FAKE~after story~ ※番外編





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軽くシャワーを浴び、自分のベッドに腰を下ろしてため息をひとつ。
ジュニアの胸は得体の知れないざわめきに支配されていた。
もとより…ラーメンマンらが帰り、ドアを閉めた瞬間にへたりこんでからずっとだが…
頭痛や目眩は別に身体的にどうこうではなく、二十四時どころか約半日という短い間に起こった一部始終の事柄に、精神的疲労が酷かっただけだ。

冷たいペットボトルの水を一気に飲み干し、寝るぞ!と決めてベッドに入ったものの、まだ思考は回り続けている。


もし。もしも。
ケビン以外の者があの場にいて、あまつさえ弟子を名乗ってきたなら?
と、ふと考える。
おそらく礼は述べても丁重に断っただろう。
そしてその星へ、ごく短期間と約束させて出向くことにしたかも知れない。
もう弟子など持たず、この邸で一人、静かに暮らそうと決めたのは、かねてよりの本意である。
寂しさも侘しさも感じることはおそらくない。
昔仲間の皆が懸念するような、あんな惨めなことにはもうならないと心から誓える。

ジェイドを育てるという長年に渡る肩の荷が降りた身に、いきなり飛び込んできた現実は、実に次から次へと予想外のものに発展している。
しかし、その最たるものはケビンの登場と、想定外な告白、早く言えば彼の存在自体そのものだ。
思い返せば初めから何もかも決して不快ではなかった。
度々訪ねてくるケビンと共に過ごす時間も今では楽しいとさえ思う。

今日も…
ケビンの為に買い物をしようと思い立った時、街を歩き店を探していた時、心なしか浮わついた気分ではなかったか?

「俺が、ケビンと共に在ることを望む…と?」

ふとひとりごちて笑いが込み上げた。
そして、どうせ眠れないならとベッドを抜け出し、机に向かいペンをとる。
まずは明日のトレーニングメニューでも、と数行綴っては思いが乱れ、手を止めては息をつくのを数度繰り返し。

(俺はケビンが好きなのか?あいつの言う意味の、好きだという気持ちがあるのか?…まさか…いや、しかし)

先程、ケビンの部屋で不意に抱きつかれベッドに倒れ込んだ時、一瞬自分の心臓が音をたてた。
料理を誉めた時に見せた嬉しそうな顔、服を一枚一枚広げながら無邪気に笑う顔を見たときも・・・素直にケビンを「愛しい」と感じたのだ。

差し伸べられた昔仲間達の手を拒み、いまケビンと共にいる。
その存在がいつの間にか当たり前のようになっていたのは、ジュニアが自覚する以前から、その心に深く根を張っていたに違いない。
この日常から離れたくないと思った。
いい加減に自分の変化を認めないわけにはいかない。

(まだケビンは起きているだろうか?)

暫くはあの、好きだの愛しているだのという甘ったるい言葉を封じるのだから、もう少しあの場にいてやっても良かったか?と、思う。
しかし、ケビンのことだ。
きっと調子に乗ってまた何をしてくれだの何がしたいだの…想像がつくだけにジュニアは苦笑せざるを得なかった。
柄にもないことばかり言う男だが、きっとあれがケビンの本当の姿であり素であることを、もうジュニアは知っている。
そして、決して強くは拒めない自分のことも。


オリンピック覇者で、誰よりも強く勇敢で、孤高の若き超人であるケビンマスク。
しかしマスクと鎧を脱ぎ捨てれば、ケビンという名の心優しい、寂しがりで愛に飢えた若者に変わる。
ブロッケンジュニアの弟子、という新たな仮面をつけた彼は、これからどんな活躍をみせてくれるだろうか。
偽りの師弟関係とはいえ、ケビンの新たな面をもっともっと見てみたい、と思う。

《あんたは絶対に俺を好きになる、好きにならせてみせる》

数ヵ月前、そんなふうに堂々と大言を吐いたケビンは、着実にその「任務」を遂行し続けている。

(俺は奴の作戦に見事にはめられているようだが…どうなるんだろうな?この先は)

この先…と無意識に浮かべた言葉で我に返り、ジュニアは指先で玩んでいたペンを持ち直すと、残りの数字と文字を一気に綴った。

それを読み返し、二、三度頷くとその用紙を手に廊下へと出、ケビンの部屋のドア下へ忍ばせた。
その隙間から明かりは漏れていない。

(さすがにもう眠ったか)


同じく長い、長い、1日を過ごしたのだ。
より疲れているのは自分よりも、あれこれと余計な気をもんだケビンかも知れなかった。

(おやすみ)

心の中で、ドアの内側に囁いた途端、ジュニアもようやく眠気を感じた。


再びベッドに入り。
なるほど、どうにも落ち着かなかったのは、昨夜、共に眠ったベッドだからだ、と思い至る。

(朝まで、あの大きな坊やをこの胸に抱いていたんだったな、腕枕までして・・・)

その重みを思い出し、ジュニアは眠りに落ちる瞬間まで、微かな苦笑を浮かべていた。





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