BK日常小咄集
*夜明け
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「う・・・ん、なんだ・・・・?」
眠っていたブロッケンJr.は暑さと圧迫感を覚え目を覚ました。
「ケビンか・・・・」
左半身が完全に絡みつかれた状態で、耳元にはその顔がある。
「手まで繋ぎやがって、こいつ」
空いている右腕を伸ばし時計を引き寄せてみれば夜明近い刻。
そういえばケビンより先に寝てしまったことを思い出し、この位は許そうと再び目を閉じた時。
耳元の寝息が呻きに変わった。
単なる寝言とは違う、夢にうなされているのかも知れない。
じきに黙るだろうと放置を決め込み寝ようとしたが、ケビンは黙ることなく延々と耳元で呻き続け、急病の可能性もなくはない----と、ブロッケンJr.はケビンを揺すりつつ声をかけた。
「ケビン。どうした?おい、目を覚ませ」
「ん・・・・ああ、ブロ・・・・?そうか、夢か、良かった・・・」
「悪い夢でも見ていたのたか?ずいぶんうなされていたぞ」
「あんたに捨てられる夢をみた。久々にな」
「久々?そんな夢を何度か見たことがあると?」
「付き合う前と付き合い始めてから暫くの間はよく見た・・・・」
腕の力が強くなり、ブロッケンJr.はケビンにギュッと抱きつかれた。繋いだ手にも力がこもる。
ブロッケンJr.は同じ位の力で手を握り返し、肩に顔をグリグリと押し付けてくるケビンに小声で何か呟いた。
「なんだ?今の聞こえなかった」
「2度も言いたくない」
「そんなこと言われれば尚更気になる。聞かせてくれよ」
「・・・俺もたまに見る、と」
「それってオレと別れる夢か?」
「ああ、おまえが若い女性に走り、オレはまた独りになるんだ。女性と結婚するおまえのタキシード姿も見たことがある。夢でも現実でも、俺にはおまえを止める術など無いんだと気づかされたよ」
「ブロ、それだけは無いぞ!いや、無いというのはだな、オレがブロ以外の誰かとどうこうなるわけがないという意味でだ」
「おまえの人生はまだまだ長い。今は予測もつかぬことがいつかあったとしても不思議ではないと思え。さあ寝直すぞ、朝まで少しあるからな」
「そうだな。色々ツッコミたいが朝メシの後まで我慢してやる。抱き付いたままでもいいか?」
「構わんが乗り掛かるのはやめろ、重い。頭は枕に戻してこちらを向け」
「え・・・・離れたくない!二人して別れる夢を見かねないぞ」
「いいから早くしろ。俺もそっちを向きたいんだ。抱き合いたくないのか?」
渋々一度ブロッケンJr.から離れたケビンだったが、握った手指は離さなかった。
「それでいいのか?腕枕は要らないんだな?」
「腕枕か・・・・そうだな、久しぶりにして欲しい。向き合ったついでにキスもしたい」
「他には何もしないぞ」
「したいくせに。よく言うぜ」
「しない。俺は眠いんだ」
二人は抱き合い、何度かキスを交わして目を閉じた。
「ブロ・・・寝る前に少しいいか?」
「なんだ」
「オレを捨てたりしないよな?」
「ああ」
「あんたはオレだけだよな?」
「当たり前だ。覚悟を決めて一緒に暮らしているんだぞ?俺が、おまえが、ではなく・・・・こうして二人だけいればいいと思っている」
「二人だけ・・・・・だな、外野に介入などさせるものか」
「理解したならもうおかしな夢なんか見るなよ。2時間寝たら一緒に起きるぞ」
「All right.」
眠りに落ちる前、もう別れる夢は見させないでくれ、と二人は同時に思い、願った。
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