BK日常小咄集
*ラジオ
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「ガゼルマンの!オールナイト☆ズッコーン!」
(こんなセンスの無いタイトル、よく付けたものだ・・・・さすがアホ鹿)
マイクに向かい喋りまくるガゼルマンを横目に、小さなスタジオの隅、壁に寄りかかり呆れているのはケビンマスク。
昨日、日本でリングに上がり、トーナメント勝者への副賞はこのラジオ出演だった。
ケビンは固辞したが、ガゼルマンに泣いて土下座され仕方なく来たはいいが・・・・
(ナニがズッコンなんだ?いやらしい意味にしか聞こえないのはオレがおかしいのか?)
「では今宵のゲストを呼ぼう!英国出身の最強超人ケビンマスク!オレの大親友でもある!」
オレが貴様の大親友なわけないだろうが、と呟きながらケビンがガゼルマンの正面に座った。
放送前に大まかなシナリオは説明されていたが、ケビンはラジオ出演など初めてのこと、いまいち勝手がわからないままだ。
だからこそ、目の前のマイクを見ても何も言葉を発せずに腕組みして辺りを見渡しているのみ・・・
「ケビンマスク、軽く自己紹介をしてくれないか」
「いましがたおまえがしただろう。訂正があるとしたら大親友ではない」
「何を言うんだ、オレたちは正義超人のアイドル仲間ではないか!それはもう長い付き合いの」
「小鹿ちゃん、と呼ばれていたあの時からか」
「小鹿言うな!・・・・あっと、ここはリングではなくラジオですから、エキサイトせずにお願いしたい。では早速だがお便りを読もう!ケビンマスクへの質問がメールで沢山きている。みんなこの機会を楽しみにしてくれていたよな?かくいうオレもだ!」
ペラペラとよく喋るガゼルマンに一層の嫌気を覚えながら、ケビンは肩肘を机についてそっぽを向いた。
「最初はラジオネーム・みとこんどりあさんからのメールだ。ケビンマスクさんに質問です。いま恋人はいますか?好きなタイプも教えて下さい、さあケビン、正直に答えてくれ」
「・・・・いる。好きなタイプなど答えても他の誰にもチャンスはない。だからノーコメントだ」
「ケビン、おまえ恋人いるのか?何故黙っていた!?」
「知っている奴は知っている。親友ならもう知っていてもおかしくないが?」
「あ?ああ・・・・あのアレか、あの子だな」
「誰のことだ。あと子ではなく大人だ」
「年上か!いいな、年上の美女は・・・・ウラヤマシイ」
「誤解するな、「美女」ではない。次にいけ、次へ。オレは時間があまりないと言ったろう」
「じゃあ続いてラジオネーム・シラミムシさんからのメールを読もう。ケビンマスクさんに相談です。好きな女の子がなかなか振り向いてくれません。ラブレターと直接告白するとではどちらがいいと思いますか?」
「男なら直接言え。ラブレターなんか今更古い」
「ほう、オレは手紙の方が嬉しいが・・・おまえは直接言うタイプか」
「次!」
「もっと会話を楽しみたいが沢山あるからな、次にいこう。ラジオネーム・ドラゴン大好きさんから。もし超人でなかったらケビンマスクさんは何になりたかったですか?あと結婚は何歳でしたいですか?」
「・・・普通の人間。結婚は20代のうちに」
「おまえ意外と早く家庭を持ちたいんだな。そうは見えないが」
「自分が育った環境を思えば、早く幸せな家庭を作りたくもなる」
「いまの恋人と結婚する予定は?」
「・・・あるが、もう暫く先だ」
「ロビンマスク校長が反対でもしているのか」
「まあな」
「気になるな、どんな相手なのかが」
「興味など持たなくていい。次の何かを読め」
「はいはい、っと・・・ラジオネーム・ブタちゃんさんからのメールだ。ケビンマスクさんの得意なことや趣味を教えて下さい。やはりプロレス関連ですか?」
「いや、私生活では試合がなけりゃ超人として生きていない。得意なことは家事、趣味も家事」
「家事?おまえが?」
「なかなか楽しいぞ」
「生活感が全くないくせに家事とは驚きだ」
「嫁入・・・いや、男も今時、家事くらいこなせなければモテないぞ。リスナーの男ども、まずは料理を覚えるがいい」
「女性で家事が不得意な人も多いんだぜ?男が出来て女が出来ないというカップルもいる」
「やらないだけだ、女にもやらせろ。教えてやるくらいの気概を持て」
「はあ・・・オレも家事は多少するが、掃除は嫌いだからなぁ。きれい好きな彼女が欲しい」
「フッ、小鹿ちゃんにはまだ早いぜ」
「もう立派な牡鹿だ!」
それから約20分間ダラダラとくだらない話が続き、漸くゲストコーナーが終了した。
ケビンは早々に帰ってしまったが、彼に恋人がいると知ったファンからメールが続々と届き、ラジオのネット回線はパンク。
メールを読むに読めなくなったガゼルマンは、朝方まで独りで喋り続けたという。
勿論そんなことはケビンの知ったことではなく、恋人のブロッケンJr.はラジオの内容も知らず、ベルリンでケビンの帰りを待っていた。
「ただいま、ブロ」
「おかえり。なかなか良い試合だったじゃないか。ラジオ出演はどうだったんだ?楽しかったか?」
「いや、全然だ」
「おかしな発言はしなかっただろうな?」
「・・・・後で分かる。質問に淡々と答えていただけさ。それより、ただいまのキスをしたいんだが」
「そういうことは仮面を取ってから言えと、いつも言っているだろう」
ブロッケンJr.は、笑いながらケビンの肩を叩いた。珍しく優しい。
日本中の超人レスリングファンを混乱させたケビンの発言の数々を、ブロッケンJr.が知るのはそれから約2日後・・・・
.....END.....