃれあっていると、後ろから聞き覚えのある声が理緒を呼び止めた。
「久しぶりだな。3ヶ月ぶりくらいかな、元気だった?」
「・・うん。神君も元気そうだね」
あまりにもタイミングよく現れた神に、理緒は動揺を隠せなかった。
仙道と付き合ったことで吹っ切れたとはいえ、別れてから初めての再会。
平静を保てる余裕が、今の理緒にはまだなかった。
すると神の後方から、海南のジャージを着た人物が向かって来る。
「よぉ、仙道。なんだ、蓮見も一緒か?」
「あんたは・・・海南の牧さん」
「牧さん、お久しぶりです」
「元気そうで何よりだ」
神と別れて以来になるため、牧と会うのも久しぶりだ。
当然牧も神とのことを知っているんだろうが、何も言わないどころか、態度にも表情にも出さないところに、理緒は救われた思いがした。
「今日はお前と勝負するのが楽しみだな、仙道」
「俺の方こそ。今日はよろしくお願いしますよ」
牧と仙道は軽く握手をしたのち、
「じゃあ、また後で。おい、神。行くぞ」
「理緒、俺たちもそろそろ行こう」
仙道は理緒にやわらかく微笑んだ。
「うん」
「あっ、理緒!」
仙道と行こうとする理緒を、神が呼び止めた。
緊張が走り、思わず手のひらをぎゅっと握りしめた。
「今日も、前みたいに『頑張って』って言って欲しい」
「えっ」
「理緒に言われると、頑張れるから」
「・・・」
理緒はほとんど無意識に近い形で仙道の方を見る。
戸惑いを隠さない理緒の表情に、自分を頼ってくれていると分かった仙道は満足そうに微笑むと、理緒の頭をポンポンと軽く叩いた。
「理緒?」
「神君・・・それは出来ない」
「どうして?」
理緒は仙道の方を向いてニコッと笑みを返すと、意を決したように小さく息を吐いてから、神の方を向いて
「私は陵南の応援を・・彰を応援するの」
「理緒・・・」
「それじゃあ行くね、バイバイ」
理緒と仙道が去っていく後姿を、神は少しの間見つめていた。
やけに頭に残る、バイバイの言葉。
「やっぱり、もうだめか。仙道にやられたな」
神はその場でそうつぶやいた後、下唇を少し噛み締め、牧を追いかけていった。
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シュッ
スパッ
ダン ダン ダン・・・
「・・・あれ?」
「どうした、仙道」
外も暗くなりかけた頃、部活を終えた魚住と仙道は、帰宅しようと校門に向かって歩いていた。
「魚住さん、今ボールの音がしませんでした?」
「そうか?俺は分からなかったが・・・」
二人は足を止め、揃って体育館の方を見る。
誰かがいるならば、体育館に電気が点いているだろうが・・・
彼らのいる場所からでは、そこまで分からなかった。
「誰もいないだろ」
魚住は帰るぞ、と言って先ほどまで歩いていた方向へ歩き出した。
「・・魚住さん、俺、ちょっと見てくるんで、先に帰ってて下さい」
「おい、仙道!」
いつもはそこまで気に留めない仙道だが、なぜか今日は呼び止める魚住を振り切り、自分の耳を信じて体育館へと戻っていった。
仙道が体育館まで来ると、自分達が消したはずの電気が点いていた。
先ほどの場所からでは、やはり見えないだけで誰かがいる。
そして中からはボールの音が聞こえてくる。
ダン ダン ダン
シュッ
スパッ
「やっぱり誰かいる?」
そっと体育館の扉を開けて、隙間から中を見た仙道は、ハッと息をのんだ。
1人の女子がキレイなフォームでシュートをしていた。
…その瞳からは、涙が流れているように見えた。
「蓮見さん??」
そこにいたのは同じクラスの蓮見理緒だった。
クラスでも明るい存在で、涙などは見せたことがない彼女。
その明るさと可愛らしい容姿も相まって、仙道が内心惹かれていた人物だった。
ダン ダン ダン
シュッ
スパッ
規則正しい音をたてて、ボールはネットを通っていく。
彼女はボールを手にすると決まって、瞳からこぼれ落ちる涙を手で拭った。
あまりにキレイなその一連の動作に、仙道は目を奪われた。
キィーー
「っ、ヤバっ」
ガラッ
「!!誰!?」
気をとられていた仙道は、無意識に扉を少し開いてしまった。
その拍子に扉が音をたて、理緒がこちらに勢いよく顔を向ける。
仙道はバツが悪そうに、静かに扉を開けた。
「・・・仙道君・・・」
