Two people ahead of it.



「なんだ、もう居たのか」

ドアが開くなりブロッケンJr.の抑揚のない声がケビンの耳に届いた。

「他にすることが無かったからな。あんたが来るのを待っていた」
「先に寝ていればいいものを」
「寝る前に真面目な話をしたいとメシの席で言っただろう?」
「そういえばそうだったな」

寝室は既にケビンが消灯しており、ベッド横の小さな明かりだけが点いている。

ブロッケンJr.はいつものようにケビンと少し間を空けてベッドに潜り込み、
「それで、話というのは?」
と、やや眠そうな声で尋ねた。

「今まで言いにくかったことなんだが、そろそろ話してもいい時ではないかと、それについてあんたの意見も聞きたいと・・・」
「よくわからんが単刀直入に話してみろ」
「何故オレをここに住まわせてくれたのか分からないが、この約1ヶ月で幸せな日々とはこういうものなのかと実感した。とても感謝している」
「前置きが長い」
「すまない、必要な前置きなんだ」
「それで?」
「・・・オレたちは今後どうなっていくのか知りたい。オレが望む、いや、考えていることがこの先あるのかどうか。そしてあんたの本当の気持ちも聞きたい」
「どうと聞かれてもなぁ。おまえの気が変わるまで俺は共に居ようと思っている。身近な存在として出来得る限りおまえをサポートしてやれたら、と」
「気が変わることは一生ない。だから永遠に一緒に暮らしたいし、遠征中以外は傍らに置いて欲しい。微力ながらオレもあんたの支えになれたら嬉しく思う。たが・・・ブロ、あんたはオレを、その、愛してくれているのか?」
「・・・そうだな、今の俺にとってはたった一人の特別な存在だ」
「本当にか?」
「本当だ。おまえのしつこさに根負けしたのは悔しいがな。つまりあの賭けは俺の負けだ」
「Thank You. ならば次の話もしやすい」
「次?まだ何かあるのか?」

久しぶりに聞いた面倒くさげな口調。
それでも語尾は話の先を促す様であり、機嫌を損ねている感じでは無かった。

「 今のままでも充分嬉しいが、オレはあんたと肉体関係というものを持ちたい。その前段階としてわざわざ間を空けて座ったり寝たりせず気軽にイチャつけるようになりたい。ダメか?」
「それは即答しかねる部類の話だな」
「どうしてだ?こうしてひとつのベッドにいる状況下でもあんたは何も思わないのか?」
「特には何も。おまえが勝手に俺の寝室へ来て共に寝起きするのは既に特別なことでも無し」
「あんたはそうでもオレは内心、期待していた。いや、無意識にでも期待させていたのはあんただ。しかも愛してくれているなら、オレを唯一無二の存在と言うなら、どうして・・・」
「とりあえず落ち着いて聞いてくれ。まだ話していなかったが、俺がおまえの気持ちを受け入れようと思い始めたのは数ヶ月前で、決断したのは先月だ。それを打ち明けていない段階で俺が軽々しく手を出すような男だと思っていたのか?」

ケビンは暫し黙り込んだ後、
「すまない。言われてみればそうだな。オレはまた一人で勝手に先走っていたいわけか」
と、謝罪はしたが諦めない。
「だがあんたの告白も聞けたし、これから改めてオレたちの関係を変えていきたいと思う。なるべく早めに、なんなら今からでも」
話題を変える気はなさそうなケビンを横目に、ブロッケンJr.は溜め息をつき、
「先に言っておく。俺はおまえに対して敢えて禁欲していた訳ではない。そもそも肉体関係云々は全く重要だと思っていないからな。もっと言えば多少の触れ合いはあっても構わないが、過剰にベタベタされるのもするのも好まない」
「・・・二人とも愛があって禁欲していないならヤれるということだろう?オレは未経験だが毎日毎晩お願いしますとは言っていない。それと、どこからが過剰なスキンシップなのか分からないが、あんたが嫌だと思ったらその時に言ってくれたらいいだけの話だ」
「考えておく」
ブロッケンJr.は自分が空けたケビンとの間隔を詰めた。
「もう話は済んだか?俺はいい加減寝たいんだが」
「もう少しある・・・いや、その、それより肩がくっついて・・・その」
「隙間が嫌だと言ったのはおまえだろうが」
「そうだが、急で」
「要望を1つ叶えてやった、何を戸惑うことがある?」

ケビンの愛する相手は少し笑っているようだ、肩が小刻みに動いている。

「あんたには色々な意味で驚かされるな。今夜はもう話なんかどうでも良くなってきた。このまま寝てくれ」
「・・・ケビン、俺と永遠に一緒なんだろう?話など改まらなくてもいつでも出来る。先を急ぐな。少しずつ俺達らしく始めよう」
「また上手く丸め込まれた気もしないでもないが、いちいち尤もなんだろうな。今夜の最後にひとつ聞いておきたい。オレ達はこのままハッピーエンドということに」
「ならんな、まだ越えなければならない山がある。おまえにも、俺にも」

何か含みのある物言いをされ、ケビンは一瞬の寒気を覚えたが、触れていた側の指が強く握りしめられた。
「どこかで滑落せぬようにしないとな、まあ頑張れ」
「よくわからないが・・・あんたが付いていてくれるならオレは何にも負けやしねぇよ」
「私生活にかまけて王者の座を追われぬよう気を付けておけ。じゃあ、おやすみ」
「Good−night.」

それきり寝室には静寂が訪れた。

(そうだ。何気なく流されたがさっき・・・でもまぁ、今はいいか)

想いがようやく通じ合えたのは、緩く重ねられた手の温もりが何よりの証拠で、ケビンは思考するのを止め明日の新しい朝に思いを馳せた。






ー次章へ続くー
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