頂いた小説(シンリン様より)
別れと再会は突然に
「いってきまーす。」
「にゃー。」
別れと再会は突然に。
ウルフマンがオリンピックに出てから数週間後、オリンピックも終わり何時もと変わらない毎日が続いていた。
涼華は仕事に向かうため靴を履く、すると玄関先で可愛く猫が鳴きながら近づいてきた。
「いってくるね、猫ちゃん。」
ウルフマンから貰った猫は立派な大人の雄猫に成長し逞しくなった、最近は玄関まで見送りに来てくれる猫を一撫でしたのち、職場に向かい歩き出す。
(あの騒がしさが嘘のように…静かだなぁ…。)
超人オリンピックが終わった後、賑わいを見せていた街は元の静けさを取り戻し始めている、チュンチュンと柔らかく鳴く鳥の声を聞きながら歩を進めれば、前からよくみる彼がランニングをしながら現れた。
「おっ、おはようさん涼華。」
「おはよ、ウルフマン。」
彼…ウルフマンとの関係も続いている、オリンピックの時は流石に居なかったが落ち着きを取り戻した今、また朝のランニング中に出会うのが日課になっていた。
「これから仕事か?」
「うん、ウルフマンは稽古?」
「ああ、キン肉マンに超人相撲で土をつけられるなんてな俺のプライドが許さねえからな、今度は絶対負けねぇ。」
「頑張って、私も猫も応援してるよ。」
実際、負けた直後にウルフマンに会った時はかなり落ち込んでいた、このまま終わるのかと心配したが無事にやる気を取り戻してくれて良かったと思う。
自信に満ち溢れたキラキラ光る瞳は変わらないなぁ…としんみり思う。
「そういや、涼華は猫っていつも呼んでるが…あの猫の名前何て言うんだ?決めてんだろ?」
「あー、…決めてない。」
「はっ?」
「だから…ずっと猫とか猫ちゃんとかで事足りたし…。」
「つけようとか思わないのか?」
「…私、ネームセンスないし…。」
「センスって、例えばどんな名前だ?」
「…うーん…にゃんこまん…とか…。」
「それは…絶望的だな。」
結構自信があった名前を言ったのだが、黒目の無い筈のウルフマンの目が点になっているのが見える…。
「う…ん、真顔で言われると結構傷付くね…あ、じゃあウルフマンがつけてよ。」
「はっ、俺が…?、俺も苦手なんだが…。」
「お願い、私じゃ無理…。」
手を会わせ上目遣いで体の大きな彼を見上げれば、少し頬を染め目をそらし。
「あー、わかった考えといてやるよ。」
マゲを結った、立派な頭を掻きながら了解してくれた。
「ありがとう、ウルフマン。」
「ああ、涼華仕事の時間…大丈夫か?」
「あ…まずい、ごめんまたねウルフマン、ちなみに猫は男の子だよ。」
「おう、またな。」
このままだと遅刻してしまう時間になってしまったことに気づき、職場に向かい走り出した。
数日後…。
突如襲来してきた悪魔超人たちからキン肉マンを助けるため、ウルフマンは悪魔超人の一人のスプリングマンとの戦いに出ることになる、その日の前夜。
(ビデオでも録ろうかな…。)
結局…試合当日は仕事が入ってしまった、ウルフマンの戦っている姿を生で見れないのは残念だが仕事を休む訳にはいかない、勝つことを祈りつつビデオを録ることにした。
(そういえば、まだ猫の名前聞いてないな。)
ねこじゃらしを使い猫と遊んでいると電話が鳴る。
誰だろう?と思いつつ受話器を手にとった。
「もしもし…?」
「おう、俺だ。」
「えっウルフマン?、何で家の番号知ってるの…?」
「涼華の会社で聞いてみたら教えてくれたぞ、…今時間あるか?」
「うん大丈夫だけど、どうしたの?」
「あ…ああ、涼華も知ってるだろ、明日の戦い。」
「うん、スプリングマンだっけ。」
何時もより真剣な声の中に不安な気持ちも見え隠れしているようなウルフマンの声。
「俺らしくねえが…勝てるかどうか怪しいうえに、もしかしたら死ぬかもしれん…、そしたらなんか…おめえさんの声が聞きたくてな。」
「私の声でよければいくらでも聞かせるよ…ウルフマン、明日あの変なビヨンビヨンしたバネ野郎に合掌ひねりが決まるの楽しみにしてる。」
「ははっ結構毒舌だな…バネ野郎かそう考えりゃ負ける気しねえか、涼華すまねえ。」
「でも…負けてもいいから、負けてもいい…だから…生きて。」
「いや…負けるわけにいかねえ、俺が負けたらキン肉マン…アイドル超人達に迷惑がかかる。」
「うん、わかってる…大丈夫だよ。ウルフマンが毎日頑張ってるの知ってるから…私は頑張れしか言えないけど…祈ってる。」
「ありがとな涼華、…そろそろ切るわ、またな。」
