Break my past.
「Hello,Mr.」
2コール目で相手の低い声が聞こえてきた。
「ケビン。俺に何か用か?」
「・・・・なぜ日本に居るんだ?」
「日本?俺はベルリンにいるぞ」
「嘘はつくな。この電話が繋がっていることが良い証拠だ」
「電話など世界中繋がる・・・・」
世界中。携帯電話でも国際電話には相手の国番号を付けねばならないことに、ブロッケンJr.は気付いてしまった。
「・・・・ふん、もう隠しようがないな。いかにも日本に居る。おまえ、誰から聞いたんだ?」
「誰にも聞いていないが、なんとなく勘というやつかな。いつか近い将来、あんたが日本へ行くだろうと思っていた」
「だから何だと言うんだ?おまえに黙って旅行してはいかんとでも?」
「オレはまだそこまであんたを縛れる立場ではない。だが・・・・ただの旅行ではないはずだ。いま居る場所と誰と居るのか、オレに言えるか?言えないよな」
「そういう質問をする辺り、充分俺を縛っていると思うがな。居場所は東京都内、昔仲間と共に知人の見舞いに来ている」
「・・・・名前は伏せるんだな。まあいい。ブロ、そこの近くに公園はあるか?」
「公園?側を通った記憶はあるが」
「そこから見えるか?」
「いや、今は住宅街だ、家しか見えん」
「・・・・白いマンションの前に白い車が1台」
「さっきから何なんだ?公園だの車だの」
「後ろ、振り返ってみろよ」
「だから何だと・・・・・・」
言われるまま振り向けば、100メートルほど先にケビンマスクの姿が見えた。
「・・・・後をつけてきたのか」
「実は偶然、空港であんたを見かけたんだ。ストーカーじゃあないぞ。ああ、こっちには来るな、そこに居てくれ。オレもこれ以上近寄らない」
「色々言いたいことはあるが今は取り込んでいる。誰にも見つからぬうちに去れ」
「オレも聞きたいことが山ほどある。ホテルに戻ったら508のドアを叩いてくれないか?」
「同じホテルというわけか」
「嫌そうだな」
「当たり前だ。やっと暫く独りになれると思っていたというのに・・・」
「さっきも言ったが全て偶然だ。あんたの事情は知らないが、オレも『そいつ』に用があって日本へ来ただけだからな」
「なんだと?!」
「でかい声を出すな、辺りに響いてバレたらどうする。とにかくホテルに戻ったら何時でも構わないから来てくれ」
「・・・・今夜は友人と飯を食う話になっている。おそらく21時以降だ」
「わかった。じゃあ後でな」
通話を先に終わらせたのはケビンだった。
ジュニアは深呼吸を一度した後、再びジェイドの部屋へ向かう道すがら、何度も後方を確認したが、ケビンの姿はもう見えなかった。