FAKE 1





「よぉ!レジェンドの皆様は帰ったのか?」

「ケビン・・・いたのか」

疲れが倍増したような感覚に襲われ、力なくジュニアはベッドに寄ると、なりふり構わずドサリと仰向けに寝転んだ。
あんなに拒んだケビンの存在も今はどうこう言う気力すらない。
座っていた椅子から立ち上がったケビンは、遠慮なしにジュニアの横たわる広いベッドに腰掛けた。

「なんの話だったんだ?こんな夜中に来て…もしかして緊急の何かが?」

「来年、何か大会があるらしいぞ…宇宙規模で」

「それだけか?」

「後は、俺をヘラクレスファクトリーに連れて行くんだとか」

「え…?」

「おまえのダディもそのうち此処へ来るかもな」

「何でダディがベルリンへ…、いやそんなことよりあんた、行くのか?!」

仰向けに大の字になったままのジュニアの上に、ガバッとケビンが身を乗り出した。
その行動は咄嗟の勢いであり、おかしな意味などないのは誰の目にも明らかだ。

「行くわけないだろう、俺はここから離れるつもりはない・・・学校の教官なんてのも柄じゃないからな」

「よかった・・・」

「なにがだ?」

面倒くさげにジュニアはケビンを見つめた。
いつの間にか半袖のTシャツを着ている。マスクは既に外し、サラサラの金髪の毛先が、ジュニアの頬に触れるか触れないかの位置で揺れていた。
だが近すぎやしないかとたしなめる気力すらジュニアにはない。

「よかったというのはあれだ、考えてもみろよ、国を越えるのは簡単だが宇宙となるとさすがに容易くはないだろう?いま以上に距離が出来ちまうのは俺が耐えられない!」

「そうか・・・それならおまえと離れられるチャンスなんだな」

「おいおい!それ本気で言ってんのか?!」

ケビンが瞳をこらして食い入るようにジュニアを見下ろす。
その真剣さに思わず笑いそうになったのをこらえたジュニアは、長い金髪をすこし束ね軽く引っ張った。

「ばーか、冗談だ・・・それより、おまえずっと起きてたのか?ここで」

「初めはあんたを追いかけて階段の上に・・・とりあえず安全を確認してからここに戻って椅子とドアを往復していた。玄関での挨拶は耳に入ったが、後は何も聞いちゃいない。盗み聞きの趣味など無いしな」

「・・・そうか。客間で寝ていろと命令して行けばよかった」

「例えそう言われてもここにいたし起きて待っていた。少しでも多くあんたといたいからな」

一見柔らかなようでも瞳の奥に哀愁を秘めた、どこか大人びた微笑。
ジュニアはこの表情を見ると、何故かいたたまれない気分になる。自意識過剰かも知れないが、ケビンの憂いの種は自分なのだと思うからこその感情。

ケビンはジュニアに対する恋心を隠しもせず、どんな時でも言葉や態度で示し続けている。
『あんたは俺を絶対に好きになる』
と、彼は一方的に決め付けているが、その裏では言い知れぬ不安が渦巻いているだろう。
洞察力に長けているジュニアだからこそ、ケビンの言動からそれらが垣間見える度、自分が残酷な真似をしているのでは、と悩みもするのだ。


「なぁ、ケビン。そろそろ寝たいんだ。照明を消してくれないか?」


少し不自然な間の後、ジュニアが先に口を開いた。

「いいぜ。全部か?」

天井の控えめな灯りとベッドサイドのスタンド。

「ああ。スタンドの方は…おまえがベッドに入ったら消せばいい」

「え…」

「早くしろ、寝るんだろう?」

「ブロ…本当に?」
いいのか?と、ケビンは目を閉じてしまった相手を凝視する。
ジュニアは、うっすらと目をあけケビンに頷くと、早くしろ、と低く呟いた。




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