FAKE 1
錆びた格子の鉄柵を小さくきしませ裏門から邸に入ると、廊下の向こうから大きな笑い声が聞こえた。
バッファローマンだ。
レジェンド達がまた来ると聞いていたケビンだが、この時間に居るとは想定外だった。
ブロッケンジュニアがどんな受け答えをしているのか知らないが、客が笑い声を上げているということは険悪な状況ではなさそうだ。
(もしや説得に巻けて行くことにしたのか?!)
話の場へ飛び込みたい気持ちを抑え、息をつめてそろそろと廊下を歩く。彼等が居るだろうリビングの前を通らなくては、私物のある階上へは行けない。
そのドアは開放されており、近付くごとに嫌でも会話が聞こえてくる。
今しがた笑い声を聞いたというのに、ケビンがすぐ手前に到達した時、室内は談笑どころか妙に静かだった。
「ジュニア、何度も同じことを言ってすまないが考え直してもらえないか?」
穏やかな声、ラーメンマンだ。
昨夜ジュニアが口にした、ヘラクレスファクトリーへの勧誘が再び始まっているのだと瞬時に察せられる。
いけない、と思いつつ、ほんの少しだけだと自分に言い聞かせ、ケビンは足を止め壁に張り付いて聞き耳をたてた。
誰かが何か言うたびに、ジュニアが拒絶の言葉を返す。
3対1では容易くはないだろうに、とケビンは愛する人に助け船を出したくなった。
が、その三人は今、ケビンの父・ロビンマスクと校長と教員という上下の繋がりを持っている。
いまだに父親にも母親にも全く居場所を知らせずにいるケビンが、彼等とここで対面してしまえばどうなるか。
間違いなく親の耳に情報が入る。
そうなれば、きっとジュニアに迷惑が及ぶ、ということからも安易に自分が飛び込むことは出来ない。
歯がゆさを感じつつも一旦やむなく通り過ぎ、音をたてないよう階段を昇る。
たかだか2階へ行くだけだというのに、足を運ぶ速度はともかく、やけに段数が多く感じられた。
途中の踊り場で詰めていた息を静かに吐く。
頭の中は、ジュニアの動向について・・・そればかりだ。
(何にせよ、行かれてたまるか!)
思わず握りしめていた拳を開きい、じっと両の手のひらをみる。今朝までこの手が彼に触れていた。
隣で眠るだけで充分だと思っていたが、例え軽くでもキスをして抱き締めてくれた。
間違いなくケビンが望む関係へと、僅かながらにも進展しているのだ。いま中断などさせるわけにはいかない。
ジュニアが首を縦に振るとは思えず、思いたくもない。
しかしその昔、苦楽を共にした仲間達の誘いでは・・・ブロッケンジュニアは義理堅く情に厚い男だ、と幼い頃に父親から聞かされている。
それは既に身を持ってケビン自身も知っている。
(何か決定的な、もしくはやむを得ないような何かは無いか?筋を通して悪びれずに断れる理由があれば・・・)
ケビンは残り半分の階段をまた息を積めて上がり、滞在中に貸し与えられている自分用の一室に漸く辿り着いた。
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