BK風邪ネタ集
◆ケビンが風邪をひきました。
(注・非ギャグ、のはず)
今から二十数年前。
オレがこの世に産まれた時『人間の男児の標準より少し小さかった』らしい。
それから離乳するまでの間は『ちょっと身体が弱かった』ようだ。
俄には信じがたい話だが、マミィがそう言うなら本当だろう。
物心ついたのは早かったように思うが、さすがに赤子の頃の記憶など無い。
1番最初で1番古い記憶は3才、その前は真っ白だ。
「覚え、てるのは、あの、くそったれ、ダディ、の、幼児、ぎゃくた、い、ゲホゲホッ、に、等し、シゴ、キ・・・・っ、ゴホッ、うぅ・・・ぐるじいぞ、ごんぢぐじょおお・・・」
「うんうん、わかったわかった、だからもう喋らんで寝ろ」
「い、や、だ。ゴホゴホッ、ぐあぁ、ごえが出にぐぃ・・・なあ、ブロっ、これ、ほんと、はつねつ、せいしょう・・・ゲホごほっ、ナントカ、とかって、やつ、か?もっ、とヤバイ、びょーき・・・」
「発熱性消耗疾患。何度言わせるんだかな?ただの風邪だ」
「うぐぅ・・・・」
「遠征先で伝染されたと自分で言わなかったか?だのに薬は嫌だの病人扱いするなだの、更にはまだ寒いこの時季に全裸で寝るわ薄着で早朝ランニングに出るわ・・・・己の体力を過信し俺の忠告を全く聞かず、それで悪化してこのザマ。自業自得だな」
「うぅ・・・すまない、鍛えかた、まだまだ、足りな・・・・ああブロっ、ティッシュ、テイッシュ!無い、もう無い」
「待て!今すぐ・・・・ほら、早く使え!垂らすんじゃないぞ!」
新しいボックスティッシュ、これで今日3箱目か?紙を無駄遣いしてすまない。あといま咄嗟にブロを使ってスマン。
最悪だな。
こんなのはいつ以来だ?
ただの風邪とはこんななのか?
鼻血なら慣れているが鼻水は不馴れだ・・・・痛くも痒くもなく自然に溢れて勝手に流れ出し、気付いた時には垂れ流していたりする。
啜ると喉に入って飲み込まざるを得ないし・・・・鼻水の成分は何だろう?塩辛い気がするんだが、涙と似たような水なのか?
止まったかと思えば今度は鼻づまりで息苦しい。出ても止まっても厄介な水だな。
「ケビン、使用済みのテイッシュなんぞ広げて見つめてる場合か?次がまた出てきているが」
「え゛?!」
「・・・・とりあえず出るだけかんでしまえ。俺は買い物へ行ってくる。落ち着いたら寝ていろ、おまえの夕飯はここへ持ってくる」
返事をしようにも連続で鼻をかんでる最中じゃ無理だ。
夕飯の時間まで放置・・・・いや、それまで寝ておけということだろうが、買い物とは何をどこまで買いに行くんだ?それで何時に帰るんだ?病人ひとり残して心配じゃないのか?!
ひとりになりたくないから咳き込みながらも喋り続けていたというのに。
(・・・・なーんてな、そんなことを言えば赤ん坊以下だ。
よし、鼻も咳も止まったこの隙に少し寝るか。
ただの風邪じゃあ病院のベッドでお目覚め~なんてことはナイだろ。
そうだ。明日の朝にはケロッと治っている確率の方が断然高いさ)
ああ電気シーツが暖かくて気持ちいい・・・・
すぐ側で何かカチャカチャというような音とヒトの気配で眠りから覚めた。
(・・・・天井が明るいということはもう夜か。随分寝たんだな)
音のする方へ首だけ向けた途端、頭がズキズキ痛みだした。
ぼやけた視界は何か白いものばかりに見える。
(ブロがメシを運んできてくれた以外に考えられないが・・・・何故ブロまで白いんだ?もしやエプロンを付けて賄いを・・・・まさか買いに行ったのは純白のエプロン?!)
まず普通なら考えられないことだが、もしそうならば是非!是非ともブロのエプロン姿をこの機会に拝みたい!!
きっと後光を発してキラキラだぞ。現に今なにか光ったし!
白衣の超天使と化したブロによるサプライズ看護だ―――!
・・・だが何か違わないか?
