FAKE 1



【side:K】




ジュニアより先に目覚めたケビンは、すぐ横で静かな寝息をたてている想い人を見、抱き合うような形で眠っていたことに一人赤面した。
頬の下には彼の伸ばされた腕がまだ、ある。
女子供じゃあるまいし、と、腕枕に喜ぶ自分に思わず苦笑して、その肩近くに頬を擦り寄せた。

(言葉や態度はつれなくとも、本当はとても優しい・・・誰にでも、なんだろうか?・・・共寝するのは今後オレだけにして欲しいな、いや、この人の何もかもをオレだけのものにしたい)

このままジュニアが目覚めるのを待ち、おはようのキスをしたいと一瞬考えたが、さすがに調子に乗りすぎだろうと気が引けた。昨夜のチャンスに気後れした自分が残念でならない

(まだ恋人ではないしな…・・)

ケビンは名残惜しげにゆっくり身体を離し、また機会はあるさと自分に言い聞かせベッドから降り立った。
時計は8時ジャスト、目覚まし時計は仕掛けられていない。
じきに起きるだろうともう一度ジュニアの寝顔を見、「トレーニングに行ってくる」と囁くように呟くとマスクを手に寝室を後にした。



ひと気のない道を選んで三時間ほど走り、気が付けば商店の並ぶ場所に出ていた。
此処は帰りのコースではなかったが、方向は違わない。迷うよりはとそのまま町を抜けることにする。
平日の昼前、さほど人はいなくとも街中である。幾人もの通行人から熱い好奇の視線が遠慮なくそそがれた。

――あれケビンマスクだよな?
――何故ケビンマスクがベルリンにいるんだ?
――何か試合でもあるんじゃないか?
――ええっ?!聞いてねぇぞ?


その鬱陶しさにケビンは密かに舌打ちし、走るスピードを徐々にに上げた
超人オリンピックを制して以来、こんなことは日常茶飯事になったとはいえ、マスクでケビンだと知れてしまうのが難点だ。
覆面超人が一番に大切にし、何かしら拘りや、いわくを持つ身体の一部とも言えるマスク(仮面)。
しかしケビンにとって、それは特別に執着するほどのものではない。そんなものよりもプライバシーを守りたい位だ。

(いっそダミーのマスクでも買うか?ドイツにいる間、俺だと知れないように・・・)

ケビンは前回来た半月前からそれを考えている。
コソコソとブロッケン邸に出入りするのが嫌で、冗談まじりにジュニアに話すと、「好きにすればいい」と軽く返されてしまった。
ジュニアがケビンに対し、何故に極力邸への出入りに人目を避けさせるのかは納得済みだ。
面倒な輩に関係を詮索され騒がれたくない、とジュニアは言った。ベルリンでの滞在も最長3日間を限度にしろ、とも。
ケビンとて、もし誰かに問われた場合の受け答え方を数パターン考えてある。当たり障りのない短い台詞だ。

それでも。

「いつまでもこんなのは嫌なんだよな…」

呟いて、ケビンはふと目に留まったショーウィンドゥの前で足を止めた。
超人御用達の店か何かなのか、様々なマスクが並んでいる。
部分的なパーツやケビンと同じような・・・マスクというより仮面としか言えないゴツいものまであった。
どれも頭のサイズさえ合えば使えそうなものもなくはない。

「ひとつくらい買うか、本当に」

と再び小さく呟き決意をしたものの、ランニングに出ただけな為、紙幣もカードも持っていない。
ケビンは一度ブロッケン邸に戻ろうと一気に街を抜け、住宅街に入ると再び軽やかに走り出した。




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