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かつて弟子がいた頃。
ブロッケンジュニアは早朝からトレーニングに出る弟子に付き合い、自分も早くに起きた。
それはごく初めの頃で、やがて弟子は一人で鐘を転がして走り、帰宅して家事をした。
ジュニアと二人での朝食が終われば掃除に洗濯、そしてまたトレーニングに入る。
昼前にまた食事の準備、トレーニング、夕刻には屋敷でまた夕飯の支度。
就寝前の僅かな自由時間も惜しむほど家事と鍛練漬けだった弟子に、ジュニアは勉強も一通り教えた。学校へ行かせてやれる時間がなかったからだ。
二人はとにかく様々なことを夜を日に継ぐが如く急いでいた。
弟子の熱意に絆されたあの出会いから、ずっと。
超人としての実技を叩き込みつつ、ジュニアは人としての礼儀作法も彼に教えた。
そうして約7年後、期待通りに育った弟子をヘラクレスファクトリーに入れるまで、二人は常に駆け足だった。
後に思えば後悔だらけだったが、懸命にひた走っている時は気付くわけもない。

今はもう昔。
ジュニアにとってはまだ近い過去であったが、何故か随分昔のことに思えてならない。
全てを覚えているようでも実際は儚い記憶に過ぎない。
日々は瞬く間に終わり、また始まる。


ヒトは、忘れるイキモノだ。



「ブロッケンジュニア、ブロッケンジュニア」

自分を呼ぶ声と揺り起こされる振動で目覚めれば、そこには金髪の…元弟子のそれとは異なり長めのストレートで、元弟子とは異なり青い瞳の若者がいた。図体の横縦も二回りは大きい気がする。

薄ぼんやりと開いた目を何度か瞬かせたあと、ようやく「ああ」と現在(いま)に還る。
昔の夢を見ていた、とジュニアは呟いた。

「昔の?」

聞き漏らすことなく返されて、ジュニアはふっと薄く笑った。

「そうだ、遠い過去のな…それよりケビン、何故ここに?」

「おいおい、勘弁してくれ。あんたが7時に起こせと言ったんだろう?朝飯も出来ている。早く食っちまおうぜ」

若者は口角だけ上げて笑いかけてきた。

「結局毎朝オレだけでトレーニングだものな。あんたは最初の1回しか付き合ってくれなかった」

言われて、ジュニアは頭を掻きながら起き上がる。

「すまんな、あんなメモだけで。毎晩遅くまで書いているからか、どうも朝が起きられん。だが7時は朝遅いとは言えないだろう?」

「そりゃあそうだが…まぁ早く着替えて下に来いよ。コーヒーを淹れておく」

瞳が一瞬だけ真っ直ぐにジュニアを射た。
それにジュニアは気付かない。


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