FAKE~after story~ ※番外編
『FAKE~after story~』
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早速ケビンは『ブロッケンJr.の弟子』実践を開始した。
日暮れの頃になっても「頭痛がやまない」と、寝室から出てこないジュニアをそのままに、地下のトレーニングルームへ籠った。
いつ誰が来てもどこから見られても構わないよう、見たくれは勿論、言動にも注意しなければならない。些細なことでうっかりボロを出すなどあってはならないのだ。
ケビンはいつになく真剣で、徹底して弟子になりすます決意をしていた。
いつものように室内で出来る我流のトレーニングを一通りし、気付けば時計は20時を回っていた。
彼は起きているだろうか?頭痛は?食事は?
そんなことを考えながらシャワーで汗を流し、少し迷った後。
ジュニアの姿は見当たらなかったが、ケビンは自ずからキッチンへ足を運び、冷蔵庫や棚を物色しあちこちから何か取り出した。
自炊をしたことはあっても、二人分の…好きな相手に食べてもらう為に「料理」したことは1度もない。尤も、好いた相手は過去も今も同じくブロッケンジュニアだけだが。
少ない有り合わせで何が作れるだろうか?と、とりあえずコンロに水を入れた鍋をかける。
何がどこにあるのか全くわからなかったが、それでもあちこちから調味料や食器を探しだした。
結果、知識の中にあるごく簡単なものしか出来なかったが、備蓄の食材でどうにか夕食の支度が出来た。コメが何故かキロ単位で見つかり、炊き方は知らない代わりに鍋で煮てふやかし・・・日本でいう粥もどきをこしらえてみた。味付けは恐らくまるで違うだろうが、味見では悪くなくブロッケンジュニアが空腹なら多分文句は出ない、と思う。
ケビンは静かに階段を上がり、ジュニアのドアを遠慮がちに叩いたが、応答はなかった。
まさか相当に具合が悪くなったのか?と、無礼を承知でドアを開けたたが、ベッドにいるはずのジュニアの姿はどこにもない。
書斎にも、サンルームにも。リビング、バスルームにも、いない。
(いつの間に、一体どこへ?)
キッチンにいた時、気配は何も感じなかった。
ケビンがトレーニングに励んでいる間に出ていったようだ。
かなり気にかかったものの、そのうち戻るだろう…と、ケビンは二人分の夕飯を並べた食卓に一人座った。
先に食べ始めるか、もう少し待ってみるか。
そんなことを考えながら、ぼんやり食卓を眺めていると。
「なんだ、やけに良い匂いがすると思えば、ここか」
声のする方を見れば、ダイニングの開けたままのドアから、山ほどの袋や包みを抱えたジュニアが姿を現した。
「ブロ!」
慌てて席を立ち、ケビンはジュニアに駆け寄った。
「どこへ行ってたんだ?!黙って、一人で!」
頭痛に目眩と言って臥せたのを最後に目にしたきりだから、それなりにケビンは心配だってしたのだ。
ジュニアの両手を塞ぐ荷物をひとつずつ受けて床におろしたが、どれも重いものではなかった。
あちこちへ寄ったのか袋の色形や、印刷された店名も違う。
まるでバーゲンセールの戦利品を抱えてきた女性の如く、と言えそうだ。
とりあえずはと、まとめてドアの内側へ全て置き、身軽になったジュニアは、やれやれと呟きながら洗面所へと消え…ケビンはその山のような袋や包みを眺め、改めて首を傾げた。
なにを急に思いこんなに買い物をしてきたというのか。
食材らしきものがほんの少し、後は布類か雑貨の類いだと推測できる。
(まさか・・・)
一眠りして気が変わり、旅立ちの準備を始めたのでは…という不安がケビンを侵食し始めたとき、
「おまえが作ったのか?これ全部」
いつの間にかダイニングに戻ったジュニアが、『弟子』の出で立ちであるケビンの背後から声をかけた。
視線はテーブル上にある。
「あ…ああ。まあな。味は保証できないが…。それよりこれらは一体なんだ?」
「話は後だ。せっかくの料理が冷めきってしまうぞ。先に飯を食わせてくれないか?」
テーブルについて笑うジュニアにケビンは黙って頷くと、スープを温め直したりなど気のきいたことをひとしきりした後、向かいの椅子を引いた。
「頭痛は?」
「うん?まだすっきりしないが、寝ていてもどうにもならん」
「だからって大丈夫なのか?出掛けたりして…しかも黙っていなくなるとは…」
ジュニアは黙々と食事を続けながら、口ごもるケビンをちらりと見、心配ない、と笑った。
それから、このスープ美味いな、等と料理の腕を誉めちぎり、ケビンを照れさせた。
粥もどきはリゾットだと思ったようで、『変わった味のリゾットだが不味くはない』と評していたが・・・
「こんな美味い飯は久しぶりだ。明日も…いや、しばらくおまえが飯を作ってくれないか?俺は少し忙しくなるんでな」
「え…?」
「弟子を持つと色々大変なんだ。トレーニングメニューを考えたり、調子をいちいちチェックしたり…適当な練習試合等も探さなければいかんだろう?」
「それじゃあ…!!いいのか?オレ、弟子になって、ここにいても」
思わず席を蹴って立ち上がったケビンの前に、空になったスープ皿が無言で差し出された。
「立ったついでに。もう少し熱い方が好みだな」
「ヤー!レーラァ!」
ケビンは皿を受け取り、さも嬉しそうな軽い足取りでキッチンに消えた。
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