[雑伊]みたらし団子と人たらし

 その日雑渡は、普段めったに着用することのない淡い色の上衣を着て、普段と大きく異なるのはたったそれだけのことではあったが、めかしこんでいた。会う約束をしている相手が、以前好きだと言っていた店の菓子を風呂敷につつみ、大事に抱えて、自身の隠れ家でひとり、相手の現れるのを待っていた。
 だが相手はその日、日が暮れても、雑渡の前に現れることはなかった。夜更けになっても現れぬので、雑渡はあきらめて帰城し、菓子はちょうど任務から帰ったばかりの高坂と諸泉にやってしまった。
 その翌日は仕事だったのだが、任務を終えてから、雑渡はまたその場所を訪れた。翌日も、そのまた翌日も。自身の時間の許す限り雑渡はそうして約束の場所でいつまでも相手を待っていた。迷った末、文も出した。

 だがついぞ、そのひと――おそらくは雑渡の恋びとだったのだろう――から文が返されることはなく、生涯のうち二度と、その姿を雑渡が目にすることはなかった。






 コンコン、という控えめなノックの音で、雑渡は目を覚ました。日曜日の、昼下がりだった。積み上げた座布団を背に、読書していたら眠ってしまったらしい。ごしごしと両目をこすり、はい、どうぞ、と返事をする。
 からからと小さく引き戸が開き、下宿人の伊作がその隙間から顔をのぞかせた。
「雑渡さん」
「なあに」
 すみません、お休みでしたか、と伊作は申し訳なさそうに開けたばかりの戸をまた閉めようとする。いいよ、どうしたの、と雑渡が伸びをすれば、伊作はまた少しだけ戸を開ける。
「急にお団子が食べたくなって、買ってきたんです。少しなのですけど、一緒に食べませんか」
 ありがとう、いただくよ、と返事をかえせば、伊作はうれしそうに笑った。
「いまいくよ」
「ぼく、お茶の準備しますね!」
 たん、と軽やかな音をたてて戸がしまり、伊作の足音が遠のいていく。お団子か、と雑渡は小さくつぶやいた。奇遇にもいま、夢の中でも食べ損ねたのでちょうどよいではないか。
 決して団子が嫌いというわけでなく、むしろ本当は好きな菓子のひとつであったが、じつはこの夢が理由で、雑渡は自らその菓子を買うことはほとんどないのだった。



「伊作くんはお団子が好きなの」
「ええ」
 ここのお店のみたらし団子が一等好きです、と伊作は三本目をほおばる。雑渡を誘っておきながら、ほとんど伊作が自分でたいらげてしまいそうだった。そう、と雑渡は食べ終えた一本目のくしをそっと皿に置いた。
「雑渡さんは。あんまりお好きじゃなかったですか」
「ううん。好きだよ」
 一人で食べてもあんまりおいしいと思ったことなくて。自分じゃ買わないんだけど。と雑渡は膝に手を置いた。
「でも、伊作くんと一緒に食べるとおいしいね」
 ぽつりと雑渡が言えば、伊作はむせかえりそうになり、慌てて自らの胸あたりをたたいた。そんなに急いで食べなくてもまだたくさんあるじゃない、と雑渡が茶を差し出せば、伊作はそれを飲み干し、大きく息をついた。
「雑渡さんがおかしなこと仰るからです。まるで口説き文句みたいでした」
「そう?」
 思ったことを言っただけなんだけど、と雑渡は伊作の湯飲みに二杯目の茶を注いでやる。ありがとうございます、と伊作が軽く頭を下げながら湯飲みを受け取った。このひとはこうして女の人を勘違いさせては、付き合って、ふられているのかな、と伊作はそっと雑渡をぬすみ見ながら邪推する。ようやく二本目に手を伸ばす、どこか憂いをおびた雑渡の表情を見ていると、別段軽薄そうに見えるわけでもなかった。雑渡の話を聞く限りでは、どちらかといえば雑渡のほうが、彼女たちに夢中になっているようにもうかがえた。
「……雑渡さんは洋菓子のほうがお好きなんでしたっけ」
 うん、どちらかといえばね、と雑渡は微笑んだ。ケーキが好きかな、という。
「じゃあ、今度はケーキにしましょうね」
 もしも私に買ってくれるときはね、いちごのショートケーキね、と雑渡は頬を赤くしながら言った。ずうずうしいことばと奥ゆかしい態度がちぐはぐだ。先日ふたりで博物館を訪れた折、カフェでクリームティーセットなるものを注文した雑渡が、スコーンにクリームといちごジャムをのせていた姿を、伊作は思い返していた。