「ごめん。ボールの音がしたから来てみたんだ」
「ううん、いいの。こちらこそ、勝手にボールを使っちゃってごめんね」
理緒はそう言って、涙を隠すように手で拭きながら、ためらいがちに笑った。
「・・そうだ。蓮見さん、バスケうまいんだね!フォームもキレイだし」
気まずい雰囲気を何とかしようと話題を探す仙道に、理緒は少し俯いたあと
「そう?教えてくれた人が上手だったからかな」
そう言いながらボールを見て微笑した。
そして、これしか入らないんだけどね、と仙道の方を向いた。
「誰が教えてくれたの?」
「・・・・・」
「あっ、言いたくなければ別にいいんだけど」
思わず自然に口から出た質問。
仙道は軽い気持ちで聞いたのだが、理緒の深刻そうな表情を見て、急いで取り繕う。
二人の間に少しの沈黙が流れた。
仙道はそっと体育館に入り、理緒の方へ近寄っていく。
「・・・どうして泣いていたのか、聞いてもいいかな?」
仙道が沈黙を破り、気になっていたことを理緒に問う。
「やっぱり泣いてたの、バレてるよね・・」
少し気まずそうに笑みを浮かべる理緒。
そのあとにふぅ、と小さく息を吐き、話し始めた。
「つまんない話だけど・・・海南の神って知ってる?」
「海南の神、ってあのスリーポイントシューターの?」
「うん。私、神君と付き合ってたの。シュートを教えてくれたのも神君だった」
「!?蓮見さん、彼氏いたんだ・・」
容姿も性格も良い理緒は、当然男子の中でも人気があったが、誰の告白にも応えず、それを周りは不思議に思っていた。
仙道もそのうちの1人だったが、思わぬ形でその謎が解けた。
「そういうこと。でももうフラれちゃったんだけどね」
何かをこらえるような顔で理緒は笑った。
「『大事な夏に向けて練習も多くなるし、あまり会えなくなるから。』って」
そう言うと、手に持っていたボールをおもむろに見つめて、
「嫌われたわけじゃない。神君も辛そうだった」
言い切るより早く、ボールを動かし始める。
ダン ダン ダン
シュッ
スパッ
「いっそ嫌われてフラれた方が、私の気も楽になったのに。ひどいなーなんて思っちゃうくらい辛くて。でも優しい人だった」
ダン ダン ダン
シュッ
スパッ
「だから別れて1ヶ月経った今でも、まだ忘れられない。引きずりすぎて泣けてくる。。」
ダン ダン ダン
シュッ
「俺がいるのに」
ガンッ
「え・・・?」
黙って話を聞いていた仙道が、突然発した言葉に理緒は驚いた。
さっきまで一定のリズムで、まったく外さなかったシュートが外れた。
ネットを通らなかったボールがリングに当たり、足元までコロコロと転がってくる。
「引きずるくらいならこっちを見て欲しい。こんなに近くに蓮見さんを好きだっていう人がいるんだから」
「こんなに近くに?」
「うん」
不思議がる理緒を見つめながら、自分を親指で指す仙道。
「えっ・・仙道君が私を・・・好き!?」
「まだ言うつもりなかったんだけどな」
そう言って、手で口を覆ったまま固まっている理緒の方を向きながら、仙道は困ったように笑った。
数秒してから、理緒がそっと口を開く。
「仙道君・・・でも・・・」
「ねぇ蓮見さん?蓮見さんがどうして神のこと忘れられないか分かるか?」
理緒は断ろうとした矢先の仙道からの質問に、続く言葉を飲み込んだ。
忘れようとしても忘れられない。
どんなに頑張っても、神のことを考えてしまう。
きちんとフッてくれなかった神のせい・・そう考えてしまうことも辛かった。
その答えを仙道は知っているというのか。
「教えてほしい?」
「・・・うん・・・」
理緒の返事を待って、仙道は理緒に歩み寄った。
途端、160cmの理緒の体は、190cmの仙道によって宙に浮いた。
「お~軽いな~」
「えっ!?ちょ、何!?ちょっと仙道君!?」
驚く理緒を嬉しそうに見つめながら、自信ありげに伝える。
「それは、前を向こうとしないからだよ」
「前を?」
「そう。前を向いて、新しい恋をする」
「えっ?」
「振り返ってばかりだから、思い出だけがいつまでも蓮見さんを支配してしまう。なっ?単純だろ?」
理緒にとって、それはひどく意外な言葉だった。
過去に囚われていた自覚がなかった、と言ったほうが正しいかもしれない。
別れを告げられてから、前を向こうなんて・・周りに目を向けようなんて、思えなかった。