・・・・食い物の匂いがしないのは鼻づまりのせいだとしても。
・・・・・さっきから消毒薬らしき臭いが微かにするような、しないような。
・・・・・・風邪の菌避けにブロが消毒薬を撒いたとか?いや、それなら昨夜からしてるだろ。
・・・・・・あ?何かまた光ったぞ。
(う、ぐおあッ!重い!なんだなんだ?ブロ?!いきなりそんなガバッと上に乗って何を・・・・えっ?えええええっ?!
何故いまパジャマのズボンと下着をおろすんだ?まさか寝ているオレに欲情したのか?!
瞼が重くて薄目だがオレはもう起きて・・・・・・なにか冷たいものがケツを―――?!舐め・・・)
「よし、やってくれ」
「いやはや、寝ている者にも容赦無しですなぁ、ハハハ」
(もうひとり誰かいる!やってくれってブロ、あんたまさか他の奴にオレを!?)
「ギャアァァ――!」
痛い、なにを刺して・・・・
逃げたい、だが動けん!
ブロ!押さえ付けていないで助けろ!
勝手にオレのケツを他人に貸すんじゃね・・・・ぇ。
「いま叫びましたな」
「気にするな、こうでもしないと抵抗してさせやしなかったろう」
(痛かった・・・・ヤられたわけではないにしろ何か太いものがケツに刺さった、二人がかりで何をしたんだ?)
「ケビン、大丈夫か?」
「・・・・大、じょぶ、も何も・・・」」
平気ではなかったから叫んだんだ。何が何だかサッパリわからん、一体オレの身に何が?
あ、眠くなってきた・・・
(いやいやいや!いま寝たらダメだ、また何をされるか判らないじゃないか!
ん・・・?何かボソボソ話しているぞ。もうひとりの男は誰だ?声はじいさんっぽいがブロに敬語を使っていたような・・・・ブロッケン一族の誰かか昔の親衛隊とか?少なくともレジェンドの誰かではなさそうだが・・・・とても気になるが、ねむい・・・ねむ・・)
無理だ、この眠気には抗えそうにない。既に瞼が開かない。
その前にせめて少しでも会話を聞けないものか。
(ん?片方がベッドに腰掛けた、今度は何をしようってんだ?
額に手が・・・これはブロの手だ、間違いない)
「上がってはいないようだがまだ高いな。どの位で効いてくるんだ?」
「通常で約1~2時間ですが人間より多めに量を使えましたから、幾分か早い効果が期待出来るかと」
「そうか、良かった」
「明朝にはだいぶ楽になっているでしょうな。とりあえず風邪薬を5日分、頓服で解熱剤を数回分お渡ししますが、何かありましたらいつでもお呼び下さい」
やっと事態がのみこめたぞ。
白いのは白衣、この男は医者、消毒液臭も納得だ。
ケツに刺されたのは太い注射針だろう・・・・例え寝ていてもあんなモノをいきなりブッ刺されては飛び起きる。だからブロがオレを押さえ付けていた・・・・なるほどな。
オレが高熱を出して解熱か何かの注射をされ、いま薬を貰った、ということはもう大丈夫だ。
更に何かされる心配はない、よな?
だが、なんでケツに・・・
「しかし、実に羨ましいですなぁ、Jr.様」
「なにがだ?」
「いくら超人同士、いや男同士とはいえ、こんな素晴らしい相手をパートナーにされたのですからな」
「・・・・こいつが勝手に付き纏ったからだ」
「それでも何年か続いて今ではお二人で暮らしていらっしゃる。そして何よりそうして付き添っているお姿は、お幸せであることを物語っておりますよ」
「・・・そう見えるならばそれで構わん。確かに俺はコイツが大事だからな」
「お噂は少々聞いていましたが、お呼び頂けたことで真実を目の当たりに出来たのは、なんといいましょうか・・・・実に光栄なことで」
「これから先、ドクターが健在なうちはこいつも世話になると思う。以後よろしく頼む」
(ブロ・・・・、あんなにオレとの仲を隠したがっていたのに、医者だからってそんな安易に他人にバラしちまっていいのか?
まあ医者は患者について守秘義務があるというが、噂を聞くたび端から肯定するかも知れないぞ。
そいつは信用できるのか?
