BK風邪ネタ集
◆2
「奥、奥・・・・あの突き当たりの部屋でいいのかなぁ?」
初めて上がった2階、長い廊下、両側にはドアが幾つも並んでいる。途中に曲がり角が1つ、まだ沢山部屋がありそうだ。
夜中は絶対独りでトイレに行けなさそうな感じ・・・
(この上の階もこんな感じだとすると・・・・部屋は幾つあるんだろ?二人住まいじゃ使わない部屋ばっかりだろうな)
キン肉ハウスという名の狭いボロ家に長年住んでいる僕には、まるでお城か大きなペンションみたいに思えて仕方ない。
(ブロッケンJr.さんはジェイドと出会うまで約20年も酒浸りだったというけど、ここに独りで住んでて寂しくなかったのかな・・・・ジェイドと出会って元のブロッケンJr.さんに戻ったということは、もしかしたら・・・)
「とか考えてるうちにドアの前まで来ちゃいましたよ・・・」
足がすくんでしまう前にスープを届けてしまわなければ。冷めてしまったら美味しくないし。
コン、コン。
ドアをノックする手が震えて、脚もガクガクして、胸はドキドキ・・・・ケビンマスク、僕はやっぱり怖いです・・・
『どうぞ』
あれ?今の、ケビンマスクではなくブロッケンJr.さんの声?
何か察してわざわざ居てくれたのかな?
寝ていていいのに気を遣ってくれてばかりだ・・・・いや僕が気を遣わせてしまってるんだろうなぁ。
(すみません、ブロッケンJr.さん・・・)
「し、失礼しまー・・・・・・す」
えええっ?!ちょっと!?ちょっと待って待って待ってー!!
どうしてベッドにいるのがブロッケンJr.さんなの?!
「ご、ごめんなさい、部屋を間違えました!ケ、ケビンマスクさんのお部屋は向こうの通路の奥ですね!?」
「いや、ここで合っている。・・・・おい、ケビン。ミートが来てくれたぞ、挨拶しろ」
「ミート・・・・久しぶりだな」
ブロッケンJr.さんの向こう側からケビンマスクの掠れた声が。
チビの僕には姿が見えないけど、まさか二人一緒に寝てたなんて思わなかった。
「け、ケビンマスクさん、、こっこんにちは、お邪魔してます」
(なんだか余計に気まずい・・・・)
「ミート、何を固まっている?・・・・と訊きたいところだが、まぁ予想通りの反応である意味ホッとした」
「よ、予想通り?」
「ケビンの寝室は本来別にあるんだが、喧嘩でもせん限り殆ど俺とこの主寝室で寝ている。片方が怪我や病なら別々だがな。今回は幸か不幸か同時に罹患、しかも風邪程度なら普段通りというわけさ」
「ブロ。その小僧に、あまりそういう話はするな・・・・まだチ○毛も生えてないんだぞ」
「あ、あれはバッファローマンさん達の悪ふざけです!ち、ち、ち・・・・そのそれ、下の毛は数本ありますから!ちゃんと生えてます!」
「なんだ・・・・生えたのか、つまらんな・・・」
「おいケビン!ミートには今日明日と世話になるんだ、失礼なことを言うんじゃない!」
「うるせぇ。もう寝ていいか?咳は止まったが、熱のせいでダルいし節々が痛てぇんだよ」
ブロッケンJr.さんの反対側の毛布が盛り上がって動いた。
たぶんこっちに背を向けて頭から毛布を被っちゃったに違いない。
「すまんな、ミート。こいつは寝起きが悪い上、2日連続で尻に注射を・・・・特大のやつを医者に打たれたもんだから機嫌が最悪なんだ」
「そ、そうでしたか、あ・・・・あの、気にしないでください、全然平気ですから!」
この程度なら大丈夫、もっとスゴくカンジ悪い奴だと思っていたし・・・・と、そこに本人が居なければ続けただろうな。
「あっ、ケビンマスクさんが寝てしまうなら、このスープはどうしましょう?少し冷めてしまったかも知れませんし、温めなおして後でまたお持ちしましょうか」
「いや、こいつは少々猫舌なんだ、それでちょうどいい。なぁケビン、むしろ助かるよな?」
ケビンマスク入りの毛布はピクリとも動かないけど、ブロッケンJr.さんが差し出した手にスープ皿を預けた途端、次の展開が頭の中にモヤモヤと浮かび上がってきた。
(これって単なる妄想じゃなくて、予知みたいなものだよね?)
「ほらケビン、美味そうなポタージュスープだ。要らんのか?」
「・・・・何のポタージュだ?」
「ジャガイモが沢山ありましたから普通の、ジャガイモを濾したポタージュですが・・・・ダメでしたか?」
「パンプキンがあったろう、イモよりパンプキンが良かった」
「おまえ、それ以上なにか言ったら頭からぶっかけるぞ」
「フン・・・ もし不味かったら吐くぞ」
「ケビン!」
「デカい声を出すな、鼓膜が破れて中耳炎になっちまう」
「ならば黙れ!さもないと下の毛を全部引っこ抜いて『チ○毛も生えていないガキめ』と嘲笑うぞ、いいのか?!」
「ざけんなオッサン!ならオレはあんたを丸坊主にして『ヘッドギアの下は実は万年ツルツル無毛地帯』と言いふらす」
「・・・・・・どうしよう」
よくわからないけど何か罵りあいが始まっちゃった・・・
この二人、本当に仲良いの?!
結婚するんだから悪いはずないけど、ブロッケンJr.さんの顔は怖くなってるし、ケビンは刺々しいし・・・心配だな。
(うーん、さっきの予知は外れて良かったのか悪かったのか)
「ミート、申し訳ないが夕刻まで下にいてくれ。スープは残さず飲ませる」
「は、はい!わかりました!夕飯にパンプキンのスープも用意しますね!では、あの、お、お邪魔しました、失礼しまーす」
逃げるように主寝室から廊下に出た直後、中でブロッケンJr.さんとケビンマスクが同時に咳き込み始めた。
(あまり酷かったら行った方がいいよね、少しここで待機していよう)
『ゴホゴホッ!ぶ、ぶろ、顔・・・・もう、いいゲホゲホぐっ、あ゛あ゛あ゛苦し・・・』
(顔って・・・・?あっ、もしかしてケビンは仮面つけていなかったとか?それで毛布に潜ったままだったのか?
彼はあまり仮面に拘らないようだと前にブロッケンJr.さんが言ってたけど、他人の僕に素顔を見られるわけにはいかず、それでずっと出てこれなかった?)
実際、『ケビンマスク本体』すら全く見ていない。声と毛布の山以外は何も。
(ケビンマスクの素顔ってどんな感じなんだろ?雰囲気的にイケメンには違いなさそうだけど・・・ それと、さっき思い浮かんだこの後の二人、絶対ああしてそうなるよね・・・・どうしよう、いけないことだけど、ダメだと分かってるけど、気になって気になって仕方ない・・・ ブロッケンJr.さん!ごめんなさい、ほらまだ咳も出ているし!色々ちょっと気になるだけですから!!)
悪いのは、目線の位置にある鍵穴ですよ・・・
つまり僕は
まだまだ未熟な若輩者ゆえ
この鍵穴の誘惑に勝つなんて
とてもじゃないけど出来なくて
だからちょっとだけ
ほんと少しだけ失礼致します
ごめんなさいッ!
・・・・・,・・,・・・・・・・・・・・・,・
無計画の即興って怖い。
3(後編)へ続く・・・
I'm sorry.