BK日常小咄集


*うわの空

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東京は少し雪が混じった雨で、前月に来日した時より寒かった。
日陰の道端には、最近降ったのだろう雪が固めて寄せられているが、この雨では溶けないだろう。
英国やドイツと比べれば、日本の首都圏の寒さなどどうということではないが、通年暖かい国の奴らや雪掻きとは無縁な地域の軟弱者らは「寒い、寒い」と震えている・・・・、野外リングの上で。


「情けない、試合の間ぐらい強がれや!アホー!!」

関係者席からリングへ罵声を浴びせるマルス、おまえだってダウンのベンチコート姿で完全防備じゃねーか。

「ケビン、おまえも何か言ってやれよ!」

「・・・・寒いのは確かだからな、この気温に身体が慣れていないのでは動きも悪かろう、仕方ないことだ」

「そりゃそうだけどよ・・・・30分くらい気合いで乗り切れるだろ?あんな大袈裟にみっともねぇ姿晒すなんてよ。みんな超人だぞ、超人!」

「超人でも寒いものは寒い、暑いものは暑い、人間から生まれたタイプは普通にヒトと変わらん」

「おまえ、くっそつまらねー男になったなァ。いつからだ?リア充になってからか?オイ」

「オレは愉しいぞ、毎日がウキウキワクワクだ」

「・・・・って、さっきからどこ見てんだ?一点をガン見してんのは判るが、そっちには誰もいない、何もない、ただの壁だぞ」

「考え事をしている、もう邪魔するな、話しかけるな。全試合が終わったら教えろ。ソッコーで帰らねばならないんだ」

「なに考えてるか当ててやろうか?ベルリンのおっさんのことだろ」

「黙れ、話しかけるな」

「フン、当たりなんだろう?」

「・・・・・・」

「出掛ける前、可愛がってもらってきたか?こんな図体デカイお坊っちゃまがネコちゃんじゃあ、おっさんも色々大変だろうに」

「・・・・・・・・」

「野郎同士って本当にイイのか?馴れればオンナとより断然イイって話、よく聞くが」

「・・・・・さあな」

「澄まし顔でヨダレ滲ませんなよ、気色悪い」

「貴様のせいで思い出した・・・・」

「なあ、ぶっちゃけブロッケンのおっさん、巧いか?おまえを見りゃ満足しきってるのは判るが」

「・・・・巧いというか、ブロと寝るのは気持ちいい。あのあれが、こうでああで、特に・・・・」

「はあ?なにが何だって?!」

「教えない、まあ・・・・あれだ、マッサージのような」

「もっと赤裸々に打ち明けてみろよ、オレ様は結構そっちに理解があるつもりだぜ?」

「知っているから教えたくない。貴様がブロに興味を持ったら困るからな。あの人の全てはオレだけのもの、おれの全てもあの人のもの、おまえは部外者だ」

なんだかんだ話しているうちに試合は終わったようだった。
選手が皆ひっこんで出てこないという、全員失格のデスマッチなど見たことがない。

「さて、最終便に間に合うな。マルス、いつかわからんがまたな」

「なんだよ、最後まで勿体振りやがって・・・・!」

「帰ったらこの脳内で妄想したことをやるんだ、楽しみだ」


そう、脳内の・・・・まずは雪掻きでポイントを稼ぎ、よーく冷えてからシャワーを浴びて暖炉の前でブロに甘えさせてもらうんだ。
それからベッドに行くか、その場で・・・・

「えへ、えへへへへ」



『ケビンマスクは最強超人というより、もうただのネコだ』

呆れ顔でその背中を見送ったマルスだったが、ケビンの脳内で行われていたことを今度は自分が妄想し、暫く悶々とせずにいられなかった。




---END---

やまなし、おちなし、いみなし

※ネコ=タチの逆=受けのこと


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