②_海南編
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「そうだ、理緒!」
「はぁ・・何?清田」
顔を窓に戻しかけたところで、後ろで騒いでいた清田が、急に理緒に話しかけてきた。
1つため息をついて顔はそのままに、今度は何?とでも言いたげな視線を向ける。
「今日の放課後、体育館に来いよ」
「放課後?何で?」
「牧さんが用があんだって。」
まさかの人物の呼び出しに、一瞬身構える。
部員でもない自分に、一体何の用があるのか…
「えー・・今日は翔陽に行こうとしてたのに・・」
理緒は牧の用とはいえ、清田の誘いに少し頬を膨らませて、小さめに呟く。
「翔陽?何しに行くんだよ」
「べ、別に~~?」
耳聡くも呟きを拾い、聞き返してくる清田をなんとか誤魔化したが、
「ふぅん?じゃ、放課後よろしくな!」
清田は何も気にしてないかのようにニカっと笑ってそう告げると、自分の席に着いた。
理緒は今日何度目かのため息を1つついた。
―――
放課後
「こんにちは」
理緒は清田に言われた通り、体育館に顔を出した。
もうすでにバスケ部の練習が始まっている。
「うらぁ!!」
バン!
「へぇ〜清田、ダンク出来るんだ」
「理緒!来たな」
理緒の呟きは誰に届くでもなく消えた。
いち早く理緒の姿を見つけた清田は、待ってましたとばかりに理緒に気付いて歩いてきた。
「清田、ダンク出来るんだね」
改めて清田に告げると、清田は誇らしげに「当然!」と胸を叩いた。
「スーパールーキーだからよ!牧さーん!理緒来ましたよー」
清田が牧の方を向いて叫ぶと、牧もそれに気付き、挨拶代わりに右手を少し挙げて近づいてきた。
「おぉ、蓮見か。悪いな、わざわざ」
「いえ、大丈夫です。・・それより・・何か?」
「あ、あぁ」
理緒の笑顔に牧は一瞬照れたような表情を見せる。
珍しく歯切れの悪い反応に、清田は不思議そうに牧を見つめた。
そんな牧はさすがというべきか、すぐにいつもの表情に戻り、
「ちょっとついてきてくれるか」
「はい」
そう言って理緒をコート脇の、自分の隣の椅子へと連れて行き、部員達のメニューを見せる。
「蓮見、この練習どう思う」
「練習内容・・ですか?」
「あぁ。出来ればスピードをつける練習をしたいんだが」
「スピード・・・ん~~・・それでしたら・・・」
牧は理緒にアドバイスをもらうつもりで体育館に呼び出したのだ。
そしてなにより、牧自身も理緒に惹かれていた。
自分よりも強い女子という興味の上に、性格と外見がプラスされた理緒は、牧が好きになるには充分だった。
密かに理緒に想いを寄せる清田。
まだ牧の気持ちに気付いていないが、確実に、これまた密かに強敵が出現し、ピンチが訪れている・・。
練習内容について、理緒は思っていることを牧に一通り伝えた。
「・・なるほどな。そういう練習もありだな」
「まぁ無理は出来ませんけどねー」
自分が伝えた内容が、部員たちのレベルに合っているのか?
そこまでは分からない理緒としては、「あくまで参考までに〜」と付け足した。
「参考になった。悪かったな」
「いえいえ、このくらい全然平気ですよ」
「もしよかったら、部活を見ていかないか?まぁ、暇ならの話だが・・・」
心なしそわそわしている牧の様子を気にも留めず、理緒はチラっと時計を見ると、すでに17時半を過ぎていた。
「(ん~・・今から翔陽に行くのはちょっと無理だな~)」
今から海南を出て、バスに乗って・・と考えると、到着する頃にはもう帰る時刻になりそうだった。
わずかな沈黙を挟んでから
「はい、じゃあ見学させてもらいます!」
理緒は笑ってそういうと、椅子に座った。
牧はさらに赤くなった顔を隠すため、タオルをかぶった。
「おっ!理緒、見ていくのか?」
「うん。牧さんが見てっていいって言うから」
休憩に入った清田が、理緒に話しかけてきた。
練習がとてもキツイと言われている海南の練習メニューをこなしているはずなのに、今日は理緒がいるせいか、清田にいつもの疲れの色は顔になかった。
「なぁなぁ、じゃあ『ついでに』俺と勝負しようぜ!」
「え~~・・めんどい、制服だし」
「余裕だろ、な、やろうぜ!」
「うー・・分かった。じゃあ髪の毛だけ縛ってくるから」
理緒は思わぬ清田からの提案に一瞬戸惑ったが、ただ見てるだけでもなぁ…と考え直し、その提案に乗ることにした。
清田はよっしゃ、と喜びをあらわにする。
その話を聞いていた牧は止めるタイミングを失い、額に手を当ててため息をついた。
高い位置でポニーテールをした理緒が体育館に戻ってきた。
体育館内にいた部員が皆、印象の変わった理緒の姿から目をそらせず、あまりの可愛さに一斉に赤くなり俯いた。
