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翌朝。

今日は休みだからと遂に一睡もしなかった目を擦りつつ、ケビンは階下へ降りた。
ジュニアはまだいない。
時計は6時半、朝食が出来上がる頃には起きてくるだろうと、一人キッチンに立つ。
その頭の中は、夜通しインターネットで見続けた記事の数々で混乱しており、久しぶりに包丁で指を切ってしまった。
皿も一枚、取り落として割った。
眠気のせいだと自分に言い訳していたところへ、

「なんだこれは…」

「え?」

振り向けばいつの間にかジュニアが立っていた。
視線の先は床の皿ではなく、ケビンの向こう側。そこには剥いたレタスの葉が山のように積まれたボウルが。

「朝からこんなにサラダはいらないぞ?朝飯を食いに誰か来るのか?」
「いや・・・・すまない、すぐ片付ける」
「理由は聞かないが、昼と夜も食ってやるから捨てるなよ」

と、苦笑いしながらジュニアが絆創膏を一枚差し出す。

「ほら、指を出せ」
「…何故切ったのを知っているんだ?」
「キッチンを覗いたらおまえがナイフを片手に、左人差し指を振っていた。見れば何があったか大体わかるさ」

ケビンは指をジュニアに差し出し、絆創膏を巻かれながら呟いた。
「昨日の話だが…」
「なんだ?」
「ジェイドの事、何故ずっと黙っていたんだ…?」
「唐突に何を・・・・どんな話だ」
「オリンピックでの負傷がまだリハビリの段階だとか」
「その件は俺もよく知らんな。委員会から一度、経過を少し聞かされた程度で」
「どうして委員会があんたにジェイドのことを?」
「・・・・他に知らせるべき身内が奴にはいないからな。その後すぐ肉屋の夫妻が身元引受人のような役割を買って出てくれたと聞いた。以来、俺には全く何も・・・・」
「今それはともかくとして、あんたは聞いた時におかしいと思わなかったのか?いまだにそんな状態だなどとは…そんなに重傷だったのか?オレは別会場で・・・・怪我の程度を見ていないが、あんたは試合もその後も見ていただろう?」
巻かれた絆創膏を見つめ、ケビンは訝しげに言った。
「オレらは超人。肉体は強靭で回復力も気合いでかなり早まる。この切り傷も夜には消えているはず・・・・ジェイドも超人だ、マルスにボロ雑巾のようにやられた時は数ヶ月でピンピンしていたというし、オリンピックでの負傷も致命傷は免れたと記事にあった。全治が遅すぎやしないか?」
「・・・・皆が皆、超人だから回復が早いとは限らない」
「では心因的ダメージとは何なんだ?医者へのインタビュー記事で見た」
「さぁ、知らんな。試合で何かあったのだろう。俺はその後のことは…」
「知らないとは言わせないぞ」
「ケビ…いやケイン、本当に知らないんだ」
「肉屋に聞けばわかるか」
「余計なことはやめろ。おまえにも俺にも関係ないことだ」
「しかし!」
「何をムキになっているんだかな…?あれはもう独立したんだ、いつまでも俺が関わる筋合いはないし、師匠でも保護者でもないんだ」
吐き捨てるように言い、ジュニアはケインを残して何処へか消えた。

残されたケイン、いやケビンの心には、不快なまでに湿った何かが残ったまま、ただレタスの山を見つめていた。


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