BK日常小咄集


*二人の夜


注)こちらはself-parody内の
BK日記~ギムナジウム編を
元ネタにしております。
本編を未読の方は意味不明かと。

・・・・・・・・・・・・・・・・



この冬、今のところ雪の日は少ない。ただ、1度降ればかなりの積雪があり、溶けない雪が常にあちらこちらに残る。
我が屋敷の庭も視界に映るのは白色ばかり。門から玄関までの雪掻きは欠かしていないが、それでも毎朝凍結している。

今日はケビンがギムナジウムから戻る週末。先週、奴は補習授業で帰れなかったから会うのは二週間ぶりだ。
連絡を受けた際、玄関までの石畳が凍結しているかも知れぬから足元に気を付けろ、と伝えた。奴は何度か滑って転びかけていたからだ。

暫く離れている間は毎回、インターネットを使い交換日記をしている。が、ケビンの日記は毎回頭痛がするほどふざけた内容で、俺は怒ったり反論したりするばかりで正直かなり疲れていた。
それでも自分の番の日は必ず書いてしまう。いっそ交換日記などやめてしまえば楽なものを、何故だかやめられない。

(俺が相手をしてやらねば学校で悪さをしかねないからな)

奴はただ構って欲しい一心でおかしな文章を綴っているのではないか? と最近思うようになった。多少相手をしてやれば気が済むようだが、調子に乗るとリアクションすら面倒臭い時もある。
先週と今週はまさに『どうしようもなく阿呆全開』だったから、今日から数泊していかれると思うと、やたら気が重かった。
到着時間は把握していた為、その時間の前に『本屋へ行く』と書き置きをし、車で街へ出ることにした。奴を待って『おかえり』と迎えてやる気になれなかったからだ。

カフェテリアと本屋で時間を潰し、21時頃に屋敷へ帰った。
夕飯を食いそびれても腹は減っていないから問題ない。
玄関を開けると好きな料理の香りがキッチンの方からした。もしや食事を共にしようと待っていたのか?
おそるおそるダイニングへ向かうと、ケビンが座っていた。

「ブロ、遅かったな」

「立ち読みしていたらこんな時間になった、すまない」

「別に謝る必要はない。あ、ただいまを言っていなかったな。ブロ、ただいま。あと、おかえり」

「あ、ああ。俺もだな。おかえりケビン」

「夕飯、作って待っていたんだ。早速食おうぜ」

腹は減っていなかったはずなのに、ケビンの笑顔と漂う料理の匂いで急に空腹を覚えた。
買ってきた本を袋ごとリビングに置き、手を洗いながら鏡を見ると、そこには普通の顔をした俺がいる。ケビンの帰宅を嫌だと思った形跡も無く、気まずさで緊張してもいない素の俺だ。
きっとケビンの態度が良かったせいだろう、あと良い匂いと。


食卓に着くと目の前には俺の好物ばかり並んでいた。ドイツの一般家庭で食すありふれた料理だが、気取ったナントカ料理や異国の料理より美味いのだ。特にケビンが作るものは格別に。

食事をしながらケビンは学校での話を少ししながら、上品な仕草で料理を口に運んでいた。
俺は会話が何も思い付かず、

「やはりおまえの作る飯は美味いな」

等と、料理の腕前を誉める位しか出来なかった。が、喜んだケビンが話を繋げてくれたから助かった。
おかしなことは一切言わず、スーパーマーケットで何が安かったとか何々を買ってみたとか、まるで主婦のような内容だった。いや、既に彼は我が家で主婦の役目を日常的にこなしてくれている。それは完璧に近く、何も出来ない俺としては感謝の念しかない。

「オレのメシを一生食えるのはブロだけだが、もっと上手になるから期待してくれよな」

席を立つ前にそう言って爽やかな笑顔を見せたケビンは、あの日記からは想像がつかないほど「まとも」だった。
先に食い終わったから茶を淹れてくる、とキッチンへ向かう背中を見て、不覚にも愛しさがこみ上げ・・・・今夜は優しくしてやりたいと思った。
奴がどうすれば喜ぶかは判っている。二週間ぶりに共に過ごす今夜ならではのこと。つまり寝室に誘い、あの行為をして二人で眠るという、俺も実はしたかったことだ。あの図体のでかいケビンが可愛らしく見えると、俺は自制が難しくなる・・・・いい歳をして恥ずかしいが男なのだから仕方ない。

こちらの食事が終わったのとケビンが紅茶を持ってきたのは、ほぼ同時だった。

「ほら、ブロの好きなオレ特製ブレンドティーだ。今日足りない茶葉を買ってきたから完璧だぞ」

「ありがとう。料理も美味かった、ご馳走さま」

「明日も美味いもの沢山作るからな」

「ああ、楽しみにしている。時にケビン、この食休みが終わったら、その・・・・バスルームを一緒に使わないか?たまには背中を流してやる」

「いいのか?久しぶりだな、二人で風呂に入るのは。じゃあこれを飲んだらバスタブに湯を入れてくる」

「頼む、今夜も冷えるしゆっくり湯に浸かろう。その後すぐにベッドへ潜り込めば暖かろう。どうだ?来るか?」

「勿論。嬉しいことばかりだ。ありがとう」

「そんなことで礼を言う仲ではないだろうに」


どうやらオレはケビンの『ありがとう』に弱いらしい。
共にシャワーを浴び、裸体を見てしまえば、さすがのオレもただでは眠れそうにない。、
今夜は睡眠時間を1時間削って奴の喜ぶようなことをしてしまうかも知れない。そうすれば身体も心も暖まるだろう。

歳はくっても俺だって男だ。
恋人に欲情してもおかしくないだろう?



・・・・・END・・・・・
15/20ページ