BK日常小咄集


*待つ



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珍しく、ケビンの方からベルリンを離れていった。

『今月、英国で試合が数回あるから暫く留守にするぞ』

俺は一瞬、耳を疑った。
どこかへ行けといくら言っても嫌がっていたケビンが、まさか1番嫌だろう母国へ帰るなど・・・・だが、まあいいか。少なくとも1ヶ月程度、俺は自由になれるのだから。



最初の3日位は、屋敷内の静けさが気持ち悪かった。
1週間経った辺りから何かと不便だと感じた。
2週間すると退屈になり、あちこち掃除を始めた。
3週間の手前で妙に苛々してならない自分がいた。

テレビでは約10日に1度、リング上のケビンを観た。余裕で勝利をおさめている。順調で何よりだ。
電話ひとつも寄越さず、数日おきに短いメールが来るのみで、今までのしつこさが嘘のように思えた。
何か意図があるのか無いのか、訊いてみたいが俺がそんなこと出来るわけがない。
メールが届けばわざと1日無視をしてから、かなり素っ気ない一言を返す。俺の近況を訊かれても答えずに『何もない』とだけ・・・・声に出して読めば棒読み出来るような言葉で。

しかし、最後であろう4週間目の後半で、身体が勝手に旅支度をし、気がつけばロンドンにいた。
前もってケビンに連絡はしなかったが、来てしまった以上は知らせねばなるまい・・・・いや、明日の試合が終わればベルリンに戻ってくるだろうが、それが1日でも遅れたら俺はケビンを意味もなく罵倒しそうだ。


だから、会場の関係者通用門でケビンが出てくるのを待つ。試合を観てから急いでドアの横で待つ。


それが今の俺の姿だ。

ケビンはどんな反応を見せるだろうか?
俺はどんな態度をとるだろうか?

この状況、久々に少しだけ楽しいかも知れない。


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