If... (番外編)


*if・・・ 3



外部との接触を絶った後。

初日にまとめ買いしたもの以外で細々とした不足品に気付いたケビンだったが、インターネットで食材も日用品も注文出来る店が近くにあると知った。
室内用のトレーニングに使えるものは幾つか置いていたが、こういったものも部屋に居ながら国内外から取り寄せられる。

これで完全に引きこもれる――――否、ケビンはこの期間を使い密かに国外へ出掛ける予定を立てている。いつ思いきって腰を上げることが出来るかが悩みどころだが―――今は一息つくべき時で、何もかもいちどリセットしてから次なる最終目標へ、万全を期して挑むのが良い。


数日間、日がな寝て過ごした。
ダラけていたというより、それまでの疲れと睡眠不足を補っていたといえる。
病院では実際落ち着けぬのは当然で、心身共に存分な休養を得るには一人の部屋に限る。

確かにとてもリラックス出来、ケビンもようやく『平和』な生活に馴染み始めた。
次に出る試合は決めておらず、闘わねばならない相手も今はいない。マルス(スカーフェイス)の行方は気にかかるが、当分何か事を起こすことは無いと思えた。出来ればこのまま戒心してもらいたい・・・・と、そこで必ずセットで浮かぶ人物に、ケビンは溜め息をつく。数えきれぬほど繰り返し、繰り返し、毎日のように。


そろそろ真剣に考えるべきだと思ったのは、マルスと誰かを思い浮かべた何度目かの夜だった。


本来これは何のための休養か?
身体を休めるという名目に偽りはないが、今後の自身の行く道を思案する為だ。
しかし、やっと独り落ち着ける時を持てたというのに、安堵するどころか溜息ばかり、逆に無性に心が騒ぐこともある。


原因はマルスではなく、セットで思う件の『彼(か)の人』。
それは例の、ケビンに秘め事があると見破った相手、はるか歳上の伝説超人。
あの時もし出会わなければ、自分は未だ『正義』に背を向けたまま闇の中にいただろう。
それどころか、罪悪感から二度と『正義』に目覚めようとしなかったに違いない。

僅かな迷いと罪悪感を意固地に否定し、世に逆い続け、陽の光を嫌い闇の中に住まい、そのまま目を覚ますことなく過ごしていた日々が今は虚しい。
愚かであったとも思う。




頑なに閉ざした心の内側に、無理に押し入ってくるのではなく、ケビン自身に開かせるように諭した相手が、結果こうして目を醒まさせた。
恩義だの感謝だのとは別に、長年秘かに想いを寄せていた伝説超人と出会えた奇跡―――――――突然の出会い、初対面にも関わらずケビンの闇を読み取った唯一の相手が彼の人・・・・・これではケビンでなくとも運命を感じないわけがない。




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