FAKE 1
さすがのケビンも名まで考えていなかったようだ。
「私、ですか?わたしは……け…」
「ケインだ、ケインという」
詰まるケビンの言葉尻をジュニアが奪った。
「ケインです。以後お見知りおき下さいますと光栄です!」
咄嗟の命名を受け、ケビンは笑顔も新たにぺこりと頭を下げた。
三人のレジェンドは口々に「ケイン」に言葉をかけ、来年予定の大会への出場をしきりに勧めている。
「ケイン」が上手く受け答えをしている間、ジュニアはずっと彼を見つめていた。
素晴らしい演技だと誉めてやりたい傍ら、居心地の悪さから素直に『助かった』とは思えない。
ジュニアの中に少しずつ靄が広がりはじめた。
やがて彼らは席を立ち、ジュニアと挨拶を交わして漸く邸を後にした。
「ケイン」と共に見送り、ドアを閉めるなりジュニアは床にへたりこんだ。
「ケイン」は仮面を外しケビンに戻ると、ジュニアの前に膝をつく。
「良かったな。これで一難去ったってわけだ」
ケビンが嬉しそうに声をかけたが、ジュニアはこめかみを押さえて瞑目している。
「頭でも痛いのか?」
「…ある意味かなりの頭痛と目眩がする。おまえ、どういうつもりなんだ」
「どう、って…言われてもな。本当に走ってきて、戻ったらあの人達がいて会話も聞こえてしまった。オレはあんたを助けようと思い、ああして一芝居打ってみただけだ」
「随分と安直なことをしてくれたもんだ…。これからどうするつもりだ?」
「は?」
「あいつらに俺の弟子候補だと名乗ってタダですむと思うか?あっという間に超人界の噂になるぞ…帰ればロビンにも報告するだろうし、大事になりかねん」
ケビンは何か考えるように俯いていたが、やおら顔を上げ、ジュニアの目を見つめて笑った。
「何がおかしい」
「あんたがあまりにも深刻そうだからさ」
「当たり前だろう!こんなことになるなど…」
ジュニアの言葉が終わる前に、ケビンは『大丈夫だ』と囁いた。
「オレにはまだ策がある。このまま弟子のふりを続けさせてくれないか?ほとぼりが冷めるまで…あぁ、ずっとでも構わないがな」
「馬鹿か、おまえは!偽物の師と弟子なんぞ上手く成り立つわけがない!」
「どうしてだ、簡単だろう?オレは今日からケイン、まだ無名の超人でブロッケンジュニアの押し掛け弟子。あんたはオレをここに置き、ジェイドに課したような修行を俺にさせればいい」
「冗談じゃない、そんな器用な演技が俺に出来るものか!それに真似事でも師匠になど金輪際・・・」
「やれよ。あいつらがまたあんたを連れに来てもいいのか?」
「…それは…っ」
ジュニアは何も言い返せず口ごもった。
逆に今日のケビンは依然として饒舌、余裕すら垣間見える。
「師匠なのは表向きだけでいいさ。あんたが面倒だと言うなら、オレは自分で勝手にトレーニングする。ただ、ジェイドがどんな修行をしていたかは教えてもらいたい。それを実践しているところを世間に見せなきゃならないからな」
「…おまえ、何故そこまでするんだ。それにその仮面はどこで手にいれた?」
「さっき買ってきた。店にはオレだとバレてないから大丈夫だ。これはあんたの為と、半分はオレの為・・・会えなくなるのは御免だからな。あんたにまで嘘をつかさせて悪かったとは思っている。だが実際、少しは役に立っただろう?」
「……もう、好きなようにしろ。俺は疲れた…暫く上で休ませてもらう。肩を貸してくれ」
「ヤー、レーラァ!」
ケビンはジュニアの力ない腕を引き、さも意味ありげにニッと笑った。
***END***く
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