FAKE 1





「悪いな、こんな遅くに。まさか空港に空きがないとはな」
バッファローマンの一際大きな声が響く。

「かろうじてまだ起きていたから気にするな。で、移動に使った機体はどこへ?」
茶をいれながらジュニアが聞く。

「近くの山にヘリポートがあった。空いてたんで無断でだが使わせてもらったよ」
ガハハとリキシマンが笑いながら答える。

「この近くでヘリポートがある山…。もしかしたらその山の所有者はブロッケンかもな。俺の代になってからは誰も使っていないはず、かなり荒れた野っ原になっていなかったか?」

ジュニアの言葉に一同がうんうんと頷く中、ラーメンマンがジュニアを手伝い茶器を運ぶ。

「ジュニア、随分と顔色がいいな。寂しい思いをしていないか少し心配していたんだよ」

「好きこのんで一人でいるんだから寂しくなどあるわけないだろう?自由の身になれたのは何年ぶりだか・・・そういった心配はご無用だ」

ラーメンマンのにこやかな表情につられて、ジュニアも笑みで返す。
昔仲間でよき友である3人の来訪、ジュニアは内心、喜び半分、訝しみ半分、という感じだった。
この時間に揃って訪れるということは、何かしら急用の類いだろう。

「顔色いいってことは、まさかおまえ、コレが出来たか?」
バッファローマンが卑下た笑みで小指を立てた。

「まさか。残念だが俺はおまえらと違って、そっちは昔から苦手だ」

ジュニアの言葉に一同はそれぞれの声音で笑った。
昔のように集い、笑い合いながら、ジュニアは時間が戻っていくような気がした。
苦しい戦いばかりの日々でも仲間がいたからこそ乗り越えてきた。
彼らとの友情は一生の宝だとジュニアは思っている――――のは確かなのだが…
「ところで…レッスル星にいるはずのおまえ達が何故わざわざ俺のところまで来たんだ?」
誰かが口を開く前にと、ジュニアは肝心なことを尋ねた。

「きっかけは委員会の呼び出しだ。来年あたりに何かしら大会を企画するとかで、それを機に新たな試みをしないかと打診されてな」

ラーメンマンの言葉に頷いてリキシマンが続ける。

「10歳以下のジュニア部門を設けて、次なる将来有望な若手正義超人を発掘しようってわけさ。優勝したガキはバッファかロビンへの挑戦権を持つ、っていう余興付きにしたいとか」

「ほう、それはなかなかの名案だな。開催はどこで?また日本か?」

「まだ決まっていないんだが、キン肉星が有力みたいだぜ」
それでよぉ、と、バッファローマンが最近仕入れたという、元仲間でキン肉星の大王・スグルの間抜けた話題を持ち出し、話がまた逸れ・・・やがて夜も更けゆき、このままでは朝になりかねないと、ジュニアは咳払いをひとつして話を戻した。

「それでベルリンには何をしにきたんだ?」

訝しみつつ、ジュニアは一番まともに話をしてくれるだろうラーメンマンに尋ねた。

「そうだったな、すまんすまん。我々は明日レッスル星へ帰るんだが、その前にどうしてもおまえに話がしたくてな」

「俺に?」

「我々も歳を取った。まだ暫くは教官を続けるつもりだが、いかんせん全員の年齢層が高いからな。引退する者も少なからず出ているのだよ」

溜め息をついたラーメンマンに代わり、バッファローマンがテーブルに身を乗り出す。

「そうなんだ、俺達は人手不足も深刻化してきた。いま数名、新たな協力者候補に誘いをかけている。だがな、俺達の一番の狙いはおまえだ、ブロッケン」

ジュニアは目を丸くしてバッファローマンを見つめた。

「おまえ何を言ってるんだ?まさか俺にヘラクレスファクトリーの教員に加われと?」

「ああ、そうだ。おまえは要請を一度断ったが、あの時はジェイドを弟子にしていたからだよな?そのジェイドも独り立ちしたことだし、俺達よりも若い。そろそろ来たらどうだ?」


「よしてくれ、俺に教官など勤まるものか。俺はこのまま隠居したいと考えているんだ」

ジュニアは苦笑しつつそう言い、勘弁してくれという意味合いで手をヒラヒラ振って見せた。

「何を言うんだ。おまえはジェイドみたいな立派な正義超人を育てたじゃないか。その力をもっと沢山の若い奴等に使ってくれよ。おまえが来れば俺達も嬉しい」
ジュニアの隣に座っていたリキシマンが肩を叩く。

「そういうわけだ。ジュニア、今すぐにとは言わん。支度が出来次第でいい、我々の元へ来てはくれまいか?」

「ラーメンマン…。いくらみんなの頼みでもなぁ…申し訳ないが俺は冗談抜きで辞退させてもらう。他をあたってくれ」

「おいおい、そりゃねぇだろう?むこうで俺達とまた楽しくやろうぜ?休みの前の夜なんかは、ラーメンマンの中華とリキシマンの鍋、それに美味い酒で楽しめるんだぜ」

「それは魅力的な話だがな、俺はこの邸で静かに暮らしたい。もし地球で何かある時は、内容によって多少はバックアップさせてもらう。それで免除してくれないか」

「ジュニア…どうしてもか?正直、我々はスカウトだけが目的ではないのだよ。おまえがまた闇に迷わないよう…また一人になったおまえが道を誤らないか心配で、共に目標を持って歩もうと…」

「ラーメンマン、あんたは俺の師匠みたいなもんだから言いにくいが…本当に勘弁してくれ。そしてこの話はなかったことにして欲しい。心配してくれたことには感謝するが、俺はもう馬鹿な真似はしない。大丈夫だ」

「しかし、ロビンも楽しみに待っているんだよジュニア。私達がおまえに断られたとあれば、きっとロビンが直々にここへ来る」


(ロビン、ロビンマスク・・・?)

ジュニアはその息子であるケビンが上にいることを、すっかり忘れていた。




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