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暖炉近くのソファで寄り添い、無言で座ること数十分。二人とも相手が何か話すのを待っている。
特にケビンは、どんな些細な事でもいいから何か言ってくれと、俯いたまま心の中でジュニアに懇願していた。
しかし、一分一秒でも長くこうして肩を抱かれていたいと思う自分もいる。部分的にでも密着出来るのはケビンにとって嬉しく、あんなにささくれ立っていた気持ちも数分で落ち着きを取り戻した。

(オレはこの人の傍から離れたくない・・・・だから偽者のフリも出来た。それが演技で、オレがオレではなくても良いから傍にいたかった。だがブロだけでなく全ての奴等にジェイドの代わりのように思われているのではと、そう考えたら耐えられなくなった。ブロすら信じられなくなった自分が嫌でたまらず、どうしたらいいか分からなくなったんだ)

涙はもう止まっていたが、顔を上げるのはまだ気まずい。それに少しでも身動きすれば密着を解かれてしまう可能性が高い。
このまま彼に凭れて眠ってしまおうか、と思った時、耳元近くでジュニアの呼び掛ける声が聞こえた。

「ケビン、そのままでいいから聞いてくれ」
「・・・・なんだ?」
「さっきの話だが・・・・奴等に誘われた時、俺は迷うことなく行きたくないと思った。友として皆に協力したい気持ちはあったが、どうしてだかおまえのことばかり考えていたんだ」

ケビンの身体が一瞬ピクリとした。が、まだ顔は上げない。ジュニアと自分の密着した膝を見つめながら話の続きを黙って待った。いま下手に横槍を入れてはいけない気がしたからだ。

「それが何故かは深く考えまいとしたが、嫌でもすぐに気付いてしまったよ。地球を離れ友人らの手助けをするよりも、こうしておまえと日々を過ごしたかったのだと」
「・・・・ひとつ聞きたい。それは偽弟子ではない本物のオレだと思っていいのか?」
「当たり前だ。俺なりに答えが出たから打ち明けているんだ。今まで話す機会を逸していたが、俺はおまえを置いて行くことは出来ない。例えそれがおまえの為にならなくとも」
「ブロ・・・・」
「勘違いするなよ。おまえとの賭けがまだ続いているというのに、うやむやにして放り出すのは卑怯だろう?」
「賭け?なにかしていたか?」
「とぼけるな、おまえから挑んできたんじゃないか。俺がおまえに、惚れるか否か」
「・・・・そうだったな。あれが賭けに値するかどうかは分からないが、あんたに宣言はした」
「俺は恋愛に不馴れで疎い。だが今回のことで少し何かが判った気がするんだ。どれもまだ確信には至らんが・・・・だからケビン、答えをやれるまでおまえの傍にいたいと思う。尤もおまえさえ良ければだがな」
「良いに決まっているだろう?あんたの真意はどうであれ至極光栄だぜ」
「やっと少し笑ってくれたな」
「わ、笑ってなど、いない・・・・その位置じゃ顔は見れないはずだぞ!」
「声音でわかるさ」
「・・・・・・・」

暖炉の前に居て良かった、とケビンは思う。ジュニアの角度からでは自分の表情は見えないが、自覚可能なほど頬が火照り赤く染まっていた。思いがけないジュニアの言動の数々に赤面していることが仮にバレたとしても、暖炉が暑いからだと言い訳出来る。

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