「夏のメモリー」番外編



『炒飯仮面 ―British superman in China―』



みんな!待たせたな

愛と(自分の)平和の為に
戦い続けるエロースの化身
炒飯仮面は、名残惜しいが
おそらく次回でお別れだ。

ビッグベン・エ凸チ(H)が
オレを待っているからな!
・・・ベルリンで・・多分

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第3話 【誓い】-前編-





ラーメンマンの指示通りに作った中華料理は、確かにどれもこれも美味かった。
ブロとたまに行くベルリンの店など比べ物にならない。オレの炒飯が駄目なのもよく判った。
だが今はそんなことより他のことで頭が一杯だ・・・


「ケビン、味はどうかな?感じたことがあれば言ってみなさい」

「・・・・店で食うより美味い」

「そうか。他には?」

他、か。今は料理の話だよな。

「どうすればこんなに美味くなるのか知りたい」

「これらは今しがたおまえが作ったものだ。わたしは横から口を挟みつつ多少コツも教えた。どうすればいいかは解決したと思うが?」

「いや、これはただ言われるがま機械的に出来上がったようなものだ。それも短時間で手早く何品も・・・・とてもじゃないが一度ではマスター出来ない」

「ははは、一度で完璧にマスターされたらわたしの立つ瀬がない。だが思っていたより素質はありそうだ。手早さについては満点をやれる。その炒飯も3分で出来たのだからな。修行すればすぐに上達しそうだぞ?」

「その炒飯が最も苦手なんだ。オレはいつも10分以上かかっていたし、完成品は得体の知れない焼き飯もどき、冷凍したらリゾットだとブロが・・・・最悪だ!」

「違いはどの辺りか判るか?」

「専門的なことは知らないが、あの重いやつ・・・・鉄の鍋のようなフライパンでないと無理なのか?調味料もよくわからないものをさっき初めて使った」

「そこは仕方ない。中華鍋も今日使った調味料も、英国やドイツの家庭には無いだろう。だがわざわざ購入する必要はない、代用品での調理を教えよう。その他で疑問点はあるか?」

「・・・・今更だが、オレはここで中華料理を学ぶだけか?料理の大会に出るよう言われているが、何をどうすりゃいいのかサッパリだ。売り言葉に買い言葉でやると言ったが、ブロに詳細を訊けずまま来てしまった」

「わたしもそう聞いている。つまり中華料理が発端で喧嘩になり、ブロッケンがおまえを挑発、おまえはそれに引っ掛かり「やってやろうじゃないか」と息を巻いた。双方譲らぬ性格で後に引けなくなり、話が大きく発展・・・・その結果ブロッケンはおまえをここへ遣り、おまえはそれに従った、というのが一連の流れなのだろう?」

「挑発?オレは挑発されただけなのか?!」

「わたしもブロッケンから全てを聞いたわけではない、おまえの話と合わせて大体の経緯を想像したまでだよ」


いや、違うな。ラーメンマンはもっと知っていることがありそうだ。
ブロは最初に手紙を送り、その後は電話で何度か話し合っていた。
ずっと柔和な顔したままだが、あの糸ミミズのような目の奥底で何を考えているのか・・・


「さて、食事も済んだしテーブルを片付けてから茶を飲もう。ケビン、中国茶は飲めるかな?」

「ペットボトルの冷たい烏龍茶しか飲んだことがないが、多分」

「ではジャスミン茶とプーアール茶を淹れてやろう。ブロッケンが好きだった茶だ」

「ブロが好きな茶、か・・・」

「日本茶を少しブレンドしたのが特に気に入ってくれてな。冷やしても美味いからと夏はよく頼まれたよ。ああ、龍井茶も好きだったな、中国で日本の緑茶に準じる少し高級な茶だ。明日の夕飯で飲もうか」

「ああ、是非・・・・」

まただ、この人は何故こんなにもブロのことを・・・・

(茶の席で、今夜のうちに詰問しちまおう。白黒ハッキリさせねば滞在も師事も出来ない。場合によっては・・・・明日帰っちまおう)


もしオレの想像通りだとしたら・・・ブロ、あんたは大嘘つきだ。
すぐに帰ってまずぶん殴る!!





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『後はオレが』とラーメンマンを押し退け、調理器具と食器を一人で洗うことにしたのは、単に話をしたくなかったからに過ぎない。
そこへ拍子良く電話が鳴ったおかげで『いやいやわたしが』『いやオレが』等と無駄なやりとりもなく、短く礼を言われたのに対し頷いただけで済んだ。
話したくない、というのは相手が誰であろうと関係なしで、居たのがブロだとしても何かしら理由をつけて遠ざけたと思う。

(くそっ、なかなか頑固な油だ・・・・デカいフライパンや鍋は後にして先に皿を洗えば良かった。全て片付くまで15分はかかるか・・・・まぁ一人で考える時間は少しでも多い方がいいけどな)

この後の席で、ラーメンマンのペースにのまれてしまう前に上手く切り出さなくては。
なるべく失礼にならぬ物の言い方を心掛けつつ、訊きたいことを訊くにはどうすればいい?
ラーメンマンはレジェンド達の中でも1、2を争う知恵者だ。下手な誘導尋問ではすぐ見透かされるだろう。やはり単刀直入にいくしかないか?
だがそれで上手くはぐらかされたらどうする?
明日以降に持ち越しては駄目だ、今夜のうちに知りたいことの大半を・・・・いや、全てを明白にしておきたい。

(それでどんな言葉が返って来ようと、オレは平静を保たねばならない。気に染まなくともラーメンマンを恨むのは筋違いもいいところだ。修行をキャンセルし明日ここを出ていく言い訳も考えておかねば・・・・・・・・、いかん!戻ってきてしまった!)


「ケビン、もう終わっ・・・・ていないようだな。手伝おう。わたしが中華鍋一式をやるから皿の方を頼む」

「す、すまない、勝手がわからずつい、手間取って・・・」

「気にしなくていい、わたしが油汚れに最適な洗剤を教えていなかったのだからな。向こうの缶に業務用洗剤があるんだよ。さあ早く片付けて一服しよう。それからゆっくり入浴して寝なさい」

「・・・・All right.・・・Thank You.」



ダメだ、やはり敵わないかも知れない。こんな会話ですらオレはいちいち口ごもっている。


(器がデカすぎだ、いっそ怒るか呆れるかしてもらいたかった。何もかもオレなんか比べものにならないどころか天と地の底の差だな・・・・ブロが仇討ちから一変して尊敬の念を抱き、師事までした超人だけあるぜ)


皿を洗い終わる頃、先に片付いたラーメンマンが湯を沸かしていた。
新品の茶器を取り出した箱はオレがブロから預かったギフト、包装紙を見ればすぐ判る。

「欧州製にもこれほどの逸品があるとは・・・・」

喜ばれて何よりだな、ブロ。
好みなんか当然知ってるよな、オレの好みはロクに知らないくせに。


(ああ駄目だダメだ!どんどんマイナス思考になっていく!早く話をしてしまわなければ、このままではまた・・・・)


「よし、終わったようだな。こちらも茶の用意が出来たよ」

「遅くなってしまいすまない。茶の前にトイレを借りていいか?」

「ああ。食事をした部屋の続き間で待っている。窓が大きく夜風にあたるには良い部屋だ」

「わかった、すぐに行く」


3分後には席につくだろう。

これが最後の一人脳内ミーティングタイムだ!




ー続くー

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