Reach your heart.
(もう一度会えたら好きだと言う、返事は考えてもらうとして一旦引き上げる・・・・そして次に会えたら答えを聞き、無理ならば潔く諦めるしかない。告白するならその位の決意が必要だ。オレのようなガキが成熟した大人の男に告白してもフラれて終わりが関の山・・・・仮に、仮にだが、ブロッケンJr.にゲイ気が少しでもあれば、進展しないこともないかも知れんが・・・・全ては『if(もし)の話だからな。案外恋人くらいいるかも知れない。あの弟子はもう出ていったというし、いよいよ結婚を考えても不思議ではない・・・)
『もし他に誰かが居たら』まで想像が及ぶと、ケビンの心は焦り始める。
友人としてなら取り返しのつかぬ喧嘩でもしない限り、半永久的に別れることはない。
しかし、仮に恋人の(ような)付き合いをすれば、些細なことで二度と会えなくなる可能性はいくらでもある。
(もうあまり考えたくない・・・・とりあえず早く、一度行こう。そこでオレがどう出るかで何もかもが決まる気がしてならないが、駄目で元々なら早い方がいい。焦らずライトな関係を築ければ上等なのは判っている。判っているが、オレは言ってしまうだろう、“あなたが好きだ”と)
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決意だけは出来たが、半引きこもり生活を始めてから1ヶ月経過しても、ケビンは未だ行動に移せずままだった。
逸る気持ちを制御しつつ、「何も考えない時間も必要だろう」と、まず怠惰な生活を改めるべく毎日同じリズムで過ごすよう心掛けた。
朝昼晩の食事は決まった時間に摂り、睡眠はたっぷり8時間。
外出を避け室内に隠りきりの為、大したことは出来ないが、通信販売で購入した屋内トレーニング用のアイテムを使い、筋肉筋力が衰えぬよう、それなりに身体も鍛え始めた。
時には外へ出ねばと思うようになり、濃霧の深夜や早朝を見計らい短時間でもランニングに出る。身体を動かせば腹が減り、睡眠の質も良くなり、ケビンの精神状態も少しずつ安定していった。
オリンピックでの負傷からも殆ど回復し、これは残ってしまうかも知れないと思った傷も、殆ど目立たなくなってきた。
リングへの復帰時期はまだ考えていないが、いつ何が起こるか分からないこの御時世、あって欲しくはないが有事の際は駆け付けねば、チャンピオンの名が廃る。
(平和は永遠ではないからこそ、今しかやれないことをしておきたい・・・・特に今までしたことのないことを・・・・例えば、恋愛。片想いはもう充分したが、恋人の付き合いというか、その先というか、それらをブロッケンJr.としたい)
ケビンは1日の終わりに、就寝前のひとときを自分の願望実現に向けて思考する時間と決め、あれやこれやと考える。ほぼ妄想に近いようなことまでも、この時間だけ許して欲しいと、ブロッケンJr.に心の中で謝りながら・・・・
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