If... (番外編)




会いには、行く。必ず行く。
名目は、あの日の礼を言う為に。いつの間にか居なくなっていたのは彼の人で、ケビンが先に会場を出たのではない。
確かに礼を言うことすら当時は失念していたが、後から何故言わなかったのか気が狂いかけそうになるほど後悔した。

その言葉で背中を押してくれてありがとう。
大会本部へ、あのリング近くまで付き添ってくれてありがとう。
その位なら礼としての範囲を越えずに言える。
問題はその先。どう説明をすればいいのか、どこから話せばこの想いは伝わるのか。

ストレートに、『ずっと前からあたなを好きだった』と言えば、驚かせるだけでなく、嫌悪の表情を見てしまうかも知れない。
誰もが同性愛に理解があるとは思っていない。男に惚れられていると言われれば・・・・他人事ならともかく、自分が対象にされているとなれば不快に思うかも知れない。

礼だけで帰る気はない。
告白までを一気にしてしまわねば、また機を逸してしまう。
だから悩むのだ。


もし、好きだと言ったら?
もし、冷たくあしらわれたら?
もし、聞いてすらくれなければ?


新しい生活に一息ついた頃から、『考え始めるとキリがない、早く行動に移してしまえ』と心の声がケビンに四六時中囁きかける。
判っているのだ、それが善いと。
しかし、沢山の『if』がケビンを躊躇させ、立ち上がることすら出来ないまま・・・・心の声が罵倒に変わるまでそう日数はかからなかった。
『彼が貴様に言ったあの、真に勇気ある超人は、の続きは何だ?覚えていないのか?結局貴様はその程度の男だということか』
『わかっているだと?何が判っているというのだ?無駄に毎日ダラダラ過ごす位ならリングへ戻れ。貴様の居場所は戦いの場しかないのだろうからな』

いくら自分の声が自分を苛もうと、ケビンは機会や過程ではなく、初恋のバッドエンドが怖かった。
上手くいくわけはない、初恋は叶わないという説がある。されに親子ほどの歳の差と同性別と・・・・ケビンの考える『if』に楽観は1つも浮かばない。
唯一の可能性も相手の反応次第で消えてしまう。

何をするにも『if (もし)』が必ずある。
何かを目掛けまっしぐらに猪突猛進するには知恵がありすぎる生き物には、『if』が付きまとって然るべきだろうが・・・


if、if、if ・・・・

今日もこの足は一歩も部屋を出ようとしないだろう。
次に外へ出た時、自分は行くと決めている。

if、if ・・・・ 昨日と同じ『if』が、頭の中でリフレインし、そこへ自分の声で野次が飛ぶ。
そして、また日が暮れるのだ。


――もう邪魔をしないでくれ。
『if』という言葉など、消えて無くなれば楽なものを――








連載番外編『if・・・』―END―

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