何かあってもオレは知らないからな)
まだ何か話しているが、そろそろ聞き耳たてるのも限界だ。
「こいつは・・・・の・・・・・・・・・だ。もう・・・・・・に・・・・・・なる」
「それは・・・・・・・・・・ですな。・・・・・・・・・・・・・、それを・・・・・・・・・・・・される。我々・・・・・・・・・・・・・。ああ・・・・・は・・・・・・・・・したな」
(よく聞き取れない、眠気が眠いぞ・・・・何かいまの変・・・・)
もっと聞いていたい、出来れば起きて会話に入り込みたいのに、もう、ダメ、だ。
それからすぐに寝付いてしまい、何本立てかの断片的な夢を見ながら朝まで・・・・・・・・・・
『ケビン、尻を出しなさい』
アノアロの杖を持ったダディが追いかけてくる。
その杖で何をするつもりなのか知らないが冗談じゃない!
『ほう、逃げるのか、先に鬼ごっこをしたいというのかな?』
おかしい、全速力で走っているのに余裕でついてきやがる!
何故だ?!ダディなど軽く振り切れる筈なのに。
どこをどう走ってきたのだか、いつの間にかドイツまで来ていた。海を泳いだ記憶はないがそんなことは今どうでもいい!
振り向くと槍投げのような構えで杖をかざして猛追してくるダディが・・・ それ、尻どころじゃねぇだろ、オレを殺す気か?!
ベルリンの街を走り抜け、迷わずブロの屋敷へ走った。
だが何故か屋敷は敷地丸ごと白い布で覆われている。
(ブロ!助けてくれ――!)
叫んでも声になっていない・・・ 一体なんなんだ畜生!
『さあ観念して尻を出すんだ、ケビ――ンっ!』
(ブロ、居るなら出てきて助けて・・・・いや、とりあえずあの布の中へ!)
『逃げるな、いい加減にしろ!』
(うるせ・・・え?この声は)
『ケビン、俺の言うことが聞けないのか?』
(ブロの声!)
だが背後から聞こえたぞ?ダディはどうしたんだ?!
もしやダディをやっつけてくれたのか?
振り向くと何かがキラリと光った。
ブロはどこに・・・・
(ギャアァァ――!)
・・・・・・・・・・
自分の叫び声で目が覚めた。
カーテンの隙間から射し込む陽の光は、朝と言うにはもう昼に近いような・・・ まぁいいか、オレは病人だ。
それにしても今のは酷い夢だった。
ブロに羽交い締めにされ、ダディがアノアロの杖でこの尻を刺した、いや突き付けられただけだったか?ああ、尖端は注射針だったようなそうでないような・・・・夢の中でも二人がかりかよ。
暫くは注射器がトラウマになりそうだ。
長いものも見たくないな。
もう一度、少しだけ寝直そう。
30分、いや20分・・・・5分でもいい、寝覚めが悪いと身体にも良くないんだオレは。
・・・・・・・・・・・・・
二度寝から覚めると、心なしか頭がスッキリしていた。
昨夜までのような熱っぽさも感じない。あの注射が効いたのだろうか?尻の・・・
咳は大丈夫そうだが、まだ鼻はつまっているな。鼻水出っぱなしよりはマシだが。
(氷枕がまだ少し冷たい、ということは寝ている間にブロが取り替えてくれたのか。
少し腹が減った・・・ 寝ちまって晩メシ食いそびれたもんな。
時に、いま何時だ?)
手探りで枕元の時計を掴み、盤面を見てタメイキ。
もう13時過ぎ、昼メシの時間に起きたかった・・・
(ブロはとっくに食ったよな。今から煩わせたくないし自分で何か簡単なものでも作ろう)、
とりあえず下へ行くか。
寝汗をかいたら着替えろと、ブロが用意してくれていた新しいTシャツとパジャマに着替え、更にガウンをひっかけた。
部屋は暖房が効いていても廊下や下階は少し寒い。
ブロに風邪が伝染らないよう、マスクを・・・・仮面ではなく使い捨てマスクをつけ、スリッパ履きで立ち上がる、と・・・・まだ多少足元がふらつく気がした。
(消耗疾患の消耗か?まぁ食欲なしでここ3日ロクに食ってないし、仕方ないよな。
階段から落ちないようにそっと歩こう)
・・・・・・・・
トイレと洗面を済ませ、それからリビングへ向かった。
この時間ならブロは暖炉の傍で何か読んでいるはず。
(ほらな、大当たりだ)
「・・・ブロ、おはよう」
「やっと起きたか。具合はどうだ?」
「昨日より随分ラクになった。鼻づまりと喉の痛みが少しツラい程度だ」
喋っても咳は出ないが酷いガラガラ声だな・・・・うまく発音出来ているだろうか?