       ★



 背の高いその男は、広いその家に、ひとりで住んでいるようだった。帰宅した彼は、磨かれた廊下を奥まで歩いていき、かっちりしたスーツを脱いでまずシャワーを浴びた。そして冷蔵庫からビールを取りだす。プシュ、と開封してそのまま口をつけるかと思いきや、食器棚からグラスを出してとくとくと注いだ。
 そうしてグラスを片手に居間へやってきて、リモコンでテレビをつけた。缶をローテーブルに置いたところで、大きな画面いっぱいに映った光景に、男は呆然とする。男自身と瓜二つの、それどころか血を分けその手で育てた自らの息子が街頭で、元気のいいリポーターにマイクを向けられ、なにやら大きな背を丸めて恥ずかしがっている。
『ご職業は?』
『不動産関連です』
『あなたの将来の夢はなんですか?』
『え、と、忍者の組頭? とかかな……』
 開いた口の塞がらない雑渡の父は、グラスを握り割ってしまいそうだった。画面の中で照れている大男が肩にかけている買い物用布バッグにたくさんプリントされているデフォルメされた隻眼の忍者が、こちらをあざ笑っているかのようにさえ見えた。立派なねぎの青い部分が、雑渡のエコバッグから飛び出ていた。



       ★



 こなもん荘の玄関の戸を開け、ただいま、と言いかけて伊作は、開きかけたその口をゆっくりと閉じた。居間のほうから、なにやらもめているらしい声が聞こえてきたからだ。一人は間違いなく雑渡だが、雑渡が一人二役しているのかと思うくらい、もうひと方のほうの声も雑渡のそれとよく似ている。
『いいかげんに本社に戻るなり独立するなり考えろ。いつまでそうしているつもりだ』
 別にこそこそする必要もないのだが、伊作はあまり足音を立てぬよう廊下を歩いた。が、どうしても居間の前を通らずに自らの部屋へたどり着くルートがない。よりによって、ふたりの雑渡の会話は、佳境に入っている。
「お前にはビジョンがない!」
「ヴィジョン、だなんて、そんな今どきのことばをあなたが知っていて安心したよ。あ、おかえり伊作くん」
 邪魔せぬよう、伊作はそっと会釈だけして居間を横切り、階段を上ろうと思ったが、雑渡に声をかけられてしまった。やむをえず振り返れば、予想した通り雑渡とよく似た、しかし二回り以上に年上と思われる男がそこにいて、ほとんど反射的と思われる所作で椅子から腰を浮かし伊作に向かって会釈した。伊作も慌てて頭を下げる。
「こんにちは」
「うるさくしてごめんね。このひとは私の父」
 こちらは下宿している善法寺さん、と雑渡は丁寧に、伊作を自らの父に紹介した。するとどうしてか、雑渡の父は、できるだけ失礼にならないようにと気を遣ってはいるようだが、それでも伊作の目をよくよく観察しているようだった。お世話になっています、と伊作はまた頭を下げ、しかし大事な話の最中に邪魔してしまったことには変わりないので、とりあえずは自室に戻ることにした。
 いやあ、お世話になっちゃっているのはむしろ私のほうなんだよねぇとやる気のない雑渡の声が階段を上る伊作にもきこえ、それでまたゴングが鳴ったようである。伊作が帰ってきたことで、雑渡の父は多少声のトーンをおとした。
『だいたいなんだ、見たぞ、いい歳して、将来の夢が忍者とは』
『ああいうのはね、真面目にこたえちゃ採用されないんだよ。それに、たまたまそのとき持っていたエコバッグが忍者だったから適当にそう言ったの。あ、これこれ』
『それもしっかり映っていた。なんだその悪趣味なバッグは』
『尊奈門がまた懸賞で当てたの。手あたり次第応募して当てちゃ、いらないものは全部私に寄越すの』



