BK日常小咄集
*探しモノ
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約35年前辺りからの本を集めるのは容易ではなかった。
本は本でも超人プロレスの雑誌、比較的状態が良く切り抜きのないものを探すのは更に難しかった。
「よし、これであと一冊だ!」
面倒だったがネットを駆使して世界中の、主に日本とドイツの古本屋に問い合わせた甲斐があったというものだ。
一種類だけではない、廃刊になったものも含め三種類、月刊誌と週刊誌で相当な数だった。
残り一冊が早く見つかることを願いつつ、集めた雑誌を自室の床に並べていた時・・・・・コンコンとドアをノックする音、どうしようかと慌てているうちにドアは開けられてしまった。
「おい、ケビン、また国際便で小包が届いたぞ」
「えっ?ああ、それ・・・・わざわざ持ってきてくれたのか」
「二箱も玄関にあると邪魔だからな。中身はまた雑誌か?」
「ネットでまたバックナンバーをまとめて見つけたから、大人買いしたんだ。ああ、いま散らかっているがすぐに片付ける、メシまでまだ時間あるだろ?」
「別に部屋に入ろうとして来たわけではない、これを運んでやっただけだ。夕飯の催促でもない、ゆっくり片付けろ」
「わ、わかった。そうだ、今夜は昨日から煮込んでいたカレーだぞ。一晩寝かせると美味いよな!」
「・・・・主婦に成り下がるのは構わんが、次の試合もきっちり勝てよ、超人チャンピオン」
箱を二つ置いてブロは出て行った。詮索されなくとも床に並べた数十冊の雑誌が何なのかはバレただろう。
幸いブロの表紙が多いドイツのではなく、キン肉星の大王やテリーマンが多い日本の雑誌だったが、遠目に見ても超人プロレスの雑誌たちだ。
「あの箱は2つで100冊くらい入っているはず。この部屋に全部置くわけじゃなし、本自体の大半はゴミに出すが・・・・ここで作業をするには狭いな。ブロに使っていない広間を借りるか?何をするんだと訊かれたら適当に答えるとして・・・・」
そう、絶対に言えない。
ブロの現役時代の写真や特集記事だけ切り取りファイリングするだなどとは。
半裸が多いはずだから凝視したいだとか、軍服がズタボロでチラ見えするのがそそるとか、お宝ばかりだとか・・・・絶対言えない。言ったらきっと全て燃やされちまう。
「・・・・あと一冊だけ手に入らないのはマニア垂涎の巻頭6ページ水着グラビアの号か。ブロの大特集で折り込み両面ポスターも付いている。ああ欲しい、金ならいくらでも出すのに・・・・」
グラビアやポスターが切り取られているものなら見かけたが、そんなものは要らん!
オレが見たいのはグラビア、欲しいのはポスター!
「うっ、興奮しかけちまったじゃないか!とりあえずこれらを片付けよう、箱は後で開けるとして全部ベッドの下に押し込もう」
ブロはオレが居なければ勝手に部屋に入らないから、別にその辺に積んでもいいが、これだけあると壁一面になっちまう。500冊近くあるからな・・・
「よし、これで一応片付いた。カレーを温めてメシにしよう」
・・・・で、夕飯後に茶を飲みつつ少し他愛ない雑談でもして、ブロが本を読み始める頃にまたネットで探してみよう。特にオークションはマメにチェックすべきだ。頑張ろう、オレ!!
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ケビンが探し続けるその号だけは、結局何年経っても見つからず、手に入れられなかった。
「あれをあいつに見せる位なら買い占めて焼き尽くすまでだ」
ブロッケンJr.には最初から、いや、ケビンが本格的に探し始める前から全てバレていた。
屋敷内に一冊だけ保管されていたが、何も知らないケビンは「あの号だけは必ずゲットする!」と、ほぼ一生かけて探し求め続けるのだった。
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灯台下暗し、あるある()