Break my past.


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五階建てのマンション。エントランスには集合ポストとエレベーターのみ。管理人室は見当たらない。

ブロッケンJr.は当然エレベーターに乗るだろうと思い、三階で停止しているそれを降ろす為にボタンを押したが、

「ジェイドの部屋はこっちだ」

ラーメンマンが指差す先は一階の通路へ続くドアだった。

「一階に住んでいるのか」
「ああ、どの階にも空き部屋はあるのだが・・・・理由は察して欲しい」
「・・・・ふん。屋上でも平気だと思うがな」

多少弱っていようが鈍っていようが長く鍛練してきた超人ならば、五階建てなら屋上からでも猫が塀から降りるが如く着地可能な高さだ。
衝動的に、或いは単にふらついて外へ落下しても大事に至ることは考えにくい。

(皆、心配しすぎだ)

心の中でブロッケンJr.が溜め息をついた時、ラーメンマンは奥の一室の前で立ち止まり、インターホンのボタンを押していた。

「やあ、ジェイド。わたしだよ。見舞い客を一人連れてきた」

ほどなくドアが開き、挨拶と歓迎の言葉が中から小さく聞こえた。ラーメンマンの背でブロッケンJr.にジェイドの姿はよく見えないものの、声音は普通、いや、元気そのものとしか思えない。

「ラーメンマン先生、お客様とはどなたですか?楽しみにしていろと言われたので、昨日からワクワクしていたんです!」
「ああ、そこからでは見えないのか。・・・・客人よ、此方へ」

知らずうちにジェイドから見えぬであろう死角に立っていたブロッケンJr.だったが、開かれたドアと手招きで、もう逃げ場は無くなった。
そのドアまで数歩、ゆっくり進み、ラーメンマンの隣に立つ。

「・・・・久方ぶりだな、ジェイド」

「レ、レーラァ・・・・いや、あの!すみません、レジェンド・ブロッケンJr.・・・・さん」

「堅苦しい呼び方は止せ。レーラァで構わん」

「でも、私はもう・・・・」

それはラーメンマンが予想していた通りの光景であり、ドアを挟んでまずこの『対面シーン』が無ければ逆に困る。
今日は多少ぎくしゃくしても会話さえしてくれれば良いのだ。
新しい弟子がいるブロッケンJr.の滞在期間は限られている。その短い間に二人が和解し(結果はどうであれ)、今後を決めてくれたなら、と願っている。

「ジェイド、続きは中でしないか?この三人では目立ちすぎるからな」

沈黙する二人の間に入るのもラーメンマンには予想通りのこと。

「は、はい!あの、相も変わらず気が利かなくて失礼しました!散らかっていますがどうぞ!」

先に部屋へ戻っていくジェイドに気付かれぬよう、『巧くやれよ』とブロッケンJr.に耳打ちしたが、その表情は今まで見たことのない類いの困り顔だった。

(やれやれ、この期に及んで何か他のことを考えているようだ・・・)

それ以上は流石のラーメンマンでも読み取れなかった。

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