BET




「それで、話というのは?」
「ああ…、実はな、今回からおまえのセコンドにつくことにした。今日、その登録もしてきた」

仮面の中でケビンの両目がパッと輝く。いつか頼むつもりでいただけに嬉しい報せだった。

「本当か?!いいのか?!」

「仕方ないだろう、俺は師匠でジェイドの前例もある、いつまでも黙ってスタンドで観戦しているわけにもいくまい」

「・・・・そうか、そうだっだな。あんたは弟子バカでなければならないものな」

「なんだ、皮肉か?」

「いや、別に。…ケインとして感謝する。話はそれだけか?」

「……ケビン…」

ジュニアの胸が騒いだ。
嫌な感じというのだろうか?あまりにも不自然な二人がそこにいる。いま共にいるのはケインではなくケビンだ。
ジェイドの名を口にしたのが不味かったのかも知れないが、揶揄された位だ、ケビンがそこまで気にする件ではないと思いたい。

「俺が何の為におまえを呼んだと思っているんだ?」

「何の、とは?セコンドにつく話をする為だろう?しかし、わざわざオレを呼ばなくともケインで良かったと思うがな」

「ケビン…おまえ」

ジュニアは何か言いかけて止め、机の上にあった数枚のメモをケビンに近寄り手渡した。

「試合は10日後。明日から朝と夜はこのメニューで調整を。昼間は自分のトレーニングでいい。朝はなるべく付き合う」

「わかった」

メモに一通り目を通し、ケビンはノロノロと立ち上がった。
そして、「中継は?」と、テレビカメラの有無を訊ねた。
「国内のローカルだけだ。スポーツニュースでは超人レスリングとして報道されるだろうがな」
「その程度ならすぐにはバレないな」
「バレる?なにがだ」
「異国にいる元弟子に、新たな弟子の存在が、さ」
「全世界にならともかく、どうしてジェイドなんだ?奴に知れても関係ないだろうが」
「オレが嫌なんだ。あんた今朝起こしに行った時、ジェイド、と呟いていた。過去の夢とかいうは奴の夢だろう」

ケビンは些か不愉快そうな声音で語尾を下げた。

「だから過去と言ったんだ。もう俺は奴の師ではない」
「だが夢の中ではいつまでも師弟のまんまだ。頼むからオレとジェイドをオーバーラップさせないでくれよな」
「するものか!確かに夢の中には居たが、あれが幼い頃の・・・・俺も忘れていたような場面に過ぎん」
「・・・・部屋に戻る。おやすみ」
「ケビン!」
「なんだ?」
「……おまえはどこにいった?」
「よくわからない質問だな。どういう意味だ」

ジュニアは少し躊躇った後、ケビンの顔を見つめた

「俺はケビンマスクを呼んだんだ、ケビンはどこにいるんだ」
「ここに今いるだろう、あんたに呼ばれて来たケビンマスクが目の前に」
「……もういい、下がれ。じきに就寝時間だ」

吐き捨てるようにジュニアは命じケビンに背を向けた。

間もなく扉が静かに開閉する音がし、ジュニアの部屋に静寂が戻る。


――どうしてだ、ケビン――


ジュニアの漏らした呟きが聞こえるわけはないが、廊下に出たケビンはドアを振り返った。
そして肩でついた短い息に「わかっているさ」と小さく言葉を乗せた。


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