Reach your heart.





「これは…!!」

中から出てきたのは、重い台座のついた何かカップらしきもの、いや、あのトロフィーだ。

「おまえ、これはオリンピックのか?!」

「そうだ。あんたに渡すつもりで持ってきた優勝トロフィー」

「こんなもの持ち出して…っ、ロビンが知ったらどうするんだ?!」

「あいつには関係ない。ただ人に自慢する為だったり一人眺めて悦に入ったりするあいつの飾りものに過ぎん。オレにはオレの利用価値があるものを勝手に・・・」

「自慢だの利用だの、お前たち父子は何なんだ?!このカップをめぐり、代々のオリンピックで数えきれない超人が戦い…たった一人、勝者だけがこれを、ロビンは一度、自身で手にしたことがあるだろうに、情けない」

「オレはそいつの、現持ち主だがその重みは測れない。価値もよくわからない。だからあんたに持っていて欲しい。あんたなら誰よりも価値を知っているし、いつかそれを手にすることを切望していたろう?失礼だが・・・・あんたもジェイドすら手が届かず、ブロッケン一族は呪われているとさえ噂された。オレはこれをあんたに捧げたい。いや、本当は…その為にこれを掴んだ。あんたに勝利を贈るために俺は勝ち上がった」

「ふん、まるで取って付けたようなでたらめだな・・・」

「何とでも言ってくれ、真実はそいつが知っていればいいんだ。ベルトは次のオリンピックがあれば返還、残るのはこれだけだ。もらってくれるよな?」

Jr.はトロフィーを見つめ、おそるおそるという手つきで触れた。

一気に思いが若いあの頃に還る。
頂点を目標に厳しい鍛練に耐えた少年期、父親が無惨に殺されるのを目の当たりにした青年期。
そして18の時に出場した、最初のオリンピックでの因縁のラーメンマン戦…
それは数百戦の無敗を守ってきた自分にとって初めての敗北でもあった。

ああ…
とジュニアは低く呻く。
涙が一筋、その頬を伝う。
それを見ていたケビンは、Jr.の前に膝をついた。

「次も、その次も、またその次も…あんたの為にこれを実力で奪ってくる。あんたが成し得なかったこと全てをオレがやり遂げる。あんたが欲しいものはオレが全て奪ってくる。だから、見ていて欲しい、ずっとオレの傍で」

「おまえ・・・・何年後を言っているんだ」

「あんたが俺を好きになるまでずっとだ。何年でも何十年でも認めてもらうまで俺は諦めない」

「馬鹿だ、おまえは・・・・」

「あんたが言うならそうなんだろうな」

「大馬鹿だ…」

「何とでも言ってくれていい」

ケビンは笑って何度も頷き、そしてJr.の手からそっとトロフィーを放させ、ソファー横のローテーブルに置いた。


「今のでほんの少しくらいは惚れてくれたか?」

「…ああ、そうかもな」

こんなに馬鹿な奴なんだがな、
と、ジュニアも微かに笑った。
場が少し明るくなった、とケビンは安堵する。
自分がしたことにも言うことにも、否定だけでなく肯定も入るようになった。このたった数時間でだ。
長く悩んでいたあの年月は無駄ではなかったが、もう少し早く来ても良かったのでは?という気もした。




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