FAKE 1




「どうすればいいんだ?」

ここなら聞こえやしない、とベッドに腰をおろし盛大に溜め息をつき、もう一度、思考を最初から巡らす。

もし仮に。

ジュニアが彼等と共に旅立てば、会える機会は殆どなくなってしまう。
だからとジュニアを愛する気持ちが変わるなど有り得ない、それだけは胸をはって誓えると自負している。

何年かかろうが彼を振り向かせると決め、そうと告白をして以来ケビンなりに想いの暴走を理性で止めてきた。
その甲斐あってこんなふうに…半月に一度でも二人で会い、語らえるようになった。
継続すればする毎に、ケビンには自分を見てもらうというチャンスがあるのだ。
そして、ブロッケンジュニアという超人を、男を、ケビンもより知ることが出来、想いも強まってきている。
いくら世界平和に貢献出来る立派な仕事であるとはいえ、ジュニアが行ってしまえば激情にかられた自分が何を仕出かすかわからない。
ケビンは恋に盲目な堕落した超人と呼ばれても良いと思っている。

ベッドで仰向けに寝、「オレに出来ることが何かあれば・・・」などと、ぶつぶつ独り言を繰り返すうち、ひとつの事に思い至る。

「そうか!」

瞬時の閃きで、飛び起きざま無意識に声を上げてしまい、ケビンは慌てて口を塞いだ。
そして、その手があったか、と不敵な薄笑みを浮かべ呟くと、すぐに頭の中で算段を始めた。
ケビンは一度こうと決めれば、その殆どを実行に移す男、結果も自分が満足出来る状況へと結び付けることも多分に出来る。

ジュニアをあの場から助け、レジェンド達も納得して引き返す方法。
試してみる価値はある。
グスグスしてはいられない。

ケビンは着替えをし、財布からカードを取りだす。
・・・が、はた、と気付いた。
カードには自分の名があり、又、この“ケビンマスク”の姿では行けない。
このカードを使えば伝票にサインをすることになり、本人だという証拠も残る。
全てうまくいく方向に持って行きたいなら、どんなに小さな種でも撒くわけにはいかなかった。

しかしこの買い物は必須だ。躊躇う暇などなく急がねばならない。

ケビンはマスクを外し、バッグからサングラスを取り出した。
髪を束ね、後ろでくくる。
そしてサングラスをかける前に手持ちの紙幣を数えた。
余分に両替をしてきて良かった、と心のなかで安堵の息をつく。
そこそこの物は買えるだろうと紙幣を全てポケットにねじ込み、再び気配を消しながら階段を降り裏口へと急いだ。
途中、口々に問答する声が聞こえたが、ケビンは様子を窺うことなく、ただただ逸る気持ちを抑えながら邸を後にした。



***********************


(すぐ戻るからな、待っていてくれ・・・オレが絶対に行かせやしないぞ!)


目指す場所まで全力疾走すれば20分程度で着く。

ベルリンの街をひた走る若い超人のその背で、束になった長い金髪が、意思を持つ生き物のように跳ねた。




.
13/16ページ