「だからと油断すれば振り返すぞ。完治するまでは大人しく寝て過ごすといい。・・・・とりあえず突っ立っていないで座れ」
ここへ、とポンポン叩いている場所はソファの、ブロの隣り。
「そんなに近くへは行けない。伝染してしまう」
「おまえがマスクをしていれば問題ない。早く来い」
久々に見た優しい笑顔に逆らう術はない。
もし咳やくしゃみが出始めたら素早く離れよう。
(あ・・・)
隣へ腰掛けるなり額に手が。
「熱は37度台辺りだな。注射が効いて何よりだ」
「・・・・おかげさまでと言いたいが、何も尻に打たなくとも良くないか?しかもあんなやり方は酷いぞ。驚いたのなんの・・・・」
「昔からガキの注射は尻と相場がきまっている。注射されると知ればどのみち押さえ付けねば抵抗しただろう?」
「・・・・まぁな。注射は大嫌いだ。あとオレはガキじゃないぞ」
笑ってるブロを見るのは久々だ。どうしよう、ドキドキしてきた。
「おまえは話してくれなかったが、幼い頃に熱を出すたび尻に注射を打たれ、そして大泣きしたとアリサさんから聞いた。記憶にあるか?」
「・・・・ない。全くない。昨日も話したろう?一番古い記憶はダディの幼児虐待に近いトレーニング、オレが3才の時から始まった地獄の日々だ」
「確かに超人のガキでも身体作りには些か早いかも知れんな」
「だろ?」
「だがそのおかげで今のおまえがいると思えば、一概に悪いとは言えん。5、6年後に家を飛び出してからも何とかやっていけたのは、ロビンがおまえを徹底的に鍛えたおかげだろう?」
「・・・・だからと感謝などしていないぞ、オレは」
「するかしないかはおまえの勝手だ。今の意見はあくまでも第三者目線に過ぎず他意はない」
(あ、腕が、肩に・・・・え?!いいのか?そんな引き寄せたら顔が近く・・・)
「腹は減っているか?」
「あ、ああ、まぁ少し・・・」
「米を買ってきたから粥でも作ろうか、暖まるし胃にもやさしい。食ったら医者の薬をのんで夕飯までまた寝ろ」
「・・・・いいのか?もうキッチンに立つ位は平気だぞ」
「まだおまえは病人だ。たまには俺にも世話をさせてくれ。こんな時くらいしか何かしてやれる機会がないからな」
「そんなことはないぞ!?ブロにはいつも色々世話になってる。一緒にいてくれるだけでもオレは・・・・そういえば昨夜医者と何を話していたんだ?その、オレについて・・・」
「なんだ、聞いていたのか」
「最後の方は睡魔に妨げられて聞き取れなかったが、噂を否定しなかったよな、オレをよろしくとまで言っただろ?その後に何を話していたか気になるんだ。教えてくれないか?」
「・・・・・・」
嫌だと言うだろうが、駄目で元々だ。
ほらな、案の定だんまりを決め込もうとしている。
「すまん、無理に言わなくていい。つい口が滑っ・・いや、あの・・・・ああ寄り掛かりすぎて重いだろ?か、顔も近いしマスがあってもあまり話すと伝染するかも知れない。そうだ軽くシャワーでも浴びてくるかな」
「そんな掠れ声で早口はよせ、聞き取りにくいだろうが」
「だよな悪い悪いごめん、ではオレはメシでも浴びてシャワーを食って薬を寝るから!」
立とうと身動ぐも肩に置かれた手に力が入り、ガッチリ掴まれた・・・・ここは振り切るべきか?