清田も例外ではなく、やれやれと額に手を当てる牧の顔も、色黒で分かりにくいが微かに赤らんでいた。
「さってと。やる?」
「お、おう。来ーい!」
「1on1でOK?」
「もちろん!」
勢いで始まった勝負。
「10-2か・・・やはり強いな」
牧の呟きがやけに響くほど、体育館は静まり返っていた。
それもそのはず、多くの部員が言葉を失ってしまったからだ。
あまりの理緒の圧勝・・はもちろんだが、あっという間の出来事に驚きを隠せなかった。
序盤で2点入った以外、あの清田が点を入れられなかったなんて。
「ふぅ。終わったね。お疲れ様でしたっ」
今まさに勝負をしていたと思えないほど、サラッと告げる理緒。
汗ばんだ額にタオルを押し当てる。
束ねていた髪をほどいて、体育館を出ようとすると
「理緒っ!」
さっきまで呆然としていて無反応だった清田が、理緒の名前を呼んだ。
「マジ強ぇし!!なぁ、女バスに入る気ねぇならさ、男バスのマネージャーやれよ!!」
「はっ?」
「んで、俺とまた勝負しようぜ」
何を言い出すかと思えば、この男は…
理緒はちょっと考えたような顔をした後、軽く笑って
「考えとくね」
誰が見ても嘘だと分かる表情と声のトーンでそう言って体育館を去っていった。
理緒が去った後の体育館では
「あ~~!!流されたぁ~~!!!!」
清田の叫び声が響いた。
―――
「明日こそは!翔陽に行って、藤真さんに相手してもらおう」
海南大バスケ部の部員たちより一足先に体育館を出てきた理緒は、歩きながら誰に言うでもなく、小さな決意を呟いた。
そして清田や牧の恋心に気付くことなく、明日の試合に想いを馳せて、理緒は帰路に着いた。
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「はぁ・・何?清田」
顔を窓に戻しかけたところで、後ろで騒いでいた清田が、急に理緒に話しかけてきた。
1つため息をついて顔はそのままに、今度は何?とでも言いたげな視線を向ける。
「今日の放課後、体育館に来いよ」
「放課後?何で?」
「牧さんが用があんだって。」
まさかの人物の呼び出しに、一瞬身構える。
部員でもない自分に、一体何の用があるのか…
「えー・・今日は翔陽に行こうとしてたのに・・」
理緒は牧の用とはいえ、清田の誘いに少し頬を膨らませて、小さめに呟く。
「翔陽?何しに行くんだよ」
「べ、別に~~?」
耳聡くも呟きを拾い、聞き返してくる清田をなんとか誤魔化したが、
「ふぅん?じゃ、放課後よろしくな!」
清田は何も気にしてないかのようにニカっと笑ってそう告げると、自分の席に着いた。
理緒は今日何度目かのため息を1つついた。
―――
放課後
「こんにちは」
理緒は清田に言われた通り、体育館に顔を出した。
もうすでにバスケ部の練習が始まっている。
「うらぁ!!」
バン!
「へぇ〜清田、ダンク出来るんだ」
「理緒!来たな」
理緒の呟きは誰に届くでもなく消えた。
いち早く理緒の姿を見つけた清田は、待ってましたとばかりに理緒に気付いて歩いてきた。
「清田、ダンク出来るんだね」
改めて清田に告げると、清田は誇らしげに「当然!」と胸を叩いた。
「スーパールーキーだからよ!牧さーん!理緒来ましたよー」
清田が牧の方を向いて叫ぶと、牧もそれに気付き、挨拶代わりに右手を少し挙げて近づいてきた。
「おぉ、蓮見か。悪いな、わざわざ」
「いえ、大丈夫です。・・それより・・何か?」
「あ、あぁ」
理緒の笑顔に牧は一瞬照れたような表情を見せる。
珍しく歯切れの悪い反応に、清田は不思議そうに牧を見つめた。
そんな牧はさすがというべきか、すぐにいつもの表情に戻り、
「ちょっとついてきてくれるか」
「はい」
そう言って理緒をコート脇の、自分の隣の椅子へと連れて行き、部員達のメニューを見せる。
「蓮見、この練習どう思う」
「練習内容・・ですか?」
「あぁ。出来ればスピードをつける練習をしたいんだが」
「スピード・・・ん~~・・それでしたら・・・」
牧は理緒にアドバイスをもらうつもりで体育館に呼び出したのだ。
そしてなにより、牧自身も理緒に惹かれていた。
自分よりも強い女子という興味の上に、性格と外見がプラスされた理緒は、牧が好きになるには充分だった。
密かに理緒に想いを寄せる清田。
まだ牧の気持ちに気付いていないが、確実に、これまた密かに強敵が出現し、ピンチが訪れている・・。
練習内容について、理緒は思っていることを牧に一通り伝えた。
「・・なるほどな。そういう練習もありだな」
「まぁ無理は出来ませんけどねー」
自分が伝えた内容が、部員たちのレベルに合っているのか?
