初めから恋に落ちていた
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全国バスケットボールインターハイ神奈川県予選会場。
俺達陵南バスケ部は、今年こそ全国へという目標を持って乗り込んだ。
まさかこの会場で、運命だと思える出会いがあるとは夢にも思わなかった。
広い会場の中、初めて彼女を見た瞬間、俺は知らないうちに目を奪われていて。
何に惹かれたのか・・とにかく目が離せなくて、もしかしてこれが恋に落ちた瞬間なのかななんて、漠然とでも確かに思ったんだ。
―――
「あー、喉渇いた」
「仙道さん、なんの飲み物にします?」
「スポドリじゃないやつ」
「それはさすがに控室にたくさんありますからね~」
まだ試合まで時間がある俺は、半ばマネージャーみたいな彦一と自販機の前にいた。
それにしても、さっきの女の子はどこの学校の子なんだろう。
「なぁ、彦一。本当にその子がどこの学校か知らない?」
「そうですねぇ・・わいの情報には特に。そんなに可愛かったんですか?」
「それはもう、俺が運命を感じたからね」
どんな見た目だとか、特徴だとか一切思い出せないくらい、とにかく目を奪われた。
説明できないもどかしさを感じ始めた瞬間、ふと少し離れたところを歩く女の子が目に入る。
・・彼女だ、見つけた・・!
一瞬で俺の目を惹きつける。
意識しなくても俺の目は、すでに彼女を追うように出来てしまっているんだと思った。
「彦一!あの子だよ、あの子!」
俺はジュース選びに夢中になってる彦一の腕を引きながら、急いで呼びかける。
彦一がお金を落としそうになるのを、構っている余裕はなかった。
「え!?いましたか!?どこですか!?もしかしてあの湘北ジャージの・・って仙道さん!?」
俺は彦一を置き去りにして、その子の方へ足早に向かった。
さっき見かけた時に声をかけなかったことをものすごく後悔してたから。
次に会えたら、絶対に話しかけると決めていた。
「ちょ、ちょっといい?」
「えっ?」
後ろから声をかけると、彼女は驚いたのか勢いよく振り向いた。
初めて彼女を正面から見て、目が合う。
その瞬間、一瞬だけど息が止まったような気がした。
「あの・・?」
身構えながら声をかけてくる彼女を見て、ハッとする。
どう考えても不審者で、怪しすぎる自分。
「いや、その、俺・・・」
呼び止めたはいいものの、何を話そうとか決めてなくて言葉に詰まる。
絶対に話しかける、とまでしか決めてなかった自分を恨むけど遅い。
女の子に自分から声をかけたのも初めてで、余裕なんてまったくなくて、ガラにもなく緊張に支配されていた。
すると意外なことに彼女の方から口を開いた。
「陵南・・7番・・ってもしかして仙道さんですか?」
「えっ!?」
「あれっ、違ったかな?間違ってたらすいません!」
「いや、そうだけど・・俺のこと知ってるの?」
この時初めて、ユニフォームを着てて良かったと思った。
そして彼女が自分を知っていたことに、思った以上に気持ちが高揚してしまう。
「はい!私、湘北高校でマネージャーをしてます、1年の蓮見理緒といいます」
「湘北のマネージャー!?」
言われて、少し冷静になって彼女を見てみたら、確かに湘北のジャージを着ていた。
確か前に練習試合をしたときはいなかったはず・・・
そんな俺の心情を察知したかのように、彼女は言った
「まだ入部して1ヶ月経ってないんです」
「そうなんだ、だからか。でも、えーと、理緒ちゃん?よく俺のこと知ってたね?」
「もちろんですよ!先輩たちが、仙道さんはすごいって言ってましたから!」
そう言うと、理緒ちゃんは湘北の連中から聞いた話を俺にしてくれた。
強いリーダーシップだとか、天才の中の天才だとか、自分ではそこまでしっくりくる話ではなかったけど。
理緒ちゃんが俺に好印象を持ってくれてることは、間違いない・・と思う。
「あの流川君が勝てないなんてどれだけすごいんだろうと思って!」
「ふっ。あぁ、今のアイツにはまったく負ける気がしないな」
少しふざけた感じで自信ありげに言った言葉に、理緒ちゃんは小さく笑った。
その笑顔が可愛すぎて、思わず赤面しそうになった顔を隠すように、彼女から少し顔をそらした。
そんな俺の行動を、理緒ちゃんは気にも留めずに続ける。
「だから仙道さんのプレーを1度見てみたかったんです」
「・・それは嬉しいな。俺を見るついでに応援してくれたらもっと嬉しい」
冗談に紛れ込ませた本音に、理緒ちゃんは一瞬目を丸くしてから
「相手がうちじゃなかったら、応援させていただきますね」
おどけたように笑った。
理緒ちゃんの表情や一言一言で、どんどん彼女を好きになっていく。
このままずっと見ていたい、話していたいと思えるほどに、居心地が良かった。
「あっ!そうだ・・・忘れてた・・」
そんな中、理緒ちゃんが突然何かを思い出したように口元に手を当てて、戸惑ったように俯いた。
「理緒ちゃん?どうした?」
「あの・・・」
「ん?」
俺の問いかけに、俯きながらも目線だけ俺に向けて、言いづらそうにしている。
そのまま少し待っていると、理緒ちゃんは分かりやすく、やらかしてしまったという表情をしながら
