BK日常小咄集
*嫉妬心
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日本の12月は暖かい。
ベルリンに比べれば、の話だが。
外で待つのはいいがケビンの奴、何をしているんだ?
着替えにモタモタしているのか、もしやマルスらと話でも?
あいつが若い連中と打ち解けて上手くやって欲しいのは山々だが・・・
(時間の約束はしていないとはいえ一言欲しいもんだな。いつもは先に居るか、ほぼ同じタイミングであのドアから飛び出してくるから、てっきり今日もそうだとばかり思っていた)
観客席から裏の選手出入口まで10分足らず、そう思えばケビンの着替えは異様に早いのだ。
(俺がここに着いて15分程・・・・何も連絡がないとなると少し妙だな。何かトラブルを起こしていなければいいんだが)
昨日も今朝も機嫌は良かった。試合も当然のように勝った。
珍しく俺が観戦の為にだけ付き添ったことを、ことのほか喜んでいた。
(連日土下座され仕方なく共に来たが、それは俺の意思で決めたことでもある。何故かと訊かれたら困るから土下座のせいにしているがな)
くだらない事をふと考えたからだ、そう、くだらなすぎる馬鹿げたことをだ。あいつに話すつもりはないし元より知られたくなどない。知られたらたまったもんじゃないからな。
(こちらから行くか?中へ)
一応は関係者だ。試合後でもあるし特に警備に止められることはなかろう。
「ダディの技はもう古臭い。昔は凄かったってのは判らないでもないが、既に前世紀のもんだろ?」
「まぁな・・・・だがケビン、それをオレに言わないでくれないか?これでも君の父親と同じ世代なんだぜ」
探しに行く手間が省けたと思えば誰かさんと一緒か。やはり似合うな、俺なんかとよりずっといい。だからこそ見たくない光景のひとつ・・・・人の気も知らんであの馬鹿野郎め。
「あっ!ブロ!すまん、待たせたか?待たせたよな?」
「いや、途中で知り合いに会ってな。さっき着いたばかりだ」
何故ウソをつかねばならんのだ!馬鹿は俺の方か?
「やあブロッケン、久しいな。元気そうで何よりだ」
「ああ、まあな。おまえも観に来ていたとは知らなかった」
「ははは、一応まだ現役の身だからな、たまには若い奴等の試合を観ないと・・・・、そうそう、話は変わるがドイツでコレと住んでいるんだってな」
「ソレが国に帰らんから仕方なく置いてやっているだけだ」
「好き合っている関係なら好都合じゃないか。オレには隠さなくていい、二人のことは知っている」
「・・・・誰からの情報かは敢えて訊かないが、アレとのことはまだ正式に公表していない。する前に別れるかも知れんからな」
「おいおい、そんなこと言いなさんな。本人がそこにいるんだぜ?」
コレだのソレだアレだのと言われても、ケビンは口を挟むどころか畏縮しているように見えた。
この会話のせいではなく、最初に目が合った時、軽く睨みつけた意味が後から分かったのだろう。
10分ほど立ち話をした後、相手は『またいつか何処かで』と言い残し立ち去ったが、ケビンは小石を蹴りながら数十メートル離れた所へ行っていた。
「ケビン。奴は行っちまったぞ。別れの挨拶もしないで何をしているんだ」
「ご覧の通り石蹴り遊びさ。オレがいちいち挨拶などするわけないだろ」
「そうだな、おまえはまた近いうちに会うだろうしな」
「会わねぇよ!今日はたまたまだ、またもクソもあるもんか。あんたこそ途中で誰に会って道草くった?」
「此方も偶然だ。おまえ嫌がるだろうから名は伏せるが、道草などと人聞きの悪い事を言うな。早く着いたのは俺だ」
「オレが嫌がる?ならあいつしかいないな。今日はいなかったはずだが観には来ていたのか」
「さあな、別に誰でもいいだろう?」
「・・・・歩きながら話そう、ここで喧嘩はしたくない」
「悪いがおまえと話す時間はもう無い。用を思い出したんでな。それを伝えるために待っていただけだ。じゃあな、帰りは適当でいいぞ」
「は?一緒に帰るはずだろ?」
「そんな約束はしていない」
「屁理屈こねやがって!」
「駄々こねるよりマシだ」
何を言っているのかもう判らない。判るのは俺が嘘にまみれていること位だ。
「・・・・あいつとどこかで落ち合う約束でもしたか?」
「ノーコメントだ。せっかく国外まで来たんだし、1日や2日お互い自由行動でもいいだろう?」
「これからすぐベルリンに帰ろう、急げばまだ便はある!」
「勝手にしろ。俺はバタバタと行動するのは御免だ。ではな」
結局、そのまま置き去りにして来てしまった。
用事などひとつも無いが、一度見栄を張ったら次から次へと・・・・だがもう仕方ない、温泉地にでも行き2、3泊してから帰ろう。
(全てケビンが悪い。誰かがもらってくれるなら今すぐリボンを巻いて押し付けたい気分だ)
男の嫉妬は醜い、とケビンにいつも言っていた俺がこの始末ではなぁ。
人の振り見て我が振り直せ、とはよくいったもんだ。
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ケビンと出てきた相手の名は
伏せますが、バレバレですね