Break my past.



偽師弟関係の解消後、ケビンは英国へ発ち、ブロッケンジュニアは『偽者の影武者』を一族の中から選ぶべく人選を始めた。

ブロッケン一族は代々、超人ではなく元人間であるが、男子は立派な体躯の持ち主が多々いる。

影武者はケビンと背格好が似た若者ならば超人でなくとも良い。何故ならその存在だけで事は足り、リングに上がる必要はもうないからだ。

幸い、ブロッケンジュニアの理想に適う者はすぐに見つかり、現当主に心酔していたその者は嬉んで引き受けた。
一通りの役割を指示すればこの件はひとまず片付く・・・・が、ブロッケンジュニアは若者を伴って屋敷に帰った後、彼に留守を任せ、一人また旅立った。
もうひとつ済ませたい用件があったからだが、それは誰にも、ケビンにすらも話していない。

秘密はお互い無しにしようと約束したばかりであるが、『それ』について話せば、ケビンをまた不安にさせてしまう。黙っていたのはブロッケンジュニアなりの配慮だが、約束を破り相手を欺いたことに違いはない。
ゆえに英国へ戻るケビンを見送りながら心の中で詫びたのは3日前。

それでも、
『おまえの代わりが見つかり、俺の筋書き通りに事が済むまでベルリンに来ないでくれ。落ち着いたら連絡する』
『わかった。あんたに尻拭いさせるのは申し訳ないが・・・・また会える日を心待ちにしている』
と、名残惜しげに何度も振り返りつつ搭乗便のゲートに消えたケビンの姿が、頭の片隅から離れない。
罪悪感からなのか、それとも―――



***




「明後日に発つとして・・・」

久方ぶりに書いた日記を閉じ、ブロッケンジュニアはカレンダーを眺めつつ呟いた。

「滞在日数はどのくらい必要だろうか。1日や2日で済むわけがないことは明確だが」

以前の自分ならば、旅立つ前からいつ帰れるかなど考えなかったが、今は違う。
それが『いつからなのか?』と聞かれたら恐らく『わからない』と答えるだろう。無意識のうちにそうなっていたのだから。

「何泊するか分からんしホテルは予約しないでおこう・・・・この時期ならどこも満室ということはないはずだ」

ホテルのランクには元より拘らない。『現地』の最寄駅に近ければ都合が良いと思うのみ。

「ああ、待ち合わせの場所と時間を決めねばな。寝る前に電話を・・・・ん?誰だ?」

受話器に手を伸ばしたと同時に携帯電話の着信音が聞こえた。
殆ど使うことがないそれは、いつも適当に置きっぱなし状態な為、いつも何コール分かは本体の捜索時間になる。

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