「私、そういえば三井先輩や宮城先輩から、仙道さんには近寄らないようにって言われてたんです・・」
「え!?何で!?」
「あの・・仙道さんは女性から人気もあるし、軽い人だからって・・・」
衝撃的すぎる。
まさかアイツらがそんなことを理緒ちゃんに伝えていたとは。。
「いや!全然そんなこと――」
全力で否定しようとしてふと気付く。
理緒ちゃんと話したくて、自分から彼女に声をかけた事実に。
これではそういう奴だと思われてもしょうがない。
突然黙って俯いた俺に、理緒ちゃんは少し焦り気味に
「仙道さん、いい気持ちしないですよね・・すみません・・!」
「い、いや?大丈夫だから・・」
「でもっ」
「ちょっと今の自分の行動を考えたら、否定できないなって思っちゃっただけで」
本当は否定したいけどできないし、そのイメージを払拭することも難しいだろう。
あからさまに声のトーンが落ちた俺の言葉に、理緒ちゃんはクスクス笑っていた。
「理緒ちゃん?」
「あ、ごめんなさい!」
「いや、いいんだけど・・」
「私こそ、自分から結構仙道さんに話しちゃってたなと思って」
理緒ちゃんはそう言うと、俯きながら笑っていた顔を俺に向けてから
「私も普段そんなことないので、仙道さんもそうなんだろうと思います。どっちもどっち、ですね」
そう言って穏やかに笑う理緒ちゃんの笑顔から目が離せなくて。
それと同時に、俺への気遣いも含んだその言葉が嬉しくて。
彼女にグッと気持ちが引き寄せられる感覚がした。
「それに、仙道さんは天才って言われるほどに努力をされている人だと思ってます」
「理緒ちゃん・・」
「どんなことでも努力してる人は、素晴らしい人だと思いますから」
勝手な印象ですみません、と続けてから、無邪気に笑う理緒ちゃんが可愛いすぎる。
同じ部の先輩達の言葉じゃなくて、俺自身をちゃんと見てくれようとしている。
そんなことを思いながら、理緒ちゃんをボーっと見つめてしまった。
「仙道さん?」
「・・あっ!ご、ごめん」
理緒ちゃんの呼びかけに、ふと我に返る。
「大丈夫ですか?」
「ごめんごめん、平気」
「あっ、そうだ!これ、良かったらどうぞ」
そう言うと理緒ちゃんは、持っていた小さめのバックの中から、いくつか飴を取り出した。
「えっ?俺にくれるの?」
「はい!食べるとちょっとした息抜きになるので、いつも持ち歩いてるんです」
「そっか、ありがとう。せっかくだから貰うね」
普段飴なんて食べないけど、飴で息抜きをしている彼女を想像すると、飴まで愛しくなるくらいに可愛く思えた。
「仙道さんが、万全の体調で試合が出来ますように!」
「理緒ちゃん・・・」
そのおまじないのような言葉に、気付くと俺は飴を差し出す理緒ちゃんの両手を、自分の両手で包んでいた。
小さくて華奢で、少し冷たいその手をずっと握っていたい。
「あ、あの・・?」
理緒ちゃんの戸惑いが伝わってきたけど、自分でもどうしようもない。
本気で・・・本気で・・・
『好きだ』
そう思った。
気持ちが強いと、考えるより先に体が反応してしまうんだな。
徐々に理緒ちゃんの顔が赤くなってきたところで、飴を受け取るとそっと手を離した。
「あっと、ごめん」
「・・・いえ///」
微妙な空気になってしまったが、後悔はしてない。
それどころか、もう止められないことに気づいてしまったから。
「あのさ」
「はい?」
「試合終わったら、理緒ちゃんに言いたいことがあるんだけど」
俺は今日告白するって決めた。
たとえダメだとしても、絶対に諦めない。
俺の気持ちを知っててもらいたいから。
どうしても理緒ちゃんじゃなきゃダメなんだ。
「あの・・私も、です」
「え?」
彼女のまさかとも思える意外な返答。
理緒ちゃんからも俺に?
少しの期待が混じって聞き返そうとしたところで、独特の関西弁で聞きなれた声が俺を呼んだ。
「仙道さ~ん?お話し中にすんません、そろそろ集合時間になります~!」
「彦一」
「控室に戻って準備せんとですよ~」
きっと俺と理緒ちゃんが話しているのを、邪魔しないように見ていたんだろう。
顔の前で手を合わせて、申し訳なさそうにしている。
俺はもらった飴を握りながら理緒ちゃんの方を見て
「じゃあ試合が終わった後にね」
そう言うと、理緒ちゃんは俺の好きな笑顔で
「はい!」
そう答えてから軽くお辞儀をして、走っていった。
―――
「仙道さんが探していた子、ホンマに可愛かったですね」
「そうだろ?性格も良すぎて完全に俺の好みだった」
「湘北の子みたいですし、また会えるといいですねー」
「ふっ、そうだな」
試合のあとに理緒ちゃんと約束したことを知らない彦一を見て、思わず笑みがこぼれる。
俺の言いたいことと、彼女の言いたいことは同じかもしれない。
そう思うと楽しみだった試合すら、早く終わらせたいと思ってしまう。
試合に勝ったら、きっと理緒ちゃんはあの笑顔で笑ってくれる。
理緒ちゃんに、なんて告白しよう?
「一目見た瞬間から目が奪われて、君を好きだと思った」
素直にそういう事にしよう。
理緒ちゃんの照れた顔が見たいからね。
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