Two people ahead of it.



片付けを終えたケビンが2つのマグカップを手に、ブロッケンJr.が座るソファーの隣りに腰をおろした。
先日買ってきたこの揃いのマグカップについてもブロッケンJr.は何も言わない。
黒色の本体にピンクと黄色のハート総柄。
以前なら『こんなの使うものか!しかもペアだと?!気色悪い!』等と遠ざけられたに違いない。
ケビンは『これならさすがに怒るだろう』とブロッケンJr.を試すつもりで選んだようなものだが、いま彼は躊躇うことなく黙って前に置かれた片方を手に取った。

「なんだ、おまえもコーヒーか」
「つっこ・・・あ、まあ、そうだが」
突っ込むところはソコなのか?!と言いかけて、やめた。
この状況で藪を突いて蛇を出すような真似は控えるべきだ。
「いつものハーブティーだか何だかは飽きたのか?」
「いや、あんたとのコーヒータイムを楽しむ為に新調したカップで茶を飲む気にはなれない」

暫しの会話の後、再びテレビを観るブロッケンJr.の隣で、ケビンは同じく画面に目をやりながら別のことを考えていた。



※※※※※※※※




やがてニュースを観終えたブロッケンJr.は、残りのコーヒーを飲み干すとソファから立ち上がり、無言でシャワールームへ向かって行った。

残されたケビンはやることもしたいこともなく、時計を見れば22時を過ぎている。
ならば先に主寝室で待とう、そう思い簡単な片付けと消灯をし、一度自室で着替えてから長い廊下をゆっくりと歩く。

(今夜こそ打ち明けないとな・・・上手く伝えられたら良いが)

主寝室までの距離がいつもより長く感じた。




広いベッドに寝転がり、もうそろそろ入ってくるだろうブロッケンJr.を待つ。

一緒に眠れるだけで嬉しいには嬉しいが、愛する彼との初めての交わり・・・・肉体での、という意味でだが、一体どんな感じなのだろう?などと想像する夜が以前に増して多くなった。
今もそれを思い浮かべ勝手に妄想しているが、いつもほんの数分で妄想は現実に切り替わり、ただの願望と悩み事になる。

初めてブロッケンJr.と対面した日の20年近く前、まだ子供だった頃から密かに彼だけを想い続けてきた。
家を飛び出し自由になった後も他の誰かなど目にも入らず、性欲処理の為にだけ赤の他人をカネで買おうと思ったことすら一度もない
ケビンを惹き付けてやまないのは常にブロッケンJr.だけだった。

本心から長年一途に何かを願い続け、それを実現させるには相応の努力だけでなく運や縁も必要不可欠だ。

ケビンの願いが叶い、運命的な出会いを経て何とか縁を繋ぎ想いを打ち明け、やがて毎日を共にし始め、ひとつのベッドで眠るまでに至った。
男同士とはいえブロッケンJr.もケビンの想いを漸く受け入れ始めたというのに、ベッドですら何もないのは普通なのかおかしいのか。
歴史を遡ればかなり遠い過去の時代から世界各国で男色というものは少なからず存在しており、現代では同性同士の恋愛など別段珍しくもないことだ。

「今の段階でブロに性的な関係を望むのはまだ時期尚早なのか?・・・否、あくまでもオレの気持ちとして話すには別に早くはない」

と、小声で呟いたケビンは、今夜これから話すつもりの内容に、その話題を盛り込もうと決めた。


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