 二階にいる伊作にも、居間で未だににぎやかにもめているらしい声が丸聞こえである。そういえば雑渡さん、お父さんにお茶も出してなかったな、出すべきだろうか、と少々ピントのずれた心配をし、伊作は立ち上がった。

 伊作はそっと台所へ足を踏み入れ、湯を沸かした。湯気の立ち上る茶を雑渡の父と雑渡に差し出せば、雑渡はわるいねえ、おかまいなくねえ、などとのんきに礼を述べる。これはすみません、とそこからまた雑渡の父が雑渡に辛辣な言葉をぶつけはじめたので、そのまま退散しようとした伊作はたまらず、盆を胸に抱えたまま、振り返った。
「雑渡さんはふらふらしているわけでも、ビジョンがないわけでもありません」
 ここはすごく素敵な下宿です。雑渡さんがつくるごはんはおいしいし、雑渡さんが家にいてくれるから、私は安心して仕事に出かけて、帰ってくることができます。入居しているひとの異変に気がつくことができるし、かといって干渉するわけでもない。ひょっとするとこの生活は、工夫次第で今の世と、そこで生きるひとたちの課題を解決できるかもしれない。雑渡さんはそれをご存じなんです、と伊作はそこまで一気にまくしたて、今更はっとして、おことばですが、と付け加えた。恐る恐る伺い見れば、どうしてか、そろって顔を赤らめた二人の大男がそこにいた。いまや湯気はふたつの湯飲みからでなく二人の雑渡から立ち上っているかのようだった。
「……それはドウモ」
「なんであなたがうれしそうなの」

 ピ、という場違いな機械音とともに、居間のテレビに電源が入った。3人そろって音のする方を振り返れば、いつの間にやら帰ってきていたらしい、諸泉――彼は空気を読むということをしない――が、まったくこちらには関心がないと言った様子でリモコンを手にして立っている。
「あ、」
 話をもとに戻そうとした二人の雑渡は、しかし、小さめのモニタいっぱいに、見慣れたふわふわの茶髪の青年、今まさに目の前で盆を抱えている伊作が映り、テレビにくぎ付けになった。件の、街頭インタビューである。
『ご職業は?』
『医療関係です』
『あなたの将来の夢は何ですか?』
『え、と。に、忍者、とかですかね』

「……」
「いや、あの、なんかおもしろいこと言わないと採用されないかなと思って」
 画面の中で照れている伊作の折り畳み傘には、雑渡のエコバッグと同じ、たくさんのデフォルメされた隻眼の忍者のイラストが散りばめられていた。
 「ここ数日は奇遇にも忍者志望者が多いですね」とリポーターが、快活に笑った。





 伊作のおかげもあって、少々落ち着いたらしい雑渡の父は夕刻、ようやく帰ると言い出した。帰って帰ってと文句を言いながらも雑渡は玄関まで父を見送った。
「善法寺さん、いいひとだな」
 若いのに、いや、だからこそか、自分の意見があって、それを言えてすばらしいな、お前と大違いだ、とまた余計なひとことを付け加える。雑渡もこればかりは反論しなかった。
「うん」
「……なんだかどことなく母さんに雰囲気が似ているし」
「やめてよ伊作くんを変な目で見ないで」



       ☆



「ただいま帰りました」
 夜も遅い時刻だった。帰宅を知らせる小さな挨拶とともに、伊作が廊下を横切っていく。おたまを片手に台所に立つ雑渡と、夜食というには多すぎる量の煮物を居間でほおばる諸泉は、おかえり、と返事を返しつつ、めずらしく気落ちした様子の伊作の後ろ姿を目で追い、彼が見えなくなると、顔を見合わせた。
「元気、ありませんね善法寺」
「お前もわかる?」
「いや、わかりやすすぎるというか」
 伊作を追いかけていこうとする諸泉の首根っこを、よしなさいよと雑渡はつかんだ。



