Reach your heart.





さて、謎の悪行超人として世に現れたケビンマスクには、一期生だけでなく二期生らも敵わなかった。
――――が、二期生の中に一人だけ悪行超人が紛れ込んでいたことを、ケビンだけが見抜き、しかし確信出来ず秘かに探り続けることにした。

駐屯任地を賭けた、一期生対二期生の試合を遠巻きに注意深く観戦するうちに、『九割九分、間違いない、あいつだ』という確信を得たケビンは、何とか二人だけでの接触を果たす。

スカーフェイス、と名乗るその超人こそ、悪行超人でありケビンと共に苛酷な鍛練を積んでいた『マルス』だった。
常に決死の覚悟で行う修業の中で、『マルス』は脱落しかけたケビンの命を救った恩人でもある。自ら負傷をしてまで・・・

その『マルス』がオーバーボディを纏い、別人になりすまして正義超人大学校に入学、そして卒業・・・・いわば敵の懐にまんまと入り込んでいたことになる。
ケビンはそれを知らなかった。
敵を欺くには先ず味方から、という『マルス』の策のひとつであったに違いない。

ケビンはその場で『マルス』をタワーブリッジで締め上げたが、あと一歩の所で関係者らが駆け付けてきた為に断念。今をときめく『二期生のヒーロー』を襲った暴漢として捕らえられてはたまらない。慌ててその場から逃げ去るしかなかった。


『マルス』いや、スカーフェイスの強さは同世代の中でケビンと同じく群を抜いている。
正義超人大学校の卒業試験でバッファローマンを相手に軽々と勝ち、今回の試合でも当然の如く二期生側の決勝に進んだ。
一期生側は、いつの間に力を付けたのか最弱と思えたキン肉万太郎が決勝のリングに。
『スカーフェイス』を正義超人として疑わない関係者一同と観客達。真実を掴んでいるのはケビンただ一人だ。


「この決勝線、嫌な予感がする。マルスを勝たせてはいけない。だがオレにはどうすることも出来ない・・・・」

走りながらの帰路、ケビンは何度となく呟いた。


*****



結果的にケビンは、決勝戦の観客席で伝説超人・ブロッケンJr.と邂逅し、背中を押される形でその『スカーフェイス』は『悪行超人のマルス』だと試合真っ最中のリングサイドで暴露した。
その場では真実を叫ぶことだけで精一杯であったが、全てが終わった後・・・・仮に出会ったのがブロッケンJr.でなかったら、恐らく何も出来ず何も言えなかっただろうと思った。

初対面とはいえ、ケビンはブロッケンJr.について殆どのことを知っている。
後から調べたのではなく、とっくの昔からだ。
かつて父親が滔々と語った若い頃の話や正義超人の歴史にも、ブロッケンJr.は度々登場した。
まだ幼いケビンがその伝説超人、ブロッケンJr.に興味を持ったのは、まだ予備知識も殆ど無い3歳の時、父らとの写真を見て。
その日から彼だけに興味が湧き、いつまでも尽きることなく、早い段階で恋心だと気付いた。
最初に写真で見た時にもう、一目惚れをしていたとも言える。
家を飛び出し悪の道へ足を踏み入れてからも、人知れず心の中で温めていたその淡い想い・・・・その相手が後にケビンを正道へ導くきっかけを作った。


「HE IS MY DESTINY.」
「Are you Mr.Right・・・?」


「ブロッケンJr.、彼こそオレの運命の相手に違いない」

思い込むのは誰しも自由だ。
この日を境にケビンのラブストーリーは始まったと言えよう。



.

.
3/14ページ