Break my past.




『Good evening,my dear.』
「もう midnight だ。まだ起きていたのか?」

相手は英国のどこかに居るケビンだった。

『あんたがベッドで読書タイムを楽しんでいるのを邪魔しようと思ってな』
「・・・・ああ、確かに邪魔されたよ、電話に出るのも躊躇った位だ」

もちろん嘘だ、最近ブロッケンジュニアは本を読んでいない。考えたいことが山ほどあり、趣味を楽しむ余裕すらないのだ。

『すまない、ブロ。今のは冗談だ。本当は少しでいいから声を聞きたくて電話してしまった』
「そうか、まあいい。そっちで何かあったのか?少しだけなら付き合ってやらんでもないぞ」
『ありがとう。別に大したことではないが・・・・昨日マミィに会った。あんたが言っていた通りダディは居なかったが、どうしてもあの家に入る気になれず外で飯食ってすぐホテルに戻っちまった』
「馬鹿だな、折角の機会だというのに。まだロビンは帰らんだろうから後日改めて出直すといい」
『いや、マミィにすら当分会いたくない。短時間とはいえ質問攻めでかなりキツかったからな』
「親に話せないことが多すぎるおまえが悪い。自業自得だ」
『話したければ自分から話す。それ以外は触れられたくない事もあるのだと察して欲しかった。いくら親でも、いや、親だからこそ分かってくれても良いのにと・・・・他人だったらブチ切れていたぜ』
「親だからこそ、他の誰よりも我が子の事を知っておきたいのだという捉え方もあるぞ?」
『ふん、それなら丁重にお断りするまでだ。オレはあんたにしか自分を知って欲しくないからな。あんたには自然と何でも話したくなる、仮に突っ込んだ質問をされても不快ではない・・・・今回それを再確認した気分だ』
「実の親より他人の俺、とは皮肉なことだな」

素直なケビンの言葉にブロッケンジュニアはまた迷い始めた。これからの行動とその内訳をケビンに話すべきか、隠し通すべきか。

『・・・・どうかしたのか?』
「えっ?何がだ?」
『疲れているのか、眠いのか、そのどちらかならいいんだが、もし何か悩みがあるなら・・・』
「いや、悩みなどひとつもないぞ。おまえの、偽弟子の代役が決まり一息ついて・・・・ああ、それで気が抜けたというのはあるかもな」
『そうか、見つかったのか。もし何か困ったことがあれば連絡してくれ。また一人で何でも抱え込もうとするなよ、オッサン』
「困っている事なら1つあるぞ。どこぞのガキに中断させられた読書の続きをしたい。今すぐどうにかしてくれないか?」
『ハハハ、わかったわかった。じゃあな、また電話する。おやすみ』
「ああ、おやすみ」


電話を切り、ブロッケンジュニアは深い溜め息をついた。

(もしや何か気付かれただろうか?)

やはりケビンに話さずまま通話を終えて正解だった、と思う。
もし話してしまえば電話を切るなりあらゆる手を使い此処へ飛んで来るに違いない。そしてブロッケンジュニアの『偽弟子関連以外の計画』は全力で阻まれるだろう。


明後日、ブロッケンジュニアは日本へ旅立つ。
かつて存在した愛弟子に会う為に。

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