 時刻は深夜の0時をまわろうとしていたが、伊作が居間に降りてこない。夕食は鍋や保存容器ごと冷蔵庫内に入れておけばよいので、雑渡も別に待っているつもりもなかったのだが、食いしん坊の彼が食事をとらないのは珍しいので、気になった。それに加えて言うならば、先日伊作に料理の腕前をほめられ気をよくし、今日もまた新しい組み合わせの食材で煮物をつくった。冷やしても美味い、初夏の野菜の煮しめである。彼に食べてほしい、と思ってしまった。諸泉には放っておけといったが、雑渡は小鉢に煮物をいくらか盛り、箸をもって階段を上っていった。



「こないだ、あんまりよくない結果になった仕事があって。そのとき、方法に違和感があったので、今日は別のやり方を提案してみたんです」
 やはり自室の机の前で気落ちしていた様子の伊作を目にし、踵をかえそうとした雑渡は伊作に呼び止められ、彼の前で勝手気ままに、机上に積み上げられた伊作の本を手に取って開けるなどしていた。難しくて内容はよくわからなかった。伊作はそんな雑渡を見てむしろ少々心が軽くなったのか、ぽつぽつと昼間の出来事を話しだした。
「でも、それはまだ正当であることがわからないから、もちろん採用してもらえなくて」
 きちんと説明できなかった自分が、ちょっと悔しかったんです、と伊作は続けた。雑渡は開いていた本をぱたんと閉じ、元の場所に戻した。
「……もう、こういう時代だから、既存の論理より先に、今にきみのほうが結果を出してしまうようになると思うけどね」
 これまでとは違う技術で、そのうちに成果がものをいうから。心配しなくてもね。と雑渡は言った。
「もしひとりでは実現が難しい場合も。伊作くんがどういう環境で働いてるのかわからないけど、そのうちきみのまわりに、伊作くんのやりたいことを実現するのに必要なスキルをもったひとが集まってくるよ」
 雑渡を見つめ返す伊作の大きな双眸は、少々赤らんでいた。自らに関することにおいて涙をみせないところは我慢強い彼の性だろう。ありがとうございます、と伊作は礼を言った。そして、雑渡が脇に置いている小鉢と箸に目をとめた。
「雑渡さん、それは」
「なすと車麩のお煮しめ。冷やしてあるの」
 雑渡はなすを箸でそっとはさんで持ち上げ、はい、あーんと伊作の目の前に差し出した。伊作は少々躊躇したが、恥ずかし気に口を小さく開けてなすを自らの口の中へ迎え入れて咀嚼する。
「おいしいです」
 暑さにやられた身体にしみますねぇ、と伊作は顔をほころばせた。雑渡も、んふ、と面映ゆそうに笑った。
「……こないだね、父の前で、きみに料理がうまいって言ってもらえてうれしかった」
 そのほかのことばも。ありがとう、と雑渡は小鉢を伊作の机の上においた。うれしかったし、きみは臆せず意見が言えてすごいよ、父もほめていたよ、と付け加えれば、いえ、本当のことを言っただけですから、と伊作はなんでもないことのように手を振った。むくむくと食欲がわいてきたのか、伊作は自ら箸を取ってもう一口、今度は車麩をほおばった。
「雑渡さんのお父さん、かっこよかったですねぇ」
「ちょっと、私は」
「雑渡さんもかっこいいですけど、なんか少し意地悪そうというか。お父さんは、正統派のハンサムでしたね!」
 つまるところ自分は正統派ハンサムでない、あげく意地悪そう! それを言うなら実際の意地悪は父のほうではないか、と内心抗議しつつ、ショックをうけている雑渡をよそに、伊作は空になった小鉢をもって立ち上がり、この時間ですけどお夕飯食べたいですと腹を鳴らした。



