BET
「ケビン、俺はおまえに対し無関心を装うつもりはもう無い。だからおまえも変につっぱるのは止せ。お互い二人の時は何でも曝け出せたらいいと思わないか?」
ケビンは頷くと少し顔を上げ、横目でブロッケンジュニアをチラリと見た。彼は真剣な眼差しで真っ直ぐ前を見つめている。
その視線の先は暖炉で行き止まりだが、そこを突き抜けて遥か遠くを見ているように思えた。
「なあ、ブロ・・・・それならあの賭けを一回リセットしないか?漸くあんたが真面目にオレと向き合ってくれる気になったんだしな」
「そうだな。俺が拘っていた同性だの年齢差だのもひとまず脇に置いて、おまえと真摯に向き合うといま約束する。だから偽の姿はもう捨ててケビンマスクに戻ってくれ」
「わかった。だが、ケインという奴の消息はどうなるんだ?もう国内では有名人なんだぞ」
「それについては俺に考えがある。おまえは心配しなくて良い」
「死んだとかは無しで頼む、一応オレの分身だった奴だ」
「ああ。悪いようにはしないさ」
ジュニアがケビンの方を見た時、ケビンは完全に顔を上げていた。
すぐ視線には気付いたが、至近距離で目を合わせるのは恥ずかしく、ひたすら正面を、パチパチと燃える暖炉を見つめる以外ない。
姿勢はお互いそのままで、
「久々に話し疲れたな」
と、耳元で呟くブロッケンジュニアに「オレも」と答え、彼に全身で凭れ掛かった。以前なら、調子に乗るなと突き飛ばされていたかも知れない。
ブロッケンジュニアは、そんなケビンの肩を抱きつつ壁の時計を見た。
「もうこんな時間か・・・・夕飯を食い損ねたな。おまえ腹は減っていないか?」
「オレはそうでもない。あんたは?」
「同じく、だ。ホットミルクでも飲んで寝るか」
「ああ。でもその前に、もう少しだけこのままでいさせてくれ」
「・・・・構わんが、寝るなよ」
「あんたこそ眠そうな声だぞ」
「おまえもな」
二人はひとしきり笑い合い、暫くの間、恋人のように寄り添っていた。
まるで今日の一件など無かったかのような、とても穏やかな時間だった。
・・・END・・・
次章へ続く
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