「何を浴びて何を食うって?焦りようが丸出しだな。別に教えないとは言っていない。どんな話だか思い出していただけだ。これからこいつもよろしく、その後だな?」
ああマズイ、これはマズイぞ。
ただでさえ4日ぶりの密着でドキドキしているというのに、こんなに優しい声で囁かれるのは拷問だ。
「言い方は正確ではないかも知れんが俺の記憶違いがなければ、“こいつは俺の人生のタッグパートナーだ。もう間もなく正式に家族となる”と。で、医者が“それは大変めでたいですな。初の超人カップルの婚姻、それを我らが誇るベルリンのレジェンド・ブロッケンJr.様がなされる。我々人間も、特にゲイの市民達は特に喜びましょうや。ああ今日は当てられっぱなしで参りましたな”こんな会話だった。その後はおまえのことは抜きに世間話を少し・・・・うん?どうした、また熱が上がったのか?」
「いや、なんともない・・・・」
「それにしては顔が赤い。火照りや寒気は?」
「本当に大丈夫だ、何でもない」
「ウィルスが脳に回ると死ぬ風邪もあると聞いたぞ。あんなひどい目にあったというのに、たかが風邪と馬鹿にしてないか?」
「いや、だから熱は無くないが上がっていない。ただ暑いというか・・・・何気に凄い会話だったんだと知り逆にオレが照れてしまったというか・・・」
「そ、そうか。そういえば声の掠れがまた酷くなったな、少し回復したからと喋りすぎたからだろう。飯の用意をしてやるから少し待ってろ、シャワーはまだやめた方がいいダルかったらソファで寝てろ、俺はおまえのように手際が良くないから30分はかかるかもな、では暖かくしていろよすぐ作る」
自分こそすげぇ早口、と喉元まで出かかったが、いきなり鼻に違和感が。
(なにもこんな時に出てこなくてもいいじゃないかハナ水め!まだ詰まっとけよ!)
テーブルにティッシュペーパーの箱をを発見。
慌てて手を伸ばし数枚引き抜いき、盛大に鼻をかんでいる間にブロはキッチンへ行っちまった。
耳まで赤くして自分こそだ熱が出たんじゃないか?後から照れてどうする、もう言っちまった以上は取り消せないぞ?
実質上、ブロが身内以外の『人間』にオレとの噂を肯定したのはこれが初めてだった。
それからは少しずつだが、問われれば真面目に受け答えするようになった。
怪我の功名ならぬ風邪の功名か?
いや、ブロもそろそろ潮時だと思ったんだろう。いいことだ。
それから3日ほどブロに看護され、久々の風邪は完治に至った。
また病弱な身体に逆戻りしたい、と思ったのは秘密にしておこう。
後日。
完治から一週間後、ケビンは『たまには皆とトレーニングしたい』と一人で日本へ向かった。
日本ではインフルエンザが大流行中で、『また悪いウィルスに侵されなければいいが』とブロッケンJr.は心配しきり。
毎日ケビンに電話を寄越させ、安否確認を怠らなかった。
明日帰国するから、と報告を受けた夜、何気なく『世界の些細なニュース』というテレビ番組を観ていると、日本で昨日起こった『謎の通り魔事件』の報道があった
被害者は超人一人だという。
「超人か、ケビンは今朝何も言わなかったな」
事件現場からほど近い都心部にいたはずだが知らないとは、と首を傾げたが、被害者への取材映像を目にするなり、
「犯人はケビンだ」と確信した。
更に、
「おそらく風邪を伝染した相手はコイツだろう」とも。
「復讐に行ったのか・・・馬鹿め」
:::::::::
――ええ。他人から恨まれるようなことをした覚えは全くないですね。犯人ですか?青っぽい目出し帽に同色のコート姿で、身長は2メートル以上あったと思います。
――はい、心当たりは無いです。体格からして超人には違いないでしょう。
悪行の残党かもしれませんし、日本に駐屯中の我々、正義エリート超人軍団は明日にも集結し対策本部を・・・・・
『被害に遭ったガゼルマン選手は、先々週、高熱を伴う風邪をひいていたにも関わらず公式戦に出場。相手の顔面にくしゃみを連発する攻撃でダウンを数回奪いました。結果的に負けましたが、対戦相手が王者ケビンマスク選手ではまだ力の差が違うということでしょう。
これは無差別に超人を狙った超人による犯行とみてよろしいですよね、2代目中野さん?』
『そうですねぇ、まぁその―、相変わらずの不運といいますか、ツノがキレイに折られていますねぇ、これでは牝のガゼルに見えますねぇ、う―ん、やっぱり悪行かなぁ―(以下省略)』
真の被害者は風邪を伝染されたケビンだったということを、ブロッケンJr.以外は知りようがない。
―終―