「うん、また…。」
「ああ、じゃあな。」
電話から流れる規則正しい電子音をききつつ、彼の無事を願うしかできなかった
そして運命の日、彼は敗北した
ウルフマンはスプリングマンによる攻撃でバラバラになってしまった、どこからともなく仕事中に流れた噂…私は信じてなどいなかった。
急いで家に帰りビデオを再生すれば彼の砕け散った体、ただの肉塊に変わり果てた姿がテレビに写し出され噂は本当だったと確定してしまった。
(いくら超人でも、あれで生きてる何て無理だよ…。)
心の中に溢れる孤独感が目頭を熱くさせ、その場に力無く座り込む。
(もう会えない、分かんない…寂しいよ。)
昨日の彼の声を思い出し、何でやめさせなかったのかと後悔に泣くしかできなかった。
結局次の日の仕事が手につかず、有給が貯まっていた為数日仕事を休む事にしてリングのあった砂浜に来た、試合の後片付けが終わった此処は激闘があったことが嘘のように綺麗だ。
今日はキン肉マンとバッファローマンの戦いがある、そのためか辺りには人一人おらず静かだった。
(あの辺かな…。)
柔らかな砂浜を踏み締めつつ、彼が散った場所を目指す。
既に彼のファンも来ていたのだろう、幾つか花束が置いてあった。
その隣へ、持ってきた花束をそっと添える。
「死んだら嫌いになるって言ったのに…馬鹿…。」
花束に投げ掛ける言葉を聞いている人は居ない。
(もうすぐ終わりか…。)
「嫌いな人に涙なんて…もう出ないんだから。」
何時か彼に言った言葉を思い出し小さく呟き空を見上げれば、青く澄み渡っていた。
もうすぐ試合が終わる頃だろう、終わっても彼が帰ってくる訳ではない…そろそろ帰えろうとした時、何かが飛んできたのが見えた。
(光る…玉?)
「えっ!?」
足下の地面に吸い込まれた光る玉、何だろうかと足下を確認しようと下を見たとき、いきなり砂浜から腕が飛び出て足首を掴まれた。
「…っ!?…やっ!?」
驚きに声すら出ず尻餅をつきながら掴まれてない方の足で砂浜から出てきた腕や徐々に形作られてきた顔らしきものに向かって涼華は全力で蹴りを入れる。
(お化け、ゾンビ、助けて!)
「離してーっ!」
「痛ってえ!」
聞いたことのある声に驚いて足を止めた。
「…ウルフマン?」
そこには見知った、会いたかった顔がある。
「ああ、なんでここに…涼華が?」
バラバラになっていたはずの体は完全にくっついているようだ、切れ目は無く試しに引っ張ったが大丈夫そうに感じる。
「それより…なんで顔がぼろぼろなの?」
「おい、涼華…さっきおもいっきり蹴ってただろ…、まぁ…こっちも掴んだからな、痛くねえか?」
「足は大丈夫…でも心は大丈夫じゃない。」
思いきって彼の胸に触れる、温かな体温と脈打つ鼓動が生きていることを実感させてくれた。
「すまねえ…心配かけたようだな。」
「うん、心配したよ…でも良かった。」
「すまん涼華。」
ただ顔が痛々しくなってしまったので家に招く事にした、帰り道で他の人に見つからなかったのは奇跡だろう。
消毒液をガーゼに染み込ませウルフマンの顔に当てる、傷に触れるたびに体を強張らせる姿にとても罪悪感を感じた。
「ご…ごめんなさい。」
「べつに気にしねえが、…いい蹴りだったぜ。」
柔らかく微笑む彼に、頭を撫でられれば此方の頬が赤くなる、恥ずかしくなり顔をプイッと背ける。
「うっ…、い…いい忘れてた、ウルフマンおかえり。」
「ああ、ただいま。」
「にゃー!」
部屋の奥から餌を求めて猫が現れた。
「おっ、ちょっとこいタイ」
「…タイ?」
「名前考えろって言ってただろ、ちゃんと考えたんだ、変でも笑うんじゃねえぞ。」
「約束覚えててくれたんだ。」
「忘れるわけないだろ、んでどうだ?」
「ウルフマンありがとう、タイっていう素敵な名前をくれて。」
タイ~、と言いながら猫を抱き上げればやっと決まったのかと言わんばかりに一鳴きし体を預ける。
「ウルフマンお腹好いてる?よかったらちゃんこでも作るよ。」
「ああ、…ごっつぁんです。」
嬉しそうに微笑む彼の姿に昨日の孤独感が嘘のように消えていくのが解った。
それと同時に、私の中の彼の存在が…居ないのが辛くなるくらいに大きくなったことに驚く。
(…これは…好き…なのかな?まさかね。)
これが悪い感情じゃ無いこと位は分かっている、…まあ、それは置いといて先ずはちゃんこ鍋を作ろうと台所へと向かった。
終わり
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