Break my past.
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都内のホテルにチェックイン後、一休みしてから自分のトランクのみ部屋に残し、ブロッケンJr.は同行者との待ち合わせ場所へ向かった。
幸いこの辺りには土地勘があり、おそらく道に迷うことはない、と思っていたが。若い頃に皆でよく行った店の周辺は高層ビルが幾つも建ち並び、見覚えある建物や店は目印になる程度しか現存していなかった。
それでも懐かしさを感じながらゆっくり歩いたが、目的地の公園には約束より30分ほど前に到着した。
「・・・・思ったより早かったが遅れるよりはいい。コーヒーでも飲んで一服するとしようか」
ちょうど公園前にあったカフェでアイスコーヒーをテイクアウトし、木陰のベンチで一息ついた。
空は雲ひとつない快晴、1日で1番陽射しが強いだろう時間帯。
日本の夏はこんなに暑かっただろうか?などと、ぼんやり考えているうちによく知った超人がこちらへ歩いて来るのが見えた。
「やあ。待たせたかね?」
「いや、俺が早く着いていただけだ。ホテルで休み過ぎると寝てしまいそうだったからな」
「お互いもう歳だ、わかるよ。疲れているだろうと思い、車を借りてきた。滞在中の移動は任せてくれ」
「相変わらず気が利くじゃないか、ラーメンマン」
そう、同行者はラーメンマン。日本でジェイドが不自由しないよう、何かと面倒を見ていたのも彼だ。
「おや、美味そうな菓子を食っているな。クッキーか?」
「ああ、出掛けにリビングで目について持ってきたんだ。なかなか美味いぞ、食うか?」
「見たところ手作り風だな、ひとついただこうか。・・・・美味い。見た目も味も店に出せるレベルだ」
「そうか?ケビンが聞いたら喜ぶぞ。奴が沢山焼きすぎて置いていったんだよ」
「・・・・ケインの間違いでは?」
「あ、ああ、いや違う、これはケビンマスクが・・・・その、ベルリンに来たからと挨拶に来て、それで数日泊めた礼にと・・・・」
ついうっかりケビンの名を出してしまい焦りはしたが、偽弟子の話題を避けたいブロッケンJr.は、『まあいいか』と咄嗟に開き直った。
尤も、多少の嘘はつかねばならないが。
「ほう・・・・あのケビンマスクと親しくなっていたのか」
「・・・・今の話は他言しないでくれ。特にロビンには絶対に」
「どちらかが困るのかい?」
「あの親子の問題は俺には関係無いが、ケビンの困る姿はもう見たくない・・・・あ、いや、別に深い意味はないが、その・・・」
「つまりおまえさんはケビンマスクを気に入っている、というわけだな。意気投合したなら仲良くしつつ少し更正させてくれたら尚良い」
「親子と変わらん年齢差で仲良くも何も・・・・まあ話し相手位はしてやれると思うが」
「それだけか?」
「だから友人というには歳が」
「どんな関係にせよ年齢など無関係だよ。もしお互い相手を好いていれば歳も性別も関係なく友人以上になることも」
「おい!あんた何が言いたいんだ?!」
「単なる一般論だよ。まあ少々下世話な例えだったかも知れんが・・・・気に障ったならすまない」
(何か見透かされたのか?まさかな、俺とケビンはまだおかしな仲ではない・・・・が、友人というのも少し違う。どういう関係なのかと訊かれたら確かに説明出来んな。以前ならケビンに惚れられているだけだと言えなくもないが、今は・・・・何なのだろう?)
うっかりとはいえどケビンの名は出さぬよう気を付けるべきだった、とブロッケンJr.は頭を抱えかけてやめた。
ラーメンマンの前では毅然としていなければ、また余計な詮索をされかねない。
電話でケビンがこぼしていた母親に詮索されてどうのこうのという話を思い出し、自分も同じようなものだと気付かされた。