「夏のメモリー」番外編
『炒飯仮面 ―British superman in China―』
やあ、みんな!
主題歌はもう覚えたかい?
オレは愛と(自分の)平和の為に戦うエロースの化身、
炒飯仮面だ!!
フェラ~~~~~~~~~~!
さぁ、一緒に歌おうズビズバ~♪
〈以下略〉
第2話 【事実 ―前編―】
―――あれは出発の数日前。
なるべく身軽で行きたいとあれこれ考え、最低限の旅支度をしているところへブロが来た。
『そんな小さなバッグ1つで足りるのか?滞在期間は1ヶ月以上あるんだぞ』
『不足があれば向こうで買うことにした。金を少し多目に持って行けばどうにかなる』
『・・・・ラーメンマンの自宅と修行場は市街地から少し離れている。コンビニすら近くには無いようだが平気か?』
『大丈夫だ。何かあれば修行の後や休日に散歩がてら町へ行く』
『・・・・言っておくが彼の修行は半端無く厳しい。俺の経験では朝から晩まで過酷なメニューを次々と与えられ、休日など無いに等しかった。例え目の前にコンビニがあったとしても到底行く気になれなかったろうな。そんなヒマがあれば1秒でも寝たかった。当時10代の俺は体力にかなり自信あったんだが・・・・ああ、余計なことを話してすまない。気になったもんだからつい、な・・・』
話しながら昔を思い出したのか、ブロは重い溜め息をついて顔をしかめた。
オレは言葉の代わりに出た生唾を気付かれないよう飲み込み、手持ちの1番大きなバッグを目で探し始めた・・・・・・そこまではまだ良かった。
『支度の邪魔をしてしまったな。俺は書斎かリビングに居る。何か手伝いが必要なら声をかけてくれ』
『判った。・・・・・・ん??ブロ、ドアの所にあるそれは何だ?』
『ああ、これはラーメンマンへ俺からの礼なんだが、この時期の国際小包は日数がやたらかかり紛失も多いらしくてな。とりあえずどこかへ置いておこうと・・・・・・・そうだ、おまえが持っていってくれないか?』
『デカイな、重さは?』
『20キロは無いと思う』
『バッグの何倍も重いじゃないか』
『俺のキャリーケースを貸してやってもいいぞ。おまえのバッグより沢山入るし、ボストンバックより断然スマートではないか?』
『・・・・・スマート・・・?オレは使ったことが無いし単にラクで便利そうだとしか・・・』
『沢山のものをコンパクトかつ軽々と持ち運べるだけでなく、あれを転がして颯爽とコンコースを歩く男は妙に見目良く映る気がしないか?まぁ俺だけ何か錯覚しているかも知れんが・・・』
『いや、実にカッコイイな。超デキるビジネスマンの海外出張って感じだ』
『だろう?久々に価値観が一致したな。で、ギフトは持っていってくれるのか?』
『勿論だ!・・・っと、空港からラーメンマンさんのとこまでどの位だ?移動距離や所要時間の目安は?』
『・・・・そうだな・・・さっき話したように市街地や空港から少し離れてはいるが、楽なキャリーケースを引いて荷物を背負うだけなら人間の若者でも苦ではないだろうな。それに少しの距離とはいえ車移動で更に楽になる』
『そうか、店は無くともなかなか利便の良さそうな場所で安心した。ギフトはあれだけか?幾つでもなんでも持ち運ぶぞ!』
―――――ラーメンマンの数メートル後方、荷物だらけで滝のような汗を流しながら、そんなやり取りを思い出していた。
というより、ほぼそれしか浮かばなかったように思う。
「あづい。づがれだ、ムガヅグ・・・あ゛~~~~~~あばばばば~~~~~」
やった!扇風機だ扇風機!初体験だ、これが扇風機か!
ヤッホー!熱風がガンガン顔に・・・・・・・勘弁してくれ・・・・・
ラーメンマン宅の客間はエアコン無し。古めかしい扇風機1台のみ。
これも修行の一環なのか?
「ぐぞっだれ゛~あぅ゛~~~ぶばばばばばぁ゛~~~じぬ、じんでじまぶ、ぢくじょう゛~~~~ぶぶぶぶぶろ~~~」
だが今はこの扇風機だけが命綱、プロペラ音がやたら煩いが壊さないよう大事にしなければ。
「あばばばばば~~~~~」
別にふざけているわけじゃない、独り言をこいつが勝手に変声にしやがるんだ。
オレは正気だ、初日から散々な目に遭っているが、まだかろうじて頭はやられていない!
いい子だ、ケビン。ラーメンマンに文句も言わず我慢しまくりでとても偉いぞ、ケビン。
だがブロには大いに文句を言わせてもらいたい。
あの日のあの会話は最初から計算し尽くされた嫌がらせに違いないんだ。
空港からこのラーメンマン宅まで、車で1時間プラス徒歩2時間半、その徒歩の8割は登山・・・・これは『少し遠い』と言えるのか?
『少しの距離でも車移動』ああ、確かに途中までは車だったさ。1時間だけな!
徒歩移動ではキャリーケースなど全く無意味だった。平坦でも深い砂地や畦道の泥濘ばかり、山登りでは岩がゴツゴツ・ボコボコ、そして曲がりくねった急坂!転がす方が大変で殆ど抱えてきた。
カッコ悪いったらありゃしねぇ。
『キャリーを颯爽と引いて歩く男がカッコ良く見える』のも嘘だ・・・・ブロがカッコ良いと思うならと条件反射で調子を合わせ、まんまと乗せられたんだ。
人間でも苦ではない、というのも言葉の罠だ。人間が出来るようなことを超人が無理だと言うわけないだろうが!
『久々に価値観が一致した』なんて嬉しそうに微笑まれちゃあ、オレが気を良くしちまって当前だ。
その弾みで、幾つでも荷物を引き受けると言ったら、結果1つどころではなく、後からドッサリ押し付けやがった。
最初からそのつもりで部屋に来たんだとしか思えない。
「ぼばばばばばばがやろう゛~~~~ぢくじょう゛~~~」
ブロ、あんたはオレをおちょくるのが本当に得意だな。
ある意味ダメージ大の荒業だ。
毎度コロッと引っかかり、懲りもせずアッサリやられちまう自分が哀しいったらない。
「はぁ・・・・マジで勘弁・・・」
扇風機から顔面を離し、嘆息しつつ仮面を被り直した時、ラーメンマンの声が聞こえた。
そうだ、晩飯の手伝いを買って出たのはオレだ。早く行かねば。
仮面の位置を整え、汗が染み込んだシャツを着替え、おそらくキッチンにいるだろうラーメンマンの元へ。
初日の夜はまだまだ終わらない。
――続く―
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前半は会話ばかり、その後ケビンがアホの子に・・・
後編はシリアスモードへ移行します。
このネタにどれだけ盛りたいのかは我ながら謎です。