サラっとそう言う仙道を見て、理緒はあっけにとられた。
自分があれだけ悩んだことを、まさかこんな答えで解決されるなんて。
仙道の言葉には根拠も理由もないけれど、理緒は心が軽くなるのを感じた。
「・・・そう・・かもしれない、ね・・」
好きな気持ちは中々消えない。
思い出は温かく、それでいて辛い。
でもどこかで分かっていた・・戻れないなら、前を向かなければ。
ニコっと笑う仙道に、理緒も笑顔で返す。
その笑みからは辛そうな表情が消え、泣いて赤くなった目元だけを残して、明るさを取り戻していく。
「じゃあその最初の相手に俺を選んでくれる?」
この人といたら、本当に傷が癒えるかもしれない。
こんなにも心を軽くしてくれたのだからーー。
「・・・はい・・・」
まっすぐ仙道を見つめて答えた。
仙道は理緒の返事に満足そうな顔をしてから、ふと気付く。
この広い体育館でお姫様だっこを強行して告白という、自分の異様な光景に。
仙道の表情から、理緒も気付いたようで・・
「あっははははは」
「ふっ、はっはっは」
2人の笑い声がいつまでも響いていた。
=2ヵ月後=
「あ~~緊張する!!」
「何で??」
「だって!今日は海南との試合じゃない!!」
ジュースを買いに、2人はインハイ予選会場の自販機に向かっていた。
落ち着きはらっている仙道とは真逆に、応援する側の理緒は人一倍緊張していた。
決勝リーグ、陵南にとっては全国行きの切符がかかっている。
昨日武里戦で勝利はしたものの、今日の相手は王者海南、油断は出来ない一戦だ。
「緊張って、試合が?それとも神に会うのが?」
仙道はニッと笑って理緒を見た。
「もー彰のいじわる・・・試合に決まってるじゃないー!」
理緒は紅茶のボタンを押しながら、そりゃあ神君に会うのも緊張するけど・・・と小さく付け足した。
「大丈夫、今は俺の彼女なんだから」
仙道は笑って水を買い、理緒の頭をポンっと叩いた。
「あれ、理緒??」
「はい?・・・って、神君・・」
仙道と理緒がじゃれあっていると、後ろから聞き覚えのある声が理緒を呼び止めた。
「久しぶりだな。3ヶ月ぶりくらいかな、元気だった?」
「・・うん。神君も元気そうだね」
あまりにもタイミングよく現れた神に、理緒は動揺を隠せなかった。
仙道と付き合ったことで吹っ切れたとはいえ、別れてから初めての再会。
平静を保てる余裕が、今の理緒にはまだなかった。
すると神の後方から、海南のジャージを着た人物が向かって来る。
「よぉ、仙道。なんだ、蓮見も一緒か?」
「あんたは・・・海南の牧さん」
「牧さん、お久しぶりです」
「元気そうで何よりだ」
神と別れて以来になるため、牧と会うのも久しぶりだ。
当然牧も神とのことを知っているんだろうが、何も言わないどころか、態度にも表情にも出さないところに、理緒は救われた思いがした。
「今日はお前と勝負するのが楽しみだな、仙道」
「俺の方こそ。今日はよろしくお願いしますよ」
牧と仙道は軽く握手をしたのち、
「じゃあ、また後で。おい、神。行くぞ」
「理緒、俺たちもそろそろ行こう」
仙道は理緒にやわらかく微笑んだ。
「うん」
「あっ、理緒!」
仙道と行こうとする理緒を、神が呼び止めた。
緊張が走り、思わず手のひらをぎゅっと握りしめた。
「今日も、前みたいに『頑張って』って言って欲しい」
「えっ」
「理緒に言われると、頑張れるから」
「・・・」
理緒はほとんど無意識に近い形で仙道の方を見る。
戸惑いを隠さない理緒の表情に、自分を頼ってくれていると分かった仙道は満足そうに微笑むと、理緒の頭をポンポンと軽く叩いた。
「理緒?」
「神君・・・それは出来ない」
「どうして?」
理緒は仙道の方を向いてニコッと笑みを返すと、意を決したように小さく息を吐いてから、神の方を向いて
「私は陵南の応援を・・彰を応援するの」
「理緒・・・」
「それじゃあ行くね、バイバイ」
理緒と仙道が去っていく後姿を、神は少しの間見つめていた。
やけに頭に残る、バイバイの言葉。
「やっぱり、もうだめか。仙道にやられたな」
神はその場でそうつぶやいた後、下唇を少し噛み締め、牧を追いかけていった。
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