FAKE~after story~ ※番外編
食後の茶で暫し寛いだ後。
置きっぱなしだった荷物の大半(食糧以外)を、ジュニアの指示でケビンは自分の使う部屋へと運んだ。
何故自分にあてがわれた部屋へ?と聞きたかったが、相手が忙(せわ)しく動いていた為、ケビンは黙って荷物を抱え階段を上がった。
「よし、ここでいいか」
ジュニアが紙の手提げ袋をひとつ開け、中身をベッドの上に出した。
同じように次々と広げ重ねられていくそれは、様々な衣類。
「これらは?」
呆然とジュニアの仕業を見ていたケビンは、恐る恐る口を開いた。
「おまえのだ。当座の着替えは最低でも必要だろう?普段着と、あとこっちはトレーニング用に、その上下揃いのやつはロードワークに使え。サイズは合うはずだ。洗い替えもある。寝間着やガウンはうちにいくらでもあるから、好きなのを使え。靴や下着は自分で揃えろよ?ああ、レスパンも必要ならその時に…」
「だからって今日の今日でこんなに…言ってくれれば一緒に行った」
「昼間の礼に、こういうサプライズがあっても良いだろう?」
ケビンは一枚一枚を手に取り、身体に当てながらはにかんだ。
内心は大騒ぎで喜びたいが自重した。
「それにトレーニング中の弟子を買い物に連れ出すわけにいかんからな。ああ、新しい目覚まし時計もあるんだ。それから・・・このノートに毎日こなしたメニューや俺の指示したことを書いておけ。後で役に立つ。他に要るものがあれば………ケビン?」
いきなりケビンがジュニアに抱きつき、二人はベッドに倒れ込んだ。
「すまない…オレの勝手な行動なのに、許してくれるだけでなく、こんなことまでしてもらって」
「…冷静に考えたら俺が助けられたんだ。おまえには感謝しなければならない。しばらくの間、頼むぞ」
ぽんぽんと背中をあやされて、ケビンは秘かに頬を染めながら、更に強い力でジュニアを抱き締めた。
「感謝なんかいらねぇよ。オレはあんたを愛してるんだから、当たり前のことをしているだけだ。役に立てるなら、なんだってするさ」
ケビンは想いを込めてその耳元で囁いたが、ジュニアは顔を背けてしまい、おまえ重いぞ、と笑った。それでもケビンはジュニアを離さない。
「なあ?ブロッケン流の修行は厳しいんだろう?だがオレはどんなに辛くとも耐えるからな。あんたの為になるんなら、何だってする。何にでもなってやる」
そうか?と、ジュニアは笑いながらケビンの胸を押し上げ、無理矢理に引き剥がして起き上がる。
これ以上、ケビンの言葉を聞いてはいけない…、この体勢も良くない、そう直感した。
「ブロ、オレは…」
「もう言うな。おまえの気持ちはありがたいが、あまり話を重くしないでもらいたい」
ベッドに押し倒されたような形になっていた間、ジュニアは笑顔をたたえながらも、秘かにケビンを意識していた。
自分を好きだという男であるケビン。
これから彼と、理由はどうであれ暫く同居する。
例えもののはずみでも、こんな状況は作ってはならないのだ。
偽者でも師と弟子なのだから、尚更に。
「ではな、とりあえず」
立ち上がり、ジュニアは呆然と自分を見上げるケビンに、まず服が散乱したベッド上の片付けを命じ、
「朝は5時に起きろよ」
と、言い置いてケビンの部屋を後にした。
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