FAKE 1
立ち上がったケビンは、少し迷ったのち足元の毛布を広げてジュニアに掛け、それから天井の照明を消した。
それからスタンドの明かりを頼りにベッドの片側へもそもそと潜り込む。
一緒に眠たい願いがこんな形でとはいえ叶ったキッカケにケビンは密かに感謝した。
「こっちも消すが、いいか?真っ暗闇になるぞ」
ジュニアはケビンの方に毛布を引いて寄越しながら、ああ、と短く答えた。
それを受けてスタンドの紐を二回引く。
やっと暗闇に包まれたからだろうか?ジュニアが安堵の息をひとつついた。とはいえほんの数時間で朝が来る、この暗がりもじきに薄まってしまうのだが・・・
ベッド横の窓の向こう、カーテン越しにさしこむ月の明かりが枕元を微かに照らしている。
ケビンはジュニアの横顔をじっと見つめた。
「・・・どうした、眠れないのか?」
気付いたジュニアがケビンの方へ顔だけ向ける。
「まだ、もう少し見ていたい」
「何をだ」
「オレの最愛の人に決まっている。寝たらすぐ朝になっちまうし、そんなの勿体無いだろう?1分でも1秒でもこうして見ていたいんだ。こんな至近距離、滅多にないしな」
「はぁ・・・何を言ってるんだか・・・おまえは本当に物好きな男だ」
「何とでも言ってくれ。好きな相手を見ていたいのはごく普通の心理だろう?そら、月灯りにあんたの嫌そうな顔が映えて・・・とても綺麗だ」
「此方が嫌そうな顔だと分かっていながら何が綺麗なんだかな。おかしなことばかり言わず寝ろ。いつまでもジロジロ見られていちゃあ気が散って眠れん」
「もう少しだけでいい、頼む」
「…今夜は頼まれてばかりだ。俺の意見は全く聞き入れられないというのに」
ジュニアは月の光のさす方を暫し見たが、ふとケビンに向き直った。
「ケビン、もう少し側に来い」
「え…?」
「惚けてベッドから落ちたくはないだろう?」
ケビンはおずおずと身体をずらし、ジュニアのすぐ傍らへ寄る。すっ、と布越しに肩が触れ、ケビンがぴくりと身体を震わせた。
「何をビクビクしているんだ」
「あ…、いや、その…少し、その、あの...」
「何か言いたいことがあるならハッキリ言え。本当に俺は寝るぞ。明日また奴等が来るんだ」
「…す、していいか?」
「うん?」
「キス、してもいいか、って…」
「何かと思えば・・・それか」
ジュニアは今夜何度目か分からない深い溜め息をついた。
「我慢してたんだ、ずっと。あれから一度も、ないだろ?」
ケビンは上体を少し起こし、ジュニアを斜め上から見下ろした。
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