       ☆



 寝相もここまでひどいといっそ気持ちがいい。週末の午後、雑渡はまたいつものきまぐれでおやつをこさえたので、家の中にいる伊作を誘いにきたのだが、伊作は自室のど真ん中で、腹を出して眠っていた。古びた扇風機が「弱」で首をふりながら伊作の腹を冷やしている。雑渡はおせっかいかなと思いつつ、扇風機を伊作から少し遠ざけた。それでも惜しげもなくさらされている彼の腹が気になったので――うっすらではあるがちゃんと筋肉がついている、などとちょっと見てしまった――、シャツの裾をひっぱってやろうとしたが、なんとなくそこまでするのは気が引けて、そばにまるまっている小さめのタオルケットをかけてやった。
「……」
 そのまま引き返すべきなのだが、口を半開きにしてしあわせそうに眠る伊作の顔を見ていたら、なんだかもう少し見ていたくなってしまった。先日もそれで伊作を驚かせてしまったが、雑渡はその場に横座りした。伊作はくうくうと赤ちゃんのような寝息をもらしている。

 『雑渡さんはそれをご存じなんです!』『説明できなくて悔しかったです』――。雑渡はここのところ連日のように見る、彼の意志の強い瞳を思い出す。彼と一度しか会っていない父も、伊作のことを絶賛していた。人のことをほめることの滅多にないあの男が、である。自身の信念に基づき妥協を許さず懸命に働き、休日は糸が切れたように眠る。まったくもって健やかそのものの、好青年ではないか。えらいな、と雑渡は純粋にそう思う。
 雑渡は、不動産関連会社の新規事業部門から立ち上がった新会社の社長だった。だが所詮は、甚兵衛が社長をつとめる本体の会社に出資されている子会社にすぎない。この家も、もとは雑渡の父個人の持ち物だったのだが、経営不振に陥ったところで甚兵衛に買収されてしまい、いまはたまたま、雑渡が事業のひとつとして運営を任されているわけであった。運営方針に不満はあって、自分の本当にやりたいことは未だできずにいるが、独立するほどの覚悟もない。そんな宙ぶらりんの自分とは大違いだな、と雑渡は伊作の寝顔を見つめた。
 来るもの拒まず去るもの追わず。自分は身動きが取れない。縁があったらまた会おう。仕事も人間関係もそんなだから、付き合っていた女ひとたちにも、夢の中の恋人にすらも捨てられたのかもしれないな、と思う。
 ふと、いまは赤ちゃんのような顔で眠っているこの青年にも、愛するひとがいるのだろうか? と思い至った。伊作がもてるであろうことは容易に想像がついた。一度だけ彼の親友だという男がこの下宿を訪れたことがある。歌舞伎役者のような面立ちの、美しい男だった。伊作は彼のような鋭さはないが、優しく整ったその顔も中身も、さぞかし好かれるにちがいない。伊作にもきっと色欲があって、と思考が脱線しかけたところで不埒な考えを振り払い、雑渡は立ち上がった。






「あれ、お団子」
 昼寝から目覚めた伊作は、居間の食卓で、大皿に盛られた大量の団子――さながら月見団子だった――と、ホーローの小鍋にこれまたたくさん作られたたれを目にし、まばたきした。
「今度はケーキって」
 言ったのは、まぁぼくなんですけど、と伊作は椅子に腰かけた。
「いいでしょ別に」
 こないだきみと食べたらおいしかったから、自分でも作りたくなったんだよ。上新粉でつくる手作りのお団子、歯ごたえがあっておいしいよ、と雑渡は伊作に背を向けたまま、鍋の熱湯の中から浮き上がってきた団子をすくっている。まだ大皿でもう一皿分、できるらしい。






【テーマソング】
・ジャクソン5「帰ってほしいの」
 歌詞の「帰ってほしい」は意味が違うんですけど、雑渡さんがお父さんにさっさと帰ってほしい気持ちをこめて
 それから、伊作くんに彼女がいるのだろうか? と雑渡さんが想像するくだり
・miwa「ヒカリへ」
 それぞれ目指すものがいまはぼんやりとしているが、確実にある雑渡と伊作
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