そこまでは分からない理緒としては、「あくまで参考までに〜」と付け足した。
「参考になった。悪かったな」
「いえいえ、このくらい全然平気ですよ」
「もしよかったら、部活を見ていかないか?まぁ、暇ならの話だが・・・」
心なしそわそわしている牧の様子を気にも留めず、理緒はチラっと時計を見ると、すでに17時半を過ぎていた。
「(ん~・・今から翔陽に行くのはちょっと無理だな~)」
今から海南を出て、バスに乗って・・と考えると、到着する頃にはもう帰る時刻になりそうだった。
わずかな沈黙を挟んでから
「はい、じゃあ見学させてもらいます!」
理緒は笑ってそういうと、椅子に座った。
牧はさらに赤くなった顔を隠すため、タオルをかぶった。
「おっ!理緒、見ていくのか?」
「うん。牧さんが見てっていいって言うから」
休憩に入った清田が、理緒に話しかけてきた。
練習がとてもキツイと言われている海南の練習メニューをこなしているはずなのに、今日は理緒がいるせいか、清田にいつもの疲れの色は顔になかった。
「なぁなぁ、じゃあ『ついでに』俺と勝負しようぜ!」
「え~~・・めんどい、制服だし」
「余裕だろ、な、やろうぜ!」
「うー・・分かった。じゃあ髪の毛だけ縛ってくるから」
理緒は思わぬ清田からの提案に一瞬戸惑ったが、ただ見てるだけでもなぁ…と考え直し、その提案に乗ることにした。
清田はよっしゃ、と喜びをあらわにする。
その話を聞いていた牧は止めるタイミングを失い、額に手を当ててため息をついた。
高い位置でポニーテールをした理緒が体育館に戻ってきた。
体育館内にいた部員が皆、印象の変わった理緒の姿から目をそらせず、あまりの可愛さに一斉に赤くなり俯いた。
清田も例外ではなく、やれやれと額に手を当てる牧の顔も、色黒で分かりにくいが微かに赤らんでいた。
「さってと。やる?」
「お、おう。来ーい!」
「1on1でOK?」
「もちろん!」
勢いで始まった勝負。
「10-2か・・・やはり強いな」
牧の呟きがやけに響くほど、体育館は静まり返っていた。
それもそのはず、多くの部員が言葉を失ってしまったからだ。
あまりの理緒の圧勝・・はもちろんだが、あっという間の出来事に驚きを隠せなかった。
序盤で2点入った以外、あの清田が点を入れられなかったなんて。
「ふぅ。終わったね。お疲れ様でしたっ」
今まさに勝負をしていたと思えないほど、サラッと告げる理緒。
汗ばんだ額にタオルを押し当てる。
束ねていた髪をほどいて、体育館を出ようとすると
「理緒っ!」
さっきまで呆然としていて無反応だった清田が、理緒の名前を呼んだ。
「マジ強ぇし!!なぁ、女バスに入る気ねぇならさ、男バスのマネージャーやれよ!!」
「はっ?」
「んで、俺とまた勝負しようぜ」
何を言い出すかと思えば、この男は…
理緒はちょっと考えたような顔をした後、軽く笑って
「考えとくね」
誰が見ても嘘だと分かる表情と声のトーンでそう言って体育館を去っていった。
理緒が去った後の体育館では
「あ~~!!流されたぁ~~!!!!」
清田の叫び声が響いた。
―――
「明日こそは!翔陽に行って、藤真さんに相手してもらおう」
海南大バスケ部の部員たちより一足先に体育館を出てきた理緒は、歩きながら誰に言うでもなく、小さな決意を呟いた。
そして清田や牧の恋心に気付くことなく、明日の試合に想いを馳せて、理緒は帰路に着いた。
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