Break my past.



ジェイドの部屋はこじんまりとしたダイニングキッチンと六畳程度の洋間、一人で住むにも超人には決して広くはないだろう。
そこへ更に超人二人が入れば一気に狭くなる。
角部屋ゆえ窓は他室より2つ3つ多いだろうが、どれも閉めきられたまま。ブロッケンJr.は少し息苦しさを覚えた。

「いまお茶をいれますから、あ、コーヒーの方が良いですか?」

ジェイドは洋間に通した二人を振り返るも、視線はブロッケンJr.にのみ向けられていた。

「気を遣わんでいい、俺なら何でも・・・・おまえたちと同じものでいい」
「じゃあラーメンマン先生がくださった中国のお茶にしますね」
「あの茶は気に入ってくれたかな?」
「ええ、とても!ティーパックに入っているので私でも簡単に淹れられますし、何の料理にも合いますから」
「ではまた差し入れるとしよう。そういえばブロッケンも好きな茶だったな」
「俺がか?烏龍茶とやらか」
「いや、龍井茶だ。忘れていても仕方あるまいが中国の緑茶だよ。昔、美味いと言っていた」
「ああ、あのあっさりした茶か」

二人が昔話をしているうち、ジェイドがトレイにカップを3つ乗せて入ってきた。
「良いお茶なのにマグカップしかなくて・・・・」
申し訳なさそうに言いながら二人の前にそれを置き、自分も小さな座卓を囲む形で座る。

険悪ではないにせよ、気まずい雰囲気は変わらず、ラーメンマンは『やはり二人にしなくて正解だった』と、心の中で苦笑いした。

「さて・・・・、今日ブロッケンを連れてきたのは言うまでもなく、ジェイド、おまえさんの為に、だ。わたしに話したようにブロッケンにもあのことを話せるか?」
「あ・・・・すみません。あの事という種類のものが沢山ありすぎて何だか分かりません」
「ははは、ここはわたしが司会をしなければならんかな?」
「ラーメンマン、俺は茶を飲みに来たわけではない。ジェイドも言いにくいことがあるだろうし、仲介というか・・・・この場の進行役を改めて俺から頼みたい」
「まあ、その為に同行したようなものだからな。では、ジェイド、ブロッケンにまず言いたいことは何かね?」
「・・・・あの・・・・今更ですが、オリンピックでは無様な負け方をして申し訳ありませんでした」

マグカップを両手で包むように持ち、視線を膝まで下げてポツリポツリとジェイドが話し始める。

「あれから病院で手術を受けて、暫く入院したのですが・・・・なかなか怪我が治らなくて、沢山の人にお世話になりました」
「・・・・そのようだな」
「レーラァは、ご存知だったのですか?」
「入院当時の事だけはな。委員会や友人らからよく連絡があった。だが、おまえがもう独り立ち出来ると判断した俺は、見舞いにも行かず口も出さず、身元引き受けも・・・・拒んだ」
「それは肉屋のご夫妻に聞きました。おかみさんがよく来てくれて、連絡先はうちだから、と」
「・・・・・・・・」
「レーラァの口から直接聞いたわけではなかったので、お忙しいのかと勝手に判断していましたが・・・・今のお話でやっと分かりました。私はやはりもう破門されていたのだと」
「破門はしておらん。先にも言ったように、おまえはもう独りでやっていけると、昔の俺のようにあとは仲間たちと共にやっていけると思った。俺がいつまでも側にいればおまえの成長を妨げてしまいかねない。あれはちょうど良い機会だった」
「何故ですか?何故、それを言って下さらなかったのですか?私の意思はどうなのか訊いて頂けないままで・・・・何が何だか分からず戸惑うばかりの毎日は辛かったです」
「俺の一存で決めてすまない。手紙を何度かくれたのは知っている。読まずに捨てたことも今ここで謝りたい」
「・・・・・・いいんです、あの手紙の内容は恥ずかしい言葉だらけでしたし、読まれていなかったなら良かったです・・・・でも、暫くはお返事を毎日待っていました。いつか会いに来て下さるかもと考えたりしながら」
「ジェイド・・・・・」

間に挟まれたラーメンマンは、
『まさか初日にいきなりこの展開までになるとは』と、二人に気付かれぬよう首を横に振った。


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