Break my past.



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19時前にラーメンマンと駅の改札で別れたブロッケンJr.は、彼とは反対方向の地下鉄に乗り3つ目の駅で降りた。
ホテルは地上に出て徒歩2分足らず。

(やはりこんなに早く戻るのは少し癪だな・・・・自分の部屋で一休みしてから奴の部屋をノックすることにしよう)

時間的にケビンも夕飯を食べに出ているか、ルームサービスで食事中の可能性もある。21時前後に『いま帰った』というのが自然な気もした。

酒は食前にビールを2杯と、ラーメンマンの好きな中国酒を小さなグラスで飲み、食事中に再びビールを1杯。ブロッケンJr.にとっては飲酒したうちに入らない量だ。

(ケビンさえ来ていなければ倍のビールと久々に日本酒で軽く酔えたものを)

今日のような日は深酒までとはいかなくとも、多少自戒を解いても良かったはずだが、どうしてもケビンの不機嫌な顔が脳裏を掠めて出来なかった。



「705のキーを」

ホテルのフロントで片手を差し出すと、

「ブロッケンJr.様のお部屋はお連れ様がキャンセルされました。ご一緒の部屋で良いと・・・・」
「なに?!俺はキャンセルに応じていないぞ」
「申し訳ございません、ブロッケンJr.様はご承諾済みと申されましたので私共は承った次第で」
「チッ・・・・あいつめ。奴はいま部屋にいるのか?」
「はい、1時間ほど前にお戻りになられています」
「わかった。荷物も移してあるのだろうな?」
「はい」

フロントを責めても仕方ないと早々に諦めたブロッケンJr.は、それきり無言でエレベーターに乗り込んだ。

「ケビンの阿呆め!ツインなら許すがダブルなら他のホテルへ行ってやるからな!」

エレベーターの中は自分だけ、何を呟こうが大声を出そうが関係ない。むしろもうこの空間でしか本音は口に出せないだろう。


果たして、部屋をノックするとすぐにドアが開き、ワイングラスを片手にしたケビンに笑顔で迎えられた。

「随分早かったじゃないか、もっと遅くなるかと思いルームサービスで飯を食いながら、こいつを一杯やっていたところだ」

しかめっ面か暗い表情と対面するのだろうと考えていたブロッケンJr.は、その笑顔で脱力しかけた。
ケビンの後について部屋の中に入り中を確認するとベッドはツイン。部屋自体は広くないが、これなら同室でもまあいいかと安堵したブロッケンJr.にケビンは、向かいの椅子を勧めた。

「この白ワイン飲んでくれないか?ハーフボトルだがオレは一杯でいいし勿体ないからさ」
「いいのか?既にビール3杯と食前酒を飲んできたが」
「その程度じゃあんたには水だろ?ワインも前にただのグレープジュースだと言っていたし」
「まあな。ではボトルごと寄越せ。これ位なら一気に飲める」
「ワインは上品に飲むものだぞ」
「ふん、そんな流儀は聞いたことがないな」

やれやれ、といった顔でブロッケンJr.にボトルを渡し、ケビンは自分のグラスを前に傾ける仕草をした。乾杯したいという意味だろう。
ブロッケンJr.は何も言わずにボトルをケビンのグラスに軽く合わせ、言葉通り一気に残りを飲み干した。


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