FAKE 1





「何故だ?別に構わないだろう?」

「何故もクソもあるか、いい加減にしろ!」

ブロッケン邸の主寝室。

当主のブロッケンJr.(以下:ジュニア)とケビンマスクが先刻より対峙している。
背後にはベッド、ジュニアはガウン姿、ケビンは上半身裸。
他の者がこの光景を見たならどう思うだろう?

「一緒に寝るだけの何が悪いんだ」

「だから客間で一人で寝ろと…さっきも言ったが、大体こんなに部屋数があるというのに、なぜ俺の寝室なんだ。こっちが理由を聞きたい位だ」

口論のきっかけは、昼間ふらりと訪ねてきたケビンが泊まっていくと言い、夜、ジュニアの寝室を訪れたことから始まる。
ケビンはジュニアに恋の告白をしてから、半月も空けずに度々ドイツにやってきた。
今は平和な世の中だから出来ることである。
だからと、怠けすぎるな、とは、ケビンに限っては面と向かって言えない。
ジュニアはケビンが何もしていないようで、毎日何等かのトレーニングを積んでいる事を知っていた。
それは本人からも聞き、実際その目で何度も見ている。

今日も夕飯前にブロッケン邸の一室(室内トレーニング設備が備わっている場所)に、二時間籠って汗を滴らせつつ出てきた。
だからジュニアはケビンに、怠慢を理由にして来るなとは言えない。

特にジュニアの元へやってきたからと何があるわけでもない。
会えればそれでいいんだと言っては、ふらりと訪れる。

今日で5回目になるケビンの来訪、うち3回は泊めたものの主の寝室にまで押しいってきたことは、ない。
原因は夕飯の席での話の綾で、ジェイドが子供の頃、一緒に眠ったことが数回あったと、ジュニアが口を滑らせた為…
子供相手、しかも10年以上も昔のことに激しく嫉妬をしたケビンが、今夜一緒に寝たいと言い出した。
まさか本当に寝室に来るとは、ジュニアは考えもしなかったのだが。

そして話は冒頭へ戻る。


「大の男…しかも超人が二人で横になれば、いくら広いベッドとはいえ狭いだろうが。更に夜中はもう結構冷えるんだ、おまえと毛布の取り合いをするのは御免だぞ!」

「俺の寝相は悪くない。好きな相手と共に寝たいと思うのはそんなにいけないか?まぁ腕枕位はして欲しいが」

「そんなことを言うおまえだから、俺はお断りなんだ!」

「別に何をしようとかは考えてな……、ん?」

ケビンが突然口を閉ざし、窓の方向を見た。

「おまえも感じたか…多くはないな、3、4人というところか」

二人は同時に、邸の庭から建物へ近付いてくる者の気配を感じ取っていた。

「俺が見てくる」

マスクを素早く被ったケビンが飛び出して行こうとする腕を、ジュニアが引いてその勢いを止めた。

「待て、悪しき気ではないようだ…知り合いかも知れん。だとしたら客だ」

ジュニアはガウンの前をきっちり結ぶと、ケビンを押し退けて廊下へのドアを開けた。

「客、ってもう23時を回っているぞ?もしも悪行の残党だったら…」

「ふん。最悪そうでも、雑魚の数人程度なら俺だけで充分だ。おまえは降りてくるなよ」

ブロッケンJr.の邸にケビンマスクが出入りしている、というのは、どちらにせよ表沙汰にはしたくないのが本音なのだが・・・ジュニアはそのまま静かに廊下へと出、階下へ向かって行った。




玄関から古びたチャイムが鳴る音。
ドアの開く音。
当主ブロッケンJr.と、何人かの男の声。挨拶を交わしているようだ。
二階の、階段のすぐ横に身を潜めたケビンは、耳を澄ませて状況を探っていたが、やがて階下から男たちの笑い